第二十二話 そのタイミング
ある日のタクヤの自室―、
灯りは付けずに暗いままで、タクヤは毛布を体に巻いてゲーム、『The battle begins on the farm』の電源を入れていた。チャット機能を使い、タカヒロに連絡を入れる。
『拝啓――、タカヒロ殿 暦の上では冬となり、朝夕はだいぶ肌寒くなってきました』
「あっ! ヤバッ、エンター押しちまった! まだ本文書いてないのに……!」
「ピロリロリン」
タクヤがあたふたしているうちに、タカヒロからの返信が来た。
『なに意味不明にかしこまってんだ? ココだと他のヤツらにも見られるから、電話で話そう』
タクヤ家の携帯の電波は悪いらしく、タクヤは外に出てタケヒコに電話を入れた。
「よっ、タクヤ。フリーター生活、頑張ってるか?」
「タカヒロぉー、聞いてくれよぉー(涙)」
タクヤはタカヒロに対して、コトの本末を涙ながらに話した。
「あちゃー、そりゃ、タクヤには脈ナシだな」
「うぅぅー(涙)」
「それでなんだって俺に? 俺が何かできるのか?」
「あっー! 自分は相手が居るって、ノノが居るってヨユーこいてんな!?」
「ああ、そういうコトか。彼女持ちの俺に、相談したい――、と」
「うぅぅー(涙)」
タカヒロは電話越しに髪を掻き上げながら、フーと、溜め息をつき、言った。
「でもよぉ、タクヤ。俺はその娘の情報、殆ど知らないんだぜ? 的確なアドバイスができるかどうかは別として、まずはその娘の情報をもっとくれよ」
「あ、ああ。か弱くて、頑張り屋で……少しお嬢様入ってる様な……」
「お嬢様?」
(タカヒロの妄想)
「オーッホッホッホ!」
(タカヒロの妄想終了)
タカヒロは顎に手を当て、暫く考えた。そして渋い顔で小声になって答えるのだった。
「わりぃ、タクヤ。その手のタイプは、俺の専門外だわ」
「!」
「でもまあ、言えるコトはその娘が、ケンジってヤツともっと仲良くなる前に告白してみるのも手かもな。変な話、逆にその二人が仲悪くなった時に告白するのもアリっちゃアリだが、うーん。山の天気と女心は変わり易いって言うしな。タイミングを見計らって、当たって砕けて見ろ! 俺はそうして来た」
「! あ……」
「ん?」
「ありがとう、タカヒロ……。どうなるか分かんねーけど、ひとまず、タイミングを間違えない様に、当たって砕けてみるわ」
「おう! 頑張れ!!」
「じゃあな」
「ピッ」
タカヒロとタクヤ、二人の通話は終わった様だ。息が白くなるくらいの、乾いた夜に空を見上げてみる。
「あーあ。流れ星、出ねーかな」
タクヤは一声、漏らした。
次の週の週末、例のゲーム内で――、
『ヒット! ゴブリン2、HP:0/347、ゴブリン2は倒れた』
『ヒット! ダイスライム1、HP:0/999、ダイスライムは倒れた』
『ヒット! ――、HP:――、――』
ケンジは大車輪の活躍を見せつけて、パーティを引っ張って行く。そんな中、
(ほわーん)
シャナは只々、ケンジに見惚れていた。
(ケンジさん……、強くて……カッコイイ)
その横でタクヤは、
(あああああああああああああ!!!! 声にならない声が聞こえてくる!! 何時まで経ってもいいタイミングが訪れる気配がねぇ!! クッソぉぉおお!!)
翌日――、
(ほわーん)
更に翌日――、
(ほわーん)
「げっふ! うぉっふ!!」
『タクヤ、HP:0、タクヤは倒れた』
「えっ? ちょっ……タクヤさぁーん!!」
シャナは一人、叫んでいた。更に更に翌日、タクヤはバイト先のコンビニに居た。
「ピロリロリン♪」
「いらっしゃいませ!」
「ぃらっ……ぃらっ……」
元気よく挨拶をする、アルバイターミツシゲだったが、その横でタクヤはメデューサに睨まれた岩みたいになっていた。
「ほげー……」
「ちょっと! タクヤ君!!」
まるで気持ちがこもっていないタクヤを、店長が見過ごすコトは無かった。
「事務室行くよ。ミツシゲ君、ちょっとの間、一人で頑張って!」
「ハイ! 任せてください!!」
かくして、タクヤは店長に叱咤激励を受ける(?)コトとなりそうだ。