第二十話 古の三角関係
タクヤ達のパーティは、『暗闇の洞窟』を探索していた。
先頭にケンジが松明を持ち、その次にタクヤが特に何も持たず、更にその次にセルジュが明かりの灯る杖を持ち、最後にシャナが何も持たずに歩いていた。
ポツンと、シャナの左肩に、洞窟の天井から雫が零れ落ちた。
「キャっ!」
「どうした!? シャナ!!」
「あー。大丈夫だよ、タクヤ♪ 水滴が落ちてきただけみたい」
「フン! その程度で大声を出すな、鬱陶しい」
「ご……ごめんなさい、ケンジさん……」
セルジュがシャナの方を振り向いて、ひそひそ声で話し掛けた。
「シャナちゃんてさ、私と同じニオイがするんだよね♪」
「? シャンプーですか? コンディショナーですか?」
「ズコー」
セルジュは盛大にズッコケた。
「今度は何だ!?」
「あー、何でもないよ♪」
「?」
シャナは未だにはてな顔で、セルジュの言わん事を理解していない様で――、
(このタイプかぁー♪ 私よりは大分ズレてるなー)
セルジュも舌を巻いていた。
突如――、
「キキー!!」
ガーゴイル達がパーティの後方から襲ってきた。
「ヒッ!!」
シャナは悲鳴さえ上げるコトもできずにいた。
「キキー!!」
「キキー!!」
ガーゴイル達がシャナを襲おうとした瞬間――、
「スパッ」
「サシュッ」
ケンジが光の剣で、タクヤは銀の槍でガーゴイル達に斬撃を食らわせた。
「キッ……!!」
「キー……!!」
『ガーゴイル達を倒した』
「おお♪『ステータス差における1ターンキル』、だね♪」
『シャナLvアップ22→24』
「あ……ありがとうございます! ケンジさん、タクヤさん……助けていただいた上、レベルも上げてくれるなんて……」
「勘違いするなよ?」
「え?」
ケンジはずいっと顔をシャナに近付けて言った。
「お前がどん臭い戦い方をしてるのを見るのが嫌だったからさっさと倒したまでだ。感謝される筋合いは無い!」
「悪い、シャナ。アイツってああいうヤツだからさっ。ちょっとキツイ言い方しかできないって言うか……」
タクヤが軽くフォローを入れていたが、シャナの脳内は……。
(こんなにも近く……男の人が顔を近付けて……)
『勘違いするなよ? お前が……嫌だったから……倒したまでだ』
(私がいつものように盾にされるのが嫌だったからガーゴイル達を倒したまでだ? 私のコトを……想って……?)
シャナ‘s Earでは脳内音声変換されたケンジのセリフが鳴り響いていた。タクヤの声は全く届いていない。
シャナは溢れ出る雫で両目を潤わして言った。
「あのっ! 上手く言えませんが……私、頑張ります!」
「!!」
その健気な姿を見たタクヤは心を奪われて、中学時代の初恋の相手のコトを思い出していた。
(回想)
教室――、
「今回の定期試験の成績トップは……及川さんでーす!! おめでと!」
「すごーい」
「やるなぁ」
「さっすが」
及川が勉強で優秀な成績を修め、周りからちやほやされていた。その様子を見ていたタクヤは……
(ケッ! ただ勉強ができるってだけでどーしてそんなに評価されんだ。大人になったら連立方程式なんて、使う機会ねーよ!)
1カ月後、体育館にて――、
『全日本中学柔道選手権大会県予選にて、及川さんが優勝しました! 表彰授与式を行います』
「なっ!?」
タクヤは、体育館内で声を出して驚いていた。
(勉強も……部活も……これが、文武両道……!?)
及川の姿を目に焼き付ける。及川の姿はキラキラ輝いて見えた。
(勉強も部活も……頑張ってんだなぁ……頑張り屋さん……なんだなぁ。及川さん……)
(回想終了)
「あのっ! 上手く言えませんが……私、頑張ります!」
「シャナ……!」
「!?」
タクヤはシャナに近付き、両手を握って言った。
「俺は、頑張り屋は嫌いじゃないぜ? 自分のペースで良いんだ。しっかり、頑張って行こうな」
「えぇっ? あっ……ハイ(手が湿ってる……)」
タクヤは高校球児時代の新陳代謝の良さから来る、自身の手汗の量を知らない。
(おやおや♪ コレは……)
「ツーン」
「ぽわーん」
「にへらにへら」
(古の、三角関係というヤツですな♪)
セルジュはパーティの様子を俯瞰的に見て、にやにやしていた。
三人の恋物語は、誰一人として、成就しそうにない。