第二話 魔剣士、ケンジ
「と……10日」
「そうだ、10日だ!!」
呆気にとられるタクヤをよそに、ケンジは、今度は腕を組み自慢気に振る舞ってきた。
(お……俺らの旧パーティは、1カ月よりも時間掛かったのに……1週間ちょいで……?)
タクヤは膝から崩れ落ち、両手を地面に着いていた。
「お前はどれくらい掛かったんだ? 2カ月か? たった今クリアしたてホヤホヤか?」
「ぐぬぬ……言えない……」
「アッハハハハ! 恥ずかしくて言えないくらい時間が掛かったんだな? そうだろ? そうに違いない!!」
「ぐぬ…… 魔剣士ケンジめ……! 魔剣士? ぷっふっ」
「? どうした? 何が言いたい」
急に吹き出すタクヤに、ケンジは疑問を持ち、問う。ニタァ……と凶悪な表情を浮かべながら、タクヤは続けた。
「魔剣士ケンジ、まけんしけんじ、マケンシケンジ……ぷふぅッ! 韻を踏んでいるのか、お前は? ラッパーか? オイラの名前はマケンシケンジ、10日でクリア、したんだYO!!」
「!!!!」
マケンシケンジは痛いところを突かれ、顔真っ赤になった。
「てっテメー!! 密かに気にしてたコトを!!!!」
「あにー? わざと、ツッコミ待ちでその役職と名前選んだんじゃなかったのか?」
「ち! げ! え! よ!! ゼトの日誌読んで、攻略しやすそうな役職にジョブチェンジして、名前は……本名から付けたんだよ……」
始め大声だったケンジだったが、尻すぼみに語尾が弱くなっていく。
「あにー? 聞こえね(笑)。じゃあな、マケンシケンジ」
「待て!!」
「?」
ケンジは、遂に腰に装備していた剣を抜いた。
「さんっざんコケにしやがって……タダで済むと、思うなよ!」
「フ……そうかよ。なら……ドラコ!」
タクヤは、手の指で輪っかを作り、口に当て、ヒューと、口笛を吹いた。
「? 何だ……?」
ケンジは呆気にとられ、頭にはてなマークがお似合いな程、首を傾げていた。3秒も掛からないうちに、3時の方角からい1匹の龍が飛んできた。
「キュウゥゥウウ!!」
「な!? アレは……。お前、まさか――」
「そう、そのまさか」
タクヤは、その龍に飛び乗り、グッと右腕で槍を構えて、言った。
「俺はタクヤ。役職は、ドラゴンマスターやってんだ」
ケンジは数秒、目を丸くしたが、すぐに冷静な笑みを浮かべて言った。
「まさかお前が上級役職の、ドラゴンマスターやってるなんてな。その実力、見せてもらおうか……」
「おう! 望むところよ!!」
2分後――、
「ぐえー」
「キュー」
『タクヤ、HP:0 /273、タクヤは倒れた』
タクヤとその乗っていた龍は、目を×印にして倒れていた。
「ッハッハ! 俺のっ……勝ちだ」
一方でケンジは肩で息をし、ゼイゼイと息を切らしながら両手を組み、立っていた。
「ぐえー」
「……」
タクヤの様子に見かねたケンジは、アイテムをタクヤに対して使ってやった。
『アイテム――、復活の薬草、タクヤは復活した! タクヤ、HP:205 /273』
「っはー!! 久々目の前真っ赤だったー。ん? なんで俺、復活できたんだ?」
「……」
体力が回復し、元気に声を上げるタクヤに対して、ケンジはだんまりだった。
「! まさかお前、復活の薬草を……?」
「だったらどうした?」
「まぢ……なのか。それならひとまず礼を言おう。サンキュな」
「! ――、れ、礼など要らん。ただの気まぐれだ」
ケンジは頬を赤く染めていた。
「? 何か様子が変だな。まあいっか。俺はこれから、このゲームの『冬』要素を満喫するつもりだ。ケンジは?」
「俺はこのゲームの殆どのプレイ内容をクリアしているから、暇つぶしにログインしただけだ」
「そっか。じゃあケンジ、暇つぶしついでに、俺のパーティに入ってくれないか? 前一緒にプレイしていたヤツらは社会人で忙しくて、もうパーティ組めないっぽいんだ」
「し……、仕方ねぇな。それならパーティに入ってやる」
『ケンジが仲間になった!』
――、
「まぁ、何と言うか、始まりの村に久しぶりに来たらこんなヤツが居るなんてな。しっかしお前ってホント弱いなー。やっぱり、レベル99のチーターにおんぶにだっこだったんだろ?」
「ち……チート級の仲間がいたけど、俺も立派な戦力だったの! 信じてくれよー」
ケンジとタクヤは会話しながらとある場所へと歩いた。“そこ”へ辿り着くと、タクヤは顔を30度程上げ、言った。
「着いたぞ」
「着いたな」
ケンジも淡白にタクヤへ返した。そこは、離れの展示場だった。
「ホストを変えて――と。入るぞ、タクヤ」
「へいへい……ってお前、見た感じ高校生か大学生くらいの歳だけど何歳なんだ? 俺より年下だったとして、その態度はどうかと思うぞ。因みに俺は20歳な」
「……」
「……ん?」
「俺は……」
「何歳なんだ?」
「19歳……大学生だ……」