第十話 旧友
「いらっしゃいませー!!」
ケンジとの遭遇から明くる日――、タクヤは勤め先のコンビニでアルバイトをしていた。
暫く働いていたため、苦手だった郵便物に関する業務、覚えられなかったタバコの種類の把握、等の業務も、人並みにこなすコトができていた。――、
「今日もお疲れ様ー、タクヤ君」
「あっ、ミツシゲ先輩。お疲れ様です!」
「明日から連休かい? 良かったねー」
「あはは、でも年末年始はカレンダーによっては休みなしっス」
「コンビニ店員の宿命だねー。じゃあ、また来週!」
「はい! また!!」
業務後、タクヤは家路を辿る中、考え事をしていた。
(土日休みで、祝日出勤して今日まで来たけど、果たしてこのままでいいのだろうか……?
将来、このままバイトだけで暮らせていけるのだろうか……?
病気になった時の備え、国民年金は誰か払っていただろうか……?)
不安は尽きない。
不意に、タクヤは頭をぐしゃぐしゃっとした。
「あー! 考えたくねーコトばかりだぁああ!! 1年! あと1年経ったらケジメを付けよう! それまでこのままでいーや(笑)」
男タクヤ、齢20歳。
まだまだ未来ある青年。将来のコトは暫く後回しだった。
――、
タクヤは実家に着き、一目散に夕食を食べ、自室の二階に上がった。
「今日はどんな感じかなーっと」
タクヤはゲーム、『The battle begins on the farm』のチャット機能を使い、ケンジに連絡を入れた。
『お疲れケンジ! 今日はプレイできるか?』
およそ5分後――。
『悪い、タクヤ。今日はボーリングとダーツ、カラオケでオールするから、明日の午後にしてくれ』
「……」
タクヤ、絶句。
『分かった、こっちも忙しいときに悪かったな』
「……」
タクヤはそっとゲームを閉じた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
タクヤは頭を抱えながら転がり回る。
「大学生って! そんなだったのかぁ!? 俺も大学行けば良かったぁぁああ!! どうせブラック企業入ってドロップアウトしたしぃいい! 金と学もねぇけど!」
3分後――、
「ハァッ、ハァッ……クッソ!」
タクヤは冷静さを取り戻し、転がり回るのを止めた。ゲームを再び立ち上げたのち、チャット欄をよく見ると――、
『タケヒコ、ノノ、セルジュ』
かつての仲間のアイコンが、確かにあった。タクヤは堪え切れず、かつての仲間達にチャット機能を使って連絡した!
『できればでいいから、少しでもいいから、また一緒にこのゲームプレイしてくれないか……?』
翌日の午後――、
タクヤはVRゴーグルを装着し、例のゲームの電源を入れた。
「――、シュタッ!」
タクヤは前回のセーブポイント、始まりの村に降り立った。
「うー、タクヤぁー」
「!?」
声のする方へ顔を向けると、そこにはケンジが居た。
「タクヤ、結局昨夜は寝れず、今朝も晴れで明るかったから寝られなかったー、キツいー」
「ぬららー」
ケンジが事前に牧場に立ち寄ったのか、ダイスライムも居た。タクヤは溜め息交じりに言うのだった。
「はー、お前なぁ……でも、ログインしてくれてありがとな……(タケヒコ、ノノ、セルジュ……今の俺には、ケンジが居る。さらば……)」
と、ここで――、
「シュイーン」
「!?」
始まりの村に眩い光が――、
「シュイーン」
更に光がもう一つ。そしてそれぞれの光の中から、ヒトが現れた。
「やっほー、タクヤぁ♪」
「お久しぶりです。タクヤ君」
「セルジュ……ノノ……!」
タクヤは驚きの色を隠せないでいた。次いで、セルジュが口を開く。
「私より先にログインするのは初めてだね、タクヤ♪」
「セルジュ……お前……」
「タカヒロ君とのデート、休日出勤で潰れたから来ました!!」
「ノノ……お前まで……(あ、タケヒコ(タカヒロ)だけ仕事なんだ……)」
「ぶえっくしゅん!!」
タカヒロの職場――、
タカヒロは盛大にくしゃみをしていた。
「タカヒロ君、風邪かい? 気を付けてね」
「あ、大西先輩。ありがとうございます(……何で俺くしゃみなんかしたんだ?)」
再びゲーム内にて――、
「タクヤ……コイツら誰?」
ケンジは一人、首を傾げていた。