第一話 ただいま、お久しぶりです
冬――、
「よーし、ここにあったか。あれから何ヵ月ぶりかなー?」
タクヤの実家の自室にて、タクヤはゲーム『The battle begins on the farm』をガサゴソと、段ボールの中から取り出すのだった。
本編でも主人公だったタクヤ、外伝でも主人公を務めるコトになる。
どうやら、このゲームをクリアして、暫くプレイせずにしまっておいたのを、何のきっかけか、再びプレイする気になっていた、タクヤだった。
「春と夏は堪能した! 冬の季節がこのゲームにあるなら、どんな風景か! 見せてもらおう、そのグラフィックを!!」
きっかけやら理由はそれか。ともあれ、VRゴーグルを装着するタクヤ。意気揚々としており、鼻から息を荒げている。ゴーグルを付け、電源を入れるとウィーンと、ゲームが起動した。ゲームのタイトルロゴが目前に浮かび上がる。
「The battle begins on the farm……よし! バグなしでちゃんと動く!」
目の前の光景が光輝きだした。次いで、タクヤは(ゲーム内で)青く広がる大空を飛んでいた。
「前も見てたけど、すげっ!」
無尽に吹く風や目下に映る緑を身体一杯に感じながら、タクヤは大空から降下していった。遂には、タクヤは陸地に降り立った。
が――、
「ここなんだよなぁ」
そこは実家だった。
「母屋も離れも、健在健在。そうだ! セレクトボタン押してみよう」
タクヤは不意に、自分のステータスや現マップの状況を確認したくなり、ピッとセレクトボタンを押した。
『タクヤ:Lv45、HP:273/273』
「おーし、レベルもHPも、最終戦の時とおんなじ、下がってない! 現マップは……!!」
タクヤは表示画面を隈なく調べる。すると――、
『始まりの村、季節:冬』
表示は冬と、なっていた。
「冬ぅぅうう!? 新要素、ktkr!! こうしちゃいられねー! さっさとセレクト画面から戻っ……」
「るっせーな」
「!?」
タクヤがキャンセルボタンを押すか押さないかのところで、聞きなれない声が、近くからしてきた。
「誰だ!?」
タクヤは声のする方向を向いた。するとそこには、赤を基調とした服に鎧を纏い、一振りの剣を帯刀した男が、タルの上に座っていた。
「なーに一人ではしゃいでんだ? ガキ臭え。それに名前を問う前に、まずは自分から名前を名乗るのが、礼儀なんじゃねーのか?」
「!? んだと? お前のほーが、礼儀の無い口調じゃねーか! せめて丁寧なタメ口ききやがれバーカ!!」
「あン? やんのか、この俺と!!」
「やってやろうじゃ……ん?」
タクヤが抗戦しようとした瞬間――、
始まりの村にちらほらと、肌に落ちては消える結晶が舞い降りてきた。
「あっ! これは……!!」
そう、ゲーム内で雪が降り始めたのだ。
「雪だー!! 前回プレイで見つけられなかった冬要素! 早速発見できたぞー!!」
はしゃぐタクヤをよそに、男はフーと、ため息交じりにぼそりとぼやいた。
「この程度のコトで……。ホントガキだな……」
「ゆっきだ! ゆっきだ! やっほーい!!」
それでもタクヤはお構いなしにはしゃいでいた。
「コラ!! 無視すんな、クソガキぃ!! ん? お前、前回プレイって言ったな?」
「? 言ったけど何か?」
タクヤはやっと男の方へと顔を向け、言葉を返した。
「まさか……ストーリークリアしたのか……? そんななりで――」
「したけど、何か?」
(えええええええええええええ!?)
男は顎が外れる際まで口を開けて驚愕した。
「ま、まあアレだろ。レベル99くらいのチーターに、おんぶにだっこでクリアさせてもらった、レベル20くらいの雑魚なんだろ、お前は」
「レベル45だけど。最後の一撃俺が放ったんだけど」
(えええええええええええええ!?)
男は再び顎が外れる際まで口を開けて驚愕した。
「そ、そんなウソ、セレクト画面確認すりゃ、すぐにバレちまうんだからな!! それ、ポチッと」
男は、そちら側のセレクト画面を開く。すると――、
『タクヤ:Lv45、HP:273/273』
(!!!!)
男は現実を目の当たりにして、絶句した。
(レベルも、HPも、それなりかよ……)
「! そっか」
男が意気消沈していると、タクヤは何かに気が付き、こちらもと、セレクト画面を開いた。
「俺もセレクト画面開いちゃうもんねー。これで名前が分っかるーっと」
タクヤは目を凝らし、セレクト画面を見た。
『魔剣士、ケンジ:Lv50、HP:301/301』
「っは!! HP、300!?」
「それがどーした?」
気を取り直したケンジは、自慢することもなく平然と構えていた。
「俺は! このゲームが発売して! 10日でストーリークリア、したんだよ!!」