88話 気に入らないヤツは殺す
憎むべき上層部が消えたことで、残された兵士たちの生活環境が良くなったかというと……そんな事もない。
絶対的上位者がいなくなり、「気に入らない奴は<天国と地獄フロア>へポイ!」という理論が確立された本陣では、彼らの罵り合いが始まったのだ。
『おぃ、そのポーションは俺のものだ! 後から入ってきたテメェが、我が物顔で取るんじゃねぇよ!』
『ふざけんな。元々お前のポーションじゃねぇだろ!? こういう時は、先に懐に収めたヤツの物なんだよ』
思いのほか医療物資が少ないことや、上層部用の高級食材が限られていたことから、暴力による物資の取り合いが起きているところもある。
この調子では、ダンジョン攻略など夢のまた夢だし……そのうち殺し合いに発展して、自販機を消滅させるまでもなく自滅するんじゃないかな?
「争ったところで状況は悪化するだけなのに、なぜ皆ケンカするんだろうね〜。聖女さんやコンダック准将をはめる時は、仲良く協力していたのに」
兵士たちの醜いさまを見て、人間の怖さを理解しているサーシャも顔を引きつらせている。
「まぁ……"人"は元来争う生き物だし、共通の敵が消えたあとは、互いに潰し合って自滅するものだよ」
誰だって、"他人の命"を救うために"自分の病気"を治せるアイテムを諦めて、砂漠の真ん中で野垂れ死にたくはないさ。
その後もダンジョンの改造案を考えながら、討伐軍・本陣の様子をチェックしていると、健康な兵士たちが感染者を次々と殺し始めた。
また……夜中に気に入らないヤツの寝首を刈ったり、財産を奪う人間も現れており、地上部は<天国と地獄フロア>以上の地獄と化しているよ。
ダンジョンの支配領域内で殺人が起こった場合、それは「魔王が人間をそそのかした結果」となり、功績としてカウントされるから……
不定期ミッション<殺戮ポイントランキングで上位に入れ>の順位もグングンと上がり、「報酬Get!」圏内である30位に食い込んだ。
12位:恵のダンジョン(723,5698P)
13位:未設定のダンジョン(723,5698P)
このランキングは公開されているため、僕とサーシャが同盟を組んでいることはバレちゃったけど、順位下位となりペナルティーをくらうよりマシだ。
“ルーレット”や”汚物攻め”といった、珍しい特徴も似ているから、<未設定のダンジョン>のウワサが広まった時点で分かる事だしね。
「よしっ、この亡骸が保有していた物資は回収できるな。コッチの男もOKか」
僕としても、この機会にできるだけ多くの物資を回収したいと思っているので、ダンジョンの運営ルールに従って、死後1時間以上たった者の遺品を奪う。
遺体ごと回収するとダンジョン内で疫病が流行りかねないし、魔王を「共通の敵」と認識した兵士たちが、再び手を組む可能性だってあるので……
回収するのは現金と価値がある小物、発見されていないポーションだけ。
温度調節付きのマジックテントや、数打ちの剣などは、地上部から人が居なくなった後まとめて頂くよ。
「マスター。リャクダツシタ、ブッシノショウドク、カンリョウシマシタ。ツギノ、ゴシジヲ、クダサイ」
「ゴーレム君ありがとう。消毒し終わった物は、いつも通り数を記録して倉庫へ運び込んでくれ。後でまとめて確認するから」
「カシコマリマシタ」
当然、回収した物資の消毒は徹底している。
かなりの高確率でヤバイ菌が付着しているし、ゴーレムやスカベンジャースライムに任せておけば、24時間体制で処理してくれるからね。
ケンカに勝った兵士が奪っていくことも多いから、全ての貴重品を回収するのは不可能だけど……ぶっちゃけ、死体泥棒だけでウチの財布はホクホクだ。
その後も数日間、泥棒しながら討伐軍を監視し続けた結果……
地上部にいた数万人の兵士は、数百人の”生き残り”を除いて屍となり……生き残った兵士たちも、持てる物資を抱えダンジョンから去っていった。
他者への不信感からか、チームで動こうとする者は極少数だったため、地図を読み解き生きたまま街へたどり着けるのは良くて50人だろう。
「メグミ君、逃げる人達を放置してよかったの? 各国の政府に、コチラの情報を知られる事になるけど」
「うん。数万人の軍隊を、一人残らず屠ったなんて噂が流れたら、勇者が派遣される可能性もあるからね。それならまだ、”自滅した”って教える方がいい」
「あぁ、確かにそうかも。聖女さんと一緒に来られたら、ダンジョンの改造も出来ないから生きた心地しないし」
「そのペア、本当に嫌だよね〜」
去った者達は、街へ着いたら奪い取った高級ポーションで病を癒し、昔と同じ生活ができると考えているんだろうけど……多分、誰かに殺されると思う。
「気に入らないヤツは殺していい」と、好き放題暴れた経験がある人間に、恐れを抱く権力者は多いはずだから。
「さてと……アイテムの回収と地上部の消毒が終わったら、22階層のオアシスフロアと入れ替えしなきゃ! サーシャ、悪いけどもう少し付きあって」
「もちろん! 二人で最後まで頑張ろう!」
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)