85話 原因不明の疫病
〜コンダック准将side〜
スカベンジャースライムによる9階層の掃除が終わり、初めての突破者が出たころ……私の風邪は、さらに悪化していた。
ライバルの武官にこの事を知られると、「休んでいろ」と指揮権を奪われ、手柄を丸取りされる可能性があるため、ポーションを飲み誤魔化しているが……
自然治癒する見込みはないし、そろそろ限界だ。
「ふむ。<汚物フロア>をぬけた先には、ヒュージオイルスライムが待つボス部屋。調子に乗って突撃した兵士は油まみれとなり、10秒持たずに全滅……か」
「はい。ですがBランクモンスターなど、<汚物フロア>の脅威に比べれば遥かにマシ! 相性の良い精鋭部隊を送り込めば、数日で突破できるかと」
「分かった。念のため11階層の探索が終わるまでは、ボス部屋越しに物資を移動させるなよ。8階層の拠点に留め置け」
「はっ!」
「それと、火攻めには警戒しろ。歪みきった魔王の性格を考えれば……自分の配下であるスライムごと、標的を燃やすくらいあり得る話だ」
「かしこまりました!」
部下が去っていくのを確かめてから、手持ちの解熱剤をポーションで飲みほす。
水分を取りすぎるとまた腹を壊して、肛門に激痛がはしるのだが……飲まねば干上がってしまう気もするし、判断に困るところだ。
「ふむ。9階層は私の指揮下で攻略できたから、手柄を奪われる痛手も減った。ならば、そろそろ本気で治すべきだな」
協力中とはいえ、モートランド皇国・サーザンド王国の者に不調を知られるわけにはいかないから……我が軍の医師に診てもらうしかあるまい。
直属の上司へ話はいくだろうが、他国者につけ入られるよりマシだろう。
「閣下、なぜもっと早く受診しなかったのですか!? あと数日治療が遅れていたら、貴方は死んでいましたよ!」
「なんだとっ!?」
軍医が発した言葉に驚いて聞き返すと……私は致死率の高い感染症を、複数患っていることが分かった。
どうりでポーションを飲んでも治らず、眠れぬほど苦しかったわけだ。
私の罹った病気は、ポーションや初級回復魔法じゃ治せないので、「専用の薬」か高級ポーションを使うのが、一般的らしいが……
ここは砂漠の真ん中ゆえ、「専用の薬」など調達できないし、高級ポーションの数も限られている。
もう少し重症化したら、高級ポーションですら効かなくなるため、本当に「死ぬ寸前」だったそうだ。
「閣下ほど重篤化はしていませんが……実は今、兵士の間でも感染者が増えていましてね。明日の定例会議で、議題に挙げようと思っていたんですよ」
「なにっ?」
「潜伏期間から見て、拠点内に発生源があるので。もっとも……ここは貧民が住んでいた場所だから、空気感染した……などという噂も流れ始めていますが」
「いや、流石にソレはないだろ。不衛生な貧乏人が病気まみれなのは事実だが、これだけ期間があいていれば空気感染などしない」
相変わらず学のない兵士は、感情だけで根拠のない与太話をベラベラと。
もし直接、そんなウワサで「軍の士気」を落とす輩を見かけたら……懲罰として、素っ裸で<天国と地獄フロア>へ放り込んでやるわ!
「しかし不思議だな。頭の足りない兵士どもが感染するのは分かるが、なぜ衛生面に気を遣っている私が、一番重症化したのだろう?」
疫病が蔓延した後なら分かるが、常識的に考えておかしい。
ザング熱病・サラリーア・木死病……全て不潔さが原因で感染する、”貴族の私”とは無縁な病気ばかりだというのに。
「はい。私も閣下を診て、さらに疑問が深まりました。そもそも……ダンジョンが汚物を回収するため、この本陣は”街と遜色ないくらい”衛生的なのです」
軍医の言いたいことは分かる。
街に比べると砂が飛んで来やすいが、ペットボトルの中に入っている水は新鮮そのものだし、そこらの平民区画よりよほど清潔だ。
「今後のことを考えると、明日の会議で対策を話し合った方がいいな。それとは別に、幾ばくかの薬を取り寄せておけ! 指揮官が重症化するとマズイ」
「かしこまりました」
「きちんと対処すれば収まるだろう」と思っていた、我々の予想は大きく外れ……今も私は、疫病に悩まされ続けている。
原因も分からぬまま、日を追うごとに感染者は増え続け……ダンジョン攻略どころではなくなってしまったのだ!
一つの病気だけなら、取り寄せた薬を軍全体に行き渡らせ、力技で治すのだが……
複数の病気を持つ者が多いため、ポーションを使っても一部の病気しか治らなかったり、治したそばから他の病気に罹ったり。
正直……予算と物資を圧迫するだけゆえ、「居ない方がありがたい兵士」が大半だ。
仕方ないので、ヒラ隊員が重症化したら即隔離。
そして死んだら、遺体からの二次感染を防ぐため、ダンジョンに吸収させているよ。
今は(上司含む)三国の代表が協議し、各々の祖国へ助けを求めている。
「湯水のごとく金・人・物資を消費し……得たものは僅かな情報と、あまたの病原体か。お世辞にも、”成果”とは言えんな」
疫病が発生したのは上司が合流した後なので、私が責任を問われることはないと思うが、果たしてどうなる事やら。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)