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84話 しのび寄る惨劇の影


〜コンダック准将side〜




 汚物ダンジョンを攻略するべく、「物資の管理」や「指示出し」に奔走していたある日のこと、私の身に悲劇が訪れた。


 世界で一番性格の悪いクズ魔王が、モスキートの群れを使って、我々<討伐軍>の本陣を襲ったのだ。



「ぅっ……クソゥ、なぜ私がこんな目に遭わねばならんのだ。私は悪くない! 何一つ悪くないのに……」


 スタンピードでモンスターが溢れるように、「地上なら絶対安全」というわけじゃない事くらい、もちろん知っている。


 だが、まさか……ここまで卑劣で、人間をコケにする策を使うなんて……。



 19箇所も噛まれてしまった私の身体は、夜も眠れないほどの痒みに襲われ、さらには<ヒステリー聖女>の八つ当たり。


 「クイズ対策チーム」や「幹部見習い」として同行した、次世代のエリート達も……虫がトラウマになってしまい、小さな物音すら怖がり仕事にならない。



「こんなもの、どう”予測しろ”というのだ! 文句があるなら、テメェ等が一人でやってみろ!」


 全て卑劣な魔王のせいなのに、モスキートに噛まれて機嫌を損ねた上官から、目の敵にされた私は……



 軍議で、「下調べが不十分だったのでは?」と罪を擦りつけられてしまい、3ヶ月の減給処分を受けた。


 このまま祖国へ帰れば、次の査定で出世ルートを外され、<伯爵>という身分に相応しからぬ閑職へ回されるだろう。



「いや、まだ決まったわけじゃない。ロマンス・コンダックよ……お前はヴィッチネント貴族の中でも、由緒正しきエリートなのだ! 意地を見せろ!」


 こんな時こそ、落ち着いて「最善の選択」をするべきだ。



 “目に見える成果”を積み重ねれば、騒いでいるだけの上司より言葉の重みが増すし、場合によっては「指揮官としての能力不足」でヤツを飛ばすことも……。


 よしっ、まずは「モスキートの襲撃ルート」特定から始めよう!






 覚悟を決めた私は、モスキートが逃げた方角からおおよその見当をつけ、手の空いている雑兵に「ダンジョンの入り口」がないか調べさせた。


 複数の入り口を持つダンジョンは、そこまで珍しくないし……なかには入る場所によって、上層階の作りが異なるモノもある。


 もしこのダンジョンも似た構造なら、<天国と地獄フロア>に金を落とさずとも2階層へ進め、私の手柄になるかもしれない。



「コンダック閣下! 南東1kmの地点に、ダンジョンの入り口と思われる”拳大の穴”が見つかったそうです」


「…………人間の出入りは?」


「その……。小人族なら辛うじて可能……という、大きさでして……」



「チッ! 仕方ない。従軍させている小人族の奴隷に、穴の中を調査させろ。他の入り口がないかも探すんだ!」


「かしこまりました!」



 結局そこ以外にも、小人族サイズの”入り口”は7カ所見つかったが……いずれもダンジョン内部から蓋をされており、奥へ進むことは出来なかった。


 底知れぬ「魔王の姑息さ」に腹が立つが、今は憤っている時間すら惜しい。


 「別の入り口を使って起死回生……」という案がダメなら、いち早く正攻法で結果を出し、その功績をもって保身に繋げる!






 このダンジョンの存在を知ったとき、ヴィッチネント王国は「9階層突破の策」として、「スカベンジャースライムによる汚物吸収案」を打ち出した。


 貴族家のトイレで飼っている、珍しい種のスライムを9階層へ送り、<汚物フロア>を掃除してしまおうと考えたのだ。



 本来であれば「低ランクモンスターが入れる異空間」を持つ、テイマーの男を潜らせるつもりだったが……


 <クイズ迷路>を確実に突破できる方法が、見つかっていない状況で、レアギフト持ちを危険にさらすのは”論外”だからな。



 4階層までテイマーに潜らせたうえ、スカベンジャースライムを合体させることで、Bランクのヒュージスカベンジャースライムを生み出し……


 其奴へ指示を送って、難所の5階層<クイズ迷路>を突破させたのだ。



 レアモンスターを”一纏め”にするのは、かなりのリスクを伴う賭けだったが……これ以上「ヒステリー聖女」や「ウザい上司」に、責められたくないからな。


 このダンジョン最大の難所であり、全ての元凶である「人糞」をスライムに食わせ、9階層を誰でも通れる状態にした上で、とっとと魔王を殺すべきだ!






「よしよし、上手くいっているのか。この調子で掃除を終わらせ、9階層を素通りできる状態にしてくれよ」


「はっ! 完璧に掃除が終わるまで、あと少しお待ちください!」



 <人>と<金>の消耗が激しいものの、ダンジョン攻略は順調に進んでいる。


 「スライム作戦」が功を奏したことで、私を責める声は少なくなり……このままだと左遷されそうな上司も、「信じていたぞ!」と手のひらを返したのだ。



「しかし……なんだか暑いな。このところ働きづめだし、熱でも出たのだろうか?」


 そういえば、朝から腹の調子も悪かったな。



「ふぅ……決めた、明日まで休養だ」


 部下への指示出しは終わっているし、9階層が通れる状態になったらまた忙しくなるのだ。


 今日くらいは、香り豊かな紅茶でも飲みながら……上司と聖女の横暴を糾弾し、私の出世を確実にするための文章を考えよう。

読んでくださり、ありがとうございます!


この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)

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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)

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