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83話 卑怯な策にかけては世界一




 討伐軍の奴らが日中の仕事を終え、「そろそろ夕食の準備を〜」と動き始めたタイミングを見計らって、業務口から奇襲隊を送りだす。


 奴らは全く気付いていないけど……<恵のダンジョン>の”出入り口”は11ヶ所あり、その内8ヶ所が小型モンスター専用の穴なのだ。



 普段は東西南北に散らばる業務口から、偵察用のイッシャクムカデを送りだし、ダンジョン周りの安全を確かめているんだけど……


 その気になれば、自販機そばの中央口に集まる敵を、グルッと包囲する事もできるよ。



 今回はその造りを利用して、蚊のモンスター10万匹を八方向から出撃させ、「ストレスが溜まる系」の奇襲を仕掛ける。


 まぁ、ストレスだけじゃなく実害も出ると思うけどね。



モスキート

ランク:H

維持費:0.01ポイント/日

詳細:体長1cmほどの蚊。噛まれると痒いが、自然回復する程度のダメージで済む。



 僕が送り出したモスキートは、このとおり殺傷能力皆無の最低ランクモンスターだが……それはあくまでも、通常の飼い方をしたときの話。


 嫌がらせ要員として9階層の<汚物フロア>で暮らし、細菌とともに生きている彼らの身体には、バッチリ”疫病の元”が宿っているのだ。



 モスキート自体は世代交代が早いから、雑菌だらけの場所で暮らしても死滅しないけど……それなりに衛生的な環境で育てられた、討伐軍の連中は違う。


 出撃させたうち1%の1000匹が、兵士たちの肌に針を刺すだけでも、数人の感染者は出るはずだ。



 そして、軍上層部が感染者の対処を誤れば……ね。


 水攻めを行うまでもなく、地上に残っている奴ら全員……疫病で自滅するだろう。



「モスキートは風属性だから、サーシャを経由すれば安く購入できるし、消耗したぶんの補填も楽」


 もし感染拡大を抑えられても、あの「プ〜ン♪」という音に不快感をおぼえない人間はいないから、最高の嫌がらせになるぞ!



「毎度思うけど、僕って本当に性格悪いよなぁ〜。あのクソ指揮官どもが騒ぐイメージだけで、食パン1袋はいけるもん」


 さぁ、我が可愛いモスキート部隊よ……ダンジョンへ仇なす敵に地獄をプレゼントしてこい!






『なっ、なんだ〜!? おいっ、小さな虫が大量に飛んできてるぞ! この音……蚊だ、モスキートの群れだ!!』


『そんなバカな!? モスキートは砂漠にも生息しているが……泉の無いこのダンジョンに、集まるわけないだろ! それに、群れにしちゃ敵の数が多すぎる!!』



『現に集まってるじゃねぇか! いや、待てよ……おいっ、コレたぶん魔王の仕業だ! 魔王がモスキートを生み出し、俺たちを襲撃させたんだ!』


『お前ら……経緯なんてどうでもいいから、さっさとこの蚊焼き払えよ! 痒っ! クソッ……3ヶ所も噛まれちまった』



 10万匹のモスキートに襲撃された討伐軍は、予想どおり大混乱に陥った。


 今もギャーギャーと汚い声をあげながら虫除けの香をたいたり、パチンパチンと手動で蚊を潰しているよ。



 もちろん軍の上層部だって、ダンジョン攻略中に砂漠のモンスターが襲ってくる可能性くらい考えているから、モンスター避けのアイテムも使っているが……


 アレって、E〜Bランクのモンスターが危機感を抱く物だから、最下級モンスターの<蚊>には効果ないんだよね〜。


 ダンジョンマスターである僕の命令すら、ボヤッとしか理解出来ないレベルだから、危機感とかそういう次元じゃないのだ。



「あっ! 聖女が噛まれてヒステリー起こした。コンダック准将が怒鳴られて……おぃおぃ。仮にも聖女なんだから、スカートをまくり上げるなよ」


 ガタイのいい男を杖で殴ったり、護衛の兵士に「3秒で全ての蚊を始末しろ」と言ったり……コイツ、教団で淑女教育受けなかったのか?






 襲撃開始から一時間……日が沈み辺りが暗くなり始めた頃、お腹いっぱいまで血を吸ったモスキート達は、ようやく討伐軍のテントを離れた。


 夜になると砂漠の気温が下がり動きが鈍くなるため、「暗くなる前に帰っておいで」と命じておいたから、それに従っての事だろう。



『なぜワイバーンやガーゴイルではなく、蚊で襲撃してくるんだ! ココの魔王は、他者を愚弄しなければ気がすまない外道なのか!?』


『知るか! それより夜間のシフトを調整しろ。夜も何かが襲ってくるかもしれんぞ』



『というか……モスキートの追尾は行ったのか? 襲撃経路が分からないのでは、第二・第三の悲劇を生みかねない』


『ぎゃあぁぁ〜っ!! お許しください聖女様! お願いですから、毛根ごと髪を燃やすのはやめて……』



 襲撃を受けた討伐軍は、テントだらけの拠点内で火魔法を使えなかったこともあり……思うようにモスキートを撃退できず、彼らの餌食となった。


 奇襲が終わった今も、ギャーギャーと言い争っている奴が多いから……狙いどおり、音と痒みでストレスを与えられたんじゃないかな?

読んでくださり、ありがとうございます!


この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)

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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)

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