82話 仕事を奪われたメグミは……
神殿に見立てたテントへ聖女が入り、中から(明らかに手抜きの)祈り声が聞こえた瞬間、ダンジョン関連の作業ができなくなった。
「ハァ〜! 不幸中の幸いだったな。祈られる前にモンスターの購入を済ませといて、正解だった。マジで、ムカデ一匹買えなくなってやがる」
ダンジョンの改造も、階層の追加や移動といった大がかりなものだけでなく……気温や光度の調整・クイズの追加といった、細かなものまで全部ダメ!
コンダック准将が言っていた、「性格はクソだけど有能な聖女」という評判は本当だったのか。
「とはいえ……<天国と地獄フロア>をはじめ、すでに完成している階層は、いつも通り動いているから……”致命的”って程のモノじゃない」
攻撃を受けて壊れた壁は、設定どおり自動修復され、現金・ポイントの収入もそのまま。
僕自身のギフトで作った自販機も、<祈り>の対象から外れたのか、任意の場所で自由に出し入れ可能だし……
なにより……”祈られる前”に購入したモンスターと、ダンジョン名物の<汚物・ゴミ>は、好きに移動させることができる!
「くくっ。ダンジョンの機能が全て停止し、”祈り”でパワーアップした勇者が聖剣片手に乗り込んでくる……みたいな、理不尽極まりない展開よりはマシだ」
魔王になって、日が浅いうちならともかく……今の僕は、ダンジョンの管理権を縛られた程度じゃ負けないぞ!
<未設定のダンジョン>の管理業務を終え、ご飯を食べにきたサーシャへ……「聖者の祈り」で受けたダメージと、それに対する僕の考えを伝える。
彼女も僕と同じく、聖職者とは関わりのない生活を送っていたから……ダンジョン攻略に特化したギフトがあると知り、驚いていたよ。
「う〜ん。ダンジョンの階層が浅いと、一発で致命傷になっちゃうね。メグミ君の方は大丈夫だけど……私のダンジョン、もう少し深くした方がいいかも」
「そうだね、僕もそう思う。連中から稼いだ金を、<恵のダンジョン>の拡張に充てておいて良かった」
<聖者の祈り>の恐ろしい点は、「階層追加」という魔王の反撃を抑えることで、「物資の消耗」による撤退を防ぎ、狙った獲物を仕留めやすくなること。
つまり……奴らが「今回で潰す!」と思ったときだけ使う、初見殺しの大技なのだ。
事前にこういうギフトがあると知っていたら、魔王は「聖女が来る」と分かった段階でダンジョンの改造を全て終わらせ、万全の状態で待ち構えるからね。
「とりあえず……サーシャはご飯を食べ終え次第、<未設定のダンジョン>の拡張作業を! 僕はもう少し、奴らの動きを観察するよ」
「了解! 疲れたり眠くなったらチャットで呼んでね。いつでも”見張り番”代わるから」
「ありがとう」
<聖者の祈り>で受けたもう一つの呪縛、「モンスターを買えない」については……ぶっちゃけ、同盟を結んでいる魔王ならなんて事ないだろう。
今回の場合、僕は土属性のゴーレムやサンドワームを召喚しにくくなるけど、スライムや風属性のモンスターは、サーシャに代理購入してもらえる。
反面……信じられる仲間がいないボッチ魔王には致命的な楔だから、彼女に同盟を断られていたロミオットが、申請不可期間中にコレをくらった場合……
モンスターが減っても補充できず、敵がコアルームへ近付いてくるのを「ただ眺める」という、地獄の時間を味わう事になっただろうね。
昼食後サーシャと別れ、一人で討伐軍の監視を続けていると……
<聖者の祈り>でダンジョンを縛った討伐軍の上層部は、1000人単位の兵士を<天国と地獄フロア>へ放り込み、本格的なダンジョン攻略を開始した。
「ダンジョンに挑む人数が多い分、1階層を突破する奴らも増えるけど……なんというか……色んな意味でヤバイ!」
合流した本隊の指揮官も、身分主義的な考えや基本的な方針は、コンダック准将と同じなので……
<ウ◯コ砲>に拒絶反応を示すヒラ隊員たちを「貴様ら給料貰っているんだろ? なら働け! 行ってこい!」と、容赦なく地獄へ突き落とした。
それゆえ、「なぜ彼奴らだけ免れるんだ!? 家柄だけのボンボンめ!」と反感を抱いた、犠牲者の怨念が……
ドロドロと1階層全体へ広がり、フロア自体が呪われそうだよ。
指揮官が軍事費を注ぎ込み、力押ししてくれるので……ルーレット代や自販機の稼ぎはエグいし、心折れた脱落者の罰金も相まって収益はガッポリ。
2階層以降で死ぬ人も増えたため、殺戮ポイントランキングの順位が上がるなど、いい意味でヤバイ事もあるけどね。
「とはいえ……受け身になるだけだと、テントの中でふんぞり返っている特権階級の奴らが、”机上の空論”を立てやすくなるから、多少の妨害は必要だよな?」
よしっ、決めた!
聖女によって「ダンジョンマスターの機能」を制限され、時間に余裕が出来たんだから、暇つぶしに奇襲でもかけよう。
敵が心理的負荷を負うわりに、コチラの消耗が少なく……今の状態でも、できるやり方があるんだよ。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)