「メグミ君ごちそうさま♪　可愛くて、すごく美味しかったよ〜」

「あっ、ぅん。その……ありがとうございます。えっと……ご馳走さまでした」

「はい♪」

　獰猛な肉食獣となったサーシャに、3時間ほど食われたあと……気を取り直して、”衣服の自販機”を22階層へ出現させる。

　すると早速一人の男性が気づき、彼が驚きの声を上げたことで他の人々も集まりだして、10分ほどで自販機の周りには人集りができた。

『飯もそうだけど、マジで意味分かんねぇよな〜この”自販機”って箱。盗品だって、こんなに安くは売らねぇぞ』

『現役の冒険者やってた頃より、いい服が着れるとは……。人生、何があるか分からんもんだ』

　穴の空いたボロ布で服を作ったり、コボルトの毛皮を纏っている彼らにとっても、自販機に表示された価格は衝撃だったらしい。

　上下セットだと5000ロル必要になるので、今すぐ全員が買えるわけじゃないけど……

　比較的経済力のある元冒険者や行商人は、さっそくシャツとズボンを購入し、新品の服を着て喜びにひたっているよ。

「ふふっ、彼らが喜んでくれて良かった。”買える人”と”買えない人”が争うと困るし、”オイルスライムの油で石鹸を作るバイト”もお願いしようかな？」

「賛成！」

　石鹸作りは、シルクスパイダーの糸を織るよりコスパが悪く、ゴーレムに作業させると採算が合わないんだけど……臨時で頼む分にはいいよね。

　マニュアル通りやれば誰でもできる仕事だし、ダンジョンマスターである僕達なら材料もタダ同然で入手できるから、作った分だけ稼ぎになる。

　オアシスフロアの人々も、ヒマな時間をお金や衣服に変えられて、喜ぶはずだ。

　彼らに新たなバイトを打診した後、自販機周辺にいる人々の様子を観察し続けると、「衣服の自販機」を利用して一儲け企む男たちが相談を始めた。

『なぁロズバード。やっぱりさぁ、近くの街で売るのはマズイよな？』

『あぁ。最初の頃はいいが……服の出どころを上層部に知られると、着ている奴らが"内通者"として処罰されちまう。新しい服なんざ目立つから、即バレだ』

『たしかに。”食い物”と違って、”腹におさめたら終わり”って訳にもいかねぇからな。基本的には内輪で利用。稼ぐなら、上の連中が追えない遠方で……か』

『おぉ。近場のオアシスで他所へ行く商人に卸したり、茶色に染めてから売りさばけば、権力者の目はある程度あざむけと思うぜ』

『そうだな！　手間をかけても儲かる”仕入れ値”だから、焦らずじっくり販売ルートを確立するぞ！』

　そっか……。

　安いから「無条件で売れる」と思っていたけど、言われてみるとデザインが同じ自販機の服は、権力者に目を付けられやすい。

　彼らが言うように、基本的には内輪で利用し……粛正が起きにくい遠方で、ダンジョンと無関係な人に売ってもらう方が良さそうだね。

「僕が討伐隊の連中に売りつけることで、出処を”貧困層”かどうか分からなくして、粛正出来ないよう取り計らうのもアリかも」

　高額な利ざやを取ったあと、砂漠仕様の"ボッタクリ価格"で売りつければ、それなりに稼げそうだし。

「＜ウ◯コ砲＞と絡めて金に換えるのがいいか、放置して体調悪化を狙ったり、水を買わせて中途半端に洗わせるのがいいか……」

　しばらく人間サイドの動きを見て、その上で結論を出すべきだな。

　そんな事を考えていると、＜天国と地獄フロア＞で苦しんでいた敵の中から、2階層へ進む運のいい男が現れた。

　どうやら彼は、＜幸運のネックレス＞というアイテムを使い……他の兵士へ地獄を押し付ける事で、お尻ペンペン300回・ウ◯コ砲2発で済んだようだ。

　こりゃあ後で恨まれるぞ〜、と思ったら……

『あっ、やべぇ！　汚れを落とすための水、経費で買い忘れた！　つーか、ここからも砂漠……なんだよな？　マジかよ。飲み水も足りねぇぞ』

　さっそく邪神様のバチが当たり、水不足で絶望している。

「くくっ……！　他者に被害を押し付けるアイテムで、自分だけ難を逃れたとて、素の愚かさはカバーできないし、砂漠から水も湧いてこないよ」

　奴らは＜念話＞というギフトを使って、スタート地点にいる連中と意思疎通しているから、次同じミスをおかす奴は現れないだろうけど……

　水を分けてくれる同僚が合流するまでの間、せいぜい「炎天下の砂漠」で干からびて、＜乾燥ウ◯コマン＞になってくれ。

「うん、決めた！　少なくとも今回の襲撃中は、敵に衣服を売りつけたりしない！　身体をふく布があると、＜ウ◯コ砲＞の脅威が落ちちゃうもの！」

　現金は＜天国と地獄フロア＞で充分稼げるし、こういう些細なミスを金で解決できるとなると、それだけでダンジョンの攻略難度が下がるから……

　売るにしても、「恵のダンジョンは攻略できない」と国やギルドに思わせ、軍隊で攻撃されなくなってからだ！

　自販機は今までどおり、オアシスフロアと1階層のみに置き……2階層以降は「ご自由にお帰りください」モードを継続。

　些細なミスや暑さからくるイライラで、協力すべき同僚といがみ合いながら、他者への不満を溜めまくり自滅してもらうよ。

読んでくださり、ありがとうございます！

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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)