70話 サーシャはメグミを逃さない
「ぅん……もう、夜10時…………? そっか……僕、あの後疲れて寝ちゃったんだな」
半日近く目を離してしまったけど、9階層侵入で作動するアラームは鳴っていないから、ダンジョンは通常運転。
報酬に釣られてやってきた冒険者が、オアシスフロアの住人に「ウ◯コマン」伝説を聞かされ、ビビって安全な階層だけチョロチョロしているのだろう。
「……うみゅぅ………め……ふみく……ん…………」
となりで寝言をもらしながら、スヤスヤと眠るサーシャを見る。
乳白色のきめ細かやかな肌と、折れそうな鎖骨……布団の隙間からチラリと見える胸の膨らみは、事後ということもありひどく艶めかしい。
「据え膳、ガッツリ頂いちゃったな。声……エロ可愛かった」
いや、この場合……「僕が食われた」という方が正しいのか?
なんにせよ、まさかサーシャとこんな関係になるなんて。
彼女が起きたら、なんて声をかけたら良いのだろう?
「ぅぅん……? あれ、私…………」
ヤバイ、考えをまとめる前にサーシャが目を覚ましてしまった!
クシクシとまぶたを擦り、小さな声をあげクイッと伸びをする姿はセクシーで、ついさっき発散したはずの欲がまた……
違う、そうじゃない!
しっかりするんだ、メグミ!
今すぐ"ハンストン小隊長のケツ"で煩悩を押さえ込み、彼女に気付かれる前に取り繕え!!
「あっ! …………メグミ君おはよう。さっきは……その、あたたかかったね」
僕が欲望と戦っている間に、"寝ぼけ状態"から意識が覚醒して、コチラの存在を認識したサーシャが……
モゾモゾと布団の中にもぐり、目のところまでヒョコッと顔を出した。
やわらかい表情で笑いかけてくれているけど、彼女の瞳は潤んでおり……
布団からわずかに見える耳も真っ赤だから、(積極的に仕掛けてきたわりには)恥ずかしいのだろう。
「うっ、うん……。サーシャおはよう。その……身体は痛くないかい? 全然気遣えなくてゴメンね」
「ふふっ。ちょっと痛いけど、幸せの方が大きいから大丈夫。ねぇメグミ君……また”据え膳”用意したら、食べてくれる? 私、美味しかった?」
「はっ、ハイ! とても美味しかったです。たださ……本能のままに貪っておいて、その……なんだけど…………。自分の身体は大事にした方がいいと思うよ?」
もし彼女に将来好きな人が出来たとき、僕のせいで悲しい思いをしたら、悔やんでも悔やみきれない。
「ん〜。誰かれ構わず”こんな事”しないから、心配しないで。あのね……メグミ君。私……本当に、子供の頃から貴方のこと好きなんだ」
えっ?
「今日を逃したら、襲撃対応でチャンス無くなると思ったから、殿下を落とすために教えられたテクニックで、色仕掛けしたけど……愛してるのは、本当」
あっ、あの……サーシャ…………?
「男爵家に養女入りする前、まだ孤児だったときに一目惚れしたの。ねぇメグミ君、私……貴方の”理想の女”になるよ」
「…………」
「だからさぁ……お願い。また、"私"を食べて欲しいな」
「わ、分かった! 分かったから。サーシャ、ちょっとだけ時間を……ね! うっ……ウワアァァッッッ!!?」
次から次へと信じられないことが起こり、頭がパンクしてしまった僕は、気のきいた答えなど返せるわけもなく……
すっ転げながらも、火照りを静めるためシャワールームへと駆け込み、キンキンに冷えた水を頭からかぶった。
「くそっ、全然熱が冷めない! 誰だよ! シャワーヘッドの水量、極限まで絞ったヤツは! あぁ僕だ!!」
ウチは"砂漠の真ん中にあるダンジョン"なので、普通の設備を組み込むと高いから、魔法で貯めた水がタンクから下りてくる仕組みになっているんだけど……
「ムダを省くため!」とか言って取り付けた、ジョーロみたいな”手作りシャワーヘッド”の存在を、今日ほど疎ましく思った日はない。
「あの上品なサーシャが、元孤児……? 昔から、僕のことを好いてくれていた? 金もチカラもない、平凡な僕をなぜ……?」
どっ、どうしよう。
情けないことこの上ないけど、経験がなさすぎて、どう対処していいか分からない。
サーシャみたいな"美人で優しい娘"に好かれるのは、そりゃあ嬉しいに決まっている。
だけど、だけどさ……ぼっ、僕はその……自惚れていいのだろうか?
<−−− コンコンッ −−−>
「えっ?」
<−−− コンコンッ −−−>
「…………えっと……サーシャ? ゴメン! まだ心の準備が……その、もう少しだけ待っ」
「メグミ君。私……このチャンスだけは逃したくないから、来ちゃった。ねぇ……お風呂、一緒に入ってもいいかな?」
はぅっ……!!
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)