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55話 盗賊見習いが逃げ出した結果


〜とある冒険者side〜




「この野郎、くらえっ双剣斬!! よし、一人倒せた!」


「コッチも一人殺ったぞ! だが、ヨシュアとバルサークはもう戦えねぇ。サポートを頼む!」


「了解。ガンモン、ハムネスのフォローに回れ!」



 俺の名前はラッセン。


 サーザンド王国所属の冒険者で、Cランクパーティー<銀白牙>を率いている。


 今日は、同期のCランクである<情の灯火>と、合同クエストを受注し……盗賊団を退治するため、目撃情報を頼りに街外れの風車小屋までやってきた。



 今戦っているターゲットの盗賊団<血道>は、サーザンド王国西部に根を張る闇組織<墓狼>の、幹部が率いる厄介なグループであり……


 これまでに分かっているだけでも、100名以上の犠牲者を出している。



「くそっ、ライモンドが殺られた! 一人コッチへ来てくれ!」


「分かった。俺が行く! 皆、もう一踏ん張りだ。絶対勝つぞ!!」


「「「「「「おぉ!」」」」」」



 <血道>の連中は手練れが多く、Cランク冒険者の俺たちにとっては、厳しい戦いだが……ここで引き下がったら、さらに多くの犠牲者が出るんだ!


 なんとしてもこの戦いを制し、俺たちの手で奴らを全滅させなければ!






 大混戦となった<血道>の殺し合いは、長年の経験とチームワークが功を奏して、俺たちに軍配が上がった。


 あとは、残り僅かとなった生き残りを、一人ずつ取り囲んで殺せばいいだけだ。



「おぃ待て! ラッセン、残党が一人逃げたぞ! たぶん見習い。地下室だ!」


「分かった。後で追おう! 今は、目の前の残党を滅ぼせ!」


「了解!」



 ふんっ、”負け犬”の分際でちょこまかと動きやがって……往生際の悪い奴め。


 貴様が死に追いやった人の分まで、俺たちがネットリと苦しめて、地獄へ送ってやるからな!






 風車小屋で戦っていた盗賊が、全員動かなくなったので……念のため奴らの首をかき切ってから、逃げた野郎を追うため地下へと向かう。


 ターゲットの姿こそ見えないが、床にポタポタと血が垂れているから、それを追えば容易く捕えられるはずだ。



「ふむ。この棚に隠れようとして、床の血に気づき諦めたのか……? 血痕はここで途絶えているが、靴の痕は奥へと続いている」


「ナイテッド、念のため気をつけろよ。俺たちを騙すための罠って可能性も、ゼロじゃねぇから」


 もっとも、99%”逃げた男”の未熟だろうがな。



 パーティーリーダーとして、一応注意はしたけどよぉ……


 外じゃなくて地下へ逃げるアホな見習いが、追い詰められた極限の状況で、床スレスレに視線を合わさなきゃ分かんねぇ、埃の足跡に気づくとは思えん。



「お前等よく聞け。俺たちの勝ちは決まっているんだ。ムダに慌てて、隙を作ってやることはねぇ! 焦らずじっくり追い詰めるぞ」


「「「「「あぁ」」」」」






 足跡を頼りにボロい倉庫を通りぬけ、奥の廊下へ出る。


 見るからに使われてなさそうな、ボロボロの廃棄棚に……存在すら知られてなかっただろう、ドアノブが埃をかぶった便所。



 自業自得で死んだ奴らの事など、心底どうでもいいが……狙われる立場にある悪党なら、”寝ぐら”の構造くらい把握しろとは思う。


 雨風しのげる1階部分しか使わず、地下を”埃かぶった状態”で放置した結果、最後の一人も居場所を辿られているわけだしな。



「ふむ……。足跡は、奥の古びたロッカーへ向かっている。そこで途絶えているから……リーダー、おそらく奴はアソコに隠れているぞ」


「了解。地下だから窓はねぇし、奥も行き止まり。一か八か身を潜めたんだろうが……甘かったな。お前ら、襲撃の準備はいいか?」


「「「「「おぉ!」」」」」






 武器を構え陣形を整えた俺たちは、最後の敵を倒すべく、勢いよくロッカーの扉を開ける。


 だが、そこにターゲットはおらず……武器を仕舞ってやっと通れる幅の、地下へと続く隠し階段があった。



 予想外の展開に驚いたものの、ターゲットが階段を降りたのは明らかなので、俺たちも後を追って地下へ。


 すると、目の前に広がったのは……常識的に考えてありえない、青い空と巨大渓谷だった。



「なんなんだよ、ココ……。地下なのに、空があり雲が浮かんでいる? もしかして……俺たち、ダンジョンに来ちまったのか?」


「あぁ、おそらくな。俺も初めて見るが、ダンジョンでもない限り説明がつかない」



 渓谷を橋渡しする雲の一部が、不自然な形に歪んでいるから……ココへ逃げ込んだ盗賊は、雲から落ちて谷底へ叩きつけられたのだろう。


 “雲の道”以外にルートはないし……ザコ見習いが、俺たちすら警戒するダンジョンに挑んで、軽々突破したとも思えないからな。



「リーダーどうする、進むか?」


「バカ言え。ギルドに情報すら出てないダンジョンだぞ。おそらく、俺たちが第一発見者。無理しなくても、帰って発見報告すれば……報奨金で大儲けだ!」



 まだ生きているならともかく……谷底でザクロになった、”盗賊見習い”など探す必要はない。


 討伐証明に必要な遺体は、風車小屋にゴロゴロ転がっているから、さっさと奴らの首を持って引き上げよう。

読んでくださり、ありがとうございます!


この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)

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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)

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