50話 魔王メグミの<お・も・て・な・し>
〜とある冒険者side〜
「おえぇぇっ!! まさかコレ……人糞じゃないか? ウエッ……」
「たぶん……な。オアシスに住む奴らの糞尿を、このフロアに溜め込んでいるんだ。ちくしょう、クソ魔王め! こんなの卑怯すぎるだろう!?」
「叩き斬ってやるから、今すぐココへ上がってこい!! オエエッ……」
最下層であざ笑っているだろう魔王に対し、抗議の声を発した仲間たちが、汚臭を吸いこみ全員悶絶。
このフロアの気温も、8階層まで同様”昼間の砂漠”仕様だから……
熱気で糞尿が蒸発して、フロア全体がサウナ状態となっており、鼻をつまんでもニオイが目にしみるよ。
「仕方がない。ここで3時間待機して、扉があき次第8階層へ引き返すぞ。下層民の汚物なんかに触れたら、ヤバイ病気が移っちまう」
……っておい、ちょっと待て!
俺たちの命綱でもある足場の石版……少しずつ、ダンジョンの中に引き込まれてないか!?
このままだと10分しないうちに足場がなくなり、俺たちは肥溜めにダイブさせられちまう!
「グスッ……嫌だ…………。なぁルイス……コレ……俺たち、進むしかない…………のかな?」
ハナグール……皆、すまない。
「俺だって引き返したいが、扉が開かない以上諦めるしかない。どのみち、肥溜めに突き落とされる運命なんだ。ここが最終フロアと信じ先へ進もう」
「「「「あぁ……」」」」
くそっ……覚えていろよ、根性ねじ曲がった”う◯こ魔王”め!
ダンジョンを攻略したら、貴様をこの”肥溜めフロア”に投げ込んで、溺死させてやるからな!!
足場がなくなる前に、大急ぎで”防水性のつなぎ”に着替え、半ばヤケクソで先へ進んだ俺たちだったが……”肥溜めフロア”は想像以上の地獄だった。
「オエエェッ……」
何度か吐くうちに鼻が死んだから、ニオイによる苦痛はもうない。
股にとどく深さまで溜まった糞尿も、沼地攻略用の”防水性つなぎ”で浸潤を防げるから、ひとまず置いておこう。
このフロア一番の問題……それは、通路の天井が異様に低いことだ!
最初こそ普通に歩けたものの、先へ進むにつれジワジワと天井が低くなり、ついに腰を曲げないとダメな高さになってしまった。
他人の糞尿をまじまじと眺めながら、先の見えない道をいく屈辱を、なぜ貴族階級の俺たちが受けねばならぬのだろう?
しかも……
「ギャアァァッ!? またクソが落ちてきやがった!」
「あがあぁぁっ、被っちまったよ〜! 嫌だ。臭いっ、汚いっ!!」
「うわっ!? おぃハナグール、暴れるんじゃねぇよ! コッチにお前の汚物が飛ぶだろ!? オエッ、またスカベンジャースライムが来やがった!」
頭上から不定期に降ってくる汚物・ますます低くなる天井・倒しても汚いジェル塗れになること確定のスカベンジャースライム……。
泣きたくなるような問題が、次々に襲いかかってくる。
「てめぇ、いい加減にしろよ! 今まで誰が面倒見てやったと思ってるんだ! 恩師に、汚物スライムの相手を押し付けるんじゃねぇ!」
「うるせぇよジジイ! もともと加齢臭キツイんだから、汚物液あびたところで大差ないだろ? 老いぼれは黙って戦いやがれ!」
「ハイデン・サボタージュ、喧嘩をするな! 怒鳴っても事態は好転しない」
「「なら、テメェが生贄になれ!!」」
ハァ……。
強さとは別次元の脅威を前に、俺たちが長年かけて培ってきたチームワークはズタボロ。
もう二度と、笑いあう仲には戻れないだろう。
「何故こんな事になったんだ……? あの時用心して、8階層で引き返しておけば……うおっ!? ぐばぁっ!! オエェ……」
死ね、クソ魔王……。
劣悪すぎる環境と仲間割れで、人の心が折れるタイミングを見計らい、底に”落とし穴”が設置されていた。
風魔法を駆使して、なんとか這い上がったが……”防水性のつなぎ”が仇となり、服の中に入った汚物を取り除けない状況だ。
「ぺっ、ぺっ……。ふざけんな、口にも入っちまったよ。おぃ! この先”落とし穴”あるみたいだから、お前らも気をつけろ……よ?」
なんで全員、俺から距離を取るように後ずさりしているんだ?
「す、すまないルイス。頼むから向こうへ行ってくれ! その汚さは、さすがにヤバ過ぎる! 近付きたくないんだ」
「わ、悪いな……。気の毒には思うが、ちょっと俺には許容できない。10mくらい離れて歩いてくれ」
「あっ、あのですね……空気とか読んでくれると、マジで助かります。その……ゴメンナサイ」
お前ら……揃いも揃って、俺をそんな目で見るんじゃねぇよ。
ダメだ、今ので心が折れちまった……撤退だ。
「ハイデン・サボタージュ・カンデン・ハナグール……もう引き返そう。先へ進めば、お前らも俺みたいになるぞ」
「「「「了解……」」」」
扉のところまで戻って、大人しく待機し……時間がリセットされ次第、楽園の”毒ガス地帯”へ帰るんだ!
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)