36話 ダンジョンの住民vs討伐軍
〜とある軍人side〜
オアシスダンジョンが見える位置まで近付いたとき、突然強い風がふいて砂嵐が巻き起こり……目と口に砂が入っちまった。
「うわっ!? もう水残ってないのに、このタイミングで砂嵐かよ。ついてないぜ……痛っ!?」
足元に、イッシャクムカデの群れ!?
他の奴らも刺されたらしく、其処彼処で悲鳴があがっている。
『お前たち、闇雲に剣を振るうな! ムカデはもう逃げたから、解毒ポーションを使って治療しろ! タイミング的に、ダンジョンサイドの抵抗と見ていい』
なるほど……指揮官の言うとおり、狙いすましたようなタイミングだな。
「くくっ。そうは言っても、他所で起きているスタンピードの規模を考えると、笑えるほどショボい抵抗だ。底が透けるぜ」
低レベルな住民にお似合いの、クソ雑魚ダンジョン。
弱い者同士、惹かれあったのかもしれないが……残念だったな。
住民と一緒に、俺たちの手柄になっちまえ!
ポーションによる治療が終わったので、改めて隊列を整えオアシスダンジョンを目指す。
また奇襲を受けたら堪らないので、上空や地面の警戒も怠らない。
「チクショウ。口の中に入った砂が、まだジョリジョリ言ってるぜ。一口くらい、飲み水を残しておくんだったな」
あと半日の辛抱とはいえ、軍人家業も楽じゃないぜ。
そうこう考えているうちに、俺たち”討伐軍”はオアシスダンジョンに到着。
建物がある場所から100mほど離れたところで、指揮官に今回の作戦を聞かされた。
『我々の任務は、分をわきまえぬ下民共を叩きふせ、正当なる税金を取るためのものである。ゆえにお前たちは、二人一組で確実に……』
するとその途中に、また其処彼処から同僚の悲鳴が……。
「今度はなんだ? またダンジョンの横槍か?」
いや違う……オアシスダンジョンに住み着く貧乏人共が、建物の屋上から石を投げてきたんだ!
『くそっ! この高低差じゃ弓での報復は厳しい。ならば……全軍突撃せよ! 奴らは石以外の武器を持っていない。近付けば俺たちの勝ちだ!!』
「「「「「おぉ〜!!」」」」」
突っ立っていても狙い撃ちされるだけなので、指揮官の命令のもと、討伐軍全員でオアシスダンジョンへ突っ込む。
まったく、ゴミ人間のくせに……正規軍に歯向かおうなんて、小賢しい奴らだぜ。
支給品である片手盾を頭上にかかげ、投石を防ぎながら敵との距離を詰める。
途中ヒジに小石が激突し、悶絶する奴もいたが……この距離まで近づけば大丈夫。
一方的にやられる心配はないだろう。
「さてと、手間をかけさせてくれたな。一人一人引きずり出して、新調したばかりの剣の餌食に……」
『今だ! 長槍隊、突撃せよ!』
わき立つ興奮を押さえ、指揮官の指示を待っていると……奥から号令が聞こえると同時に、”木の槍”を持った野郎共がワラワラと出てきた。
そして一斉に、その槍を突き出してくる。
「「「「「グワアァァッ!?」」」」」
「おぃ嘘だろ!? なんで貧乏人風情が、武器なんか持っているんだよ!?」
俺は真ん中にいたので無事だったが、最前列にいた奴らの一部は、ガードに失敗し槍の餌食となってしまった。
『突け! 叩け! 突け!』
敵側で指揮をとっているのは、見るからに素人じゃない大柄な男。
「くそっ、ケガで没落した冒険者の類だな。逆恨みしてんじゃねぇよ!」
お前ら社会の負け組は、大人しく討伐されればいいんだ!
『仕方ない。全部隊、斬りこめ〜! 奴らが持っているのは、所詮”木のオモチャ”だ! 練度は俺たちの方が高い。一人ずつ確実に始末しろ!』
「「「「「おぉ〜!!」」」」」
やってやるよ、全員なぶり殺しにしてやる!
20歳でロマーニュ軍の正規兵となり、現在まで12年……着実に昇格してきた俺の実力を見せてやろう!
あふれ出る涙をぬぐい、血が流れる足を引きずって死地から逃げる。
「ハァ……ハァ……ハァ…………。チクショウ……なんで俺が、こんな目に…………」
必ず勝てる戦いだったのに、奴らは武器どころか回復用のポーションまで持っており、何度倒しても復活してきやがった。
非戦闘員との戦いを想定しており、300人しかいなかった俺たち討伐軍は……ゴキブリみたいに湧き出てくる貧乏人共に、押し負けてしまったのだ。
『諦めるな、2日も歩けば祖国に着く! 耐えろ、踏ん張って進め〜!』
「ふざけんな。どうせ帰ったって、敗戦の咎で地獄行きだろ? しゃべんな無能」
自分だけラクダに乗りながら叫ぶ、指揮官の声に殺意がこみ上げるが、大声でヤジを飛ばす気力も起きねぇ。
戦闘による疲労感もヤバイが、ゴミ共の反逆で負傷者が続出し……物資のポーションを、全て使い切っちまったのは痛いぜ。
「あぁ、喉が乾いた……。水、水をくれぇ……」
「バカかよ、お前。全部飲んだ自分が悪いんだろ? 俺のはやらねぇよ」
冷たいこと言うなよニッグ、俺たち友達だろ?
それに、まさか負けるなんて思わないじゃん!
ヤバイな……血の流しすぎで、本格的に頭がクラクラして……
「砂嵐だ! デザートバードが砂嵐を起こしたぞ! またイッシャクムカデも湧いてきやがった!」
『全員退避! 逃げ遅れる者は捨て置け。これ以上犠牲を出さぬよう、全速力で走るんだ〜!!』
くそぅ……指揮官の野郎、この俺を見捨てやがったな。
オアシスダンジョンのクソ魔王も……弱ったところに毒攻撃なんて、卑怯……
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)