34話 討伐軍襲来のウワサ
〜ロマーニュオアシス・領主side〜
「なんだと? 我が街から、貧乏人が流出している?」
「はい、領主様。オアシスダンジョンでの暮らしは、生活費が安いようで……」
税収が異常に落ちていたので不審に思い、理由を問い詰めたところ、執事のコーネンは「貧乏人が流出している」と返してきた。
「チッ! 底辺は底辺らしく、貧民区画で這いずり回っていれば良いものを。余計な知恵をつけよって!」
奴らは、定められた税金すら満足に払えぬゴミだが……オアシスで暮らす以上、生活に必要な水と食料は買わざるを得ない。
ゆえに数百・数千人の単位で流出されると、そこにかけていた税金を取りっぱぐれ、私が損することになるのだ!
「コーネン。奴らの流出を、食い止める手立てはあるか?」
「残念ながら……。レンガ一つでも輸送費がかさむ”ロマーニュの街”では、街壁の補修もままならぬため、街門を封鎖しても連中は壊れた壁から逃げ出します」
「ふむ。困ったのぉ」
所得税・住民税・入街税・水源利用税・初夜税……色々と名目をつけ税を搾り取ってはいるが、金はまったく足りない。
世界各地で頻発している、スタンピードの被害こそ受けなかったが、国からは復興税の上納を求められているし、派閥の上位貴族へ贈る賄賂も必要だ。
私の貯蓄と日々の楽しみも考えれば、あと10%は課税したいところなのに……。
「よし、決めたぞ。私は、金を奪ったそのダンジョンを潰す! 泥棒には、正義の鉄槌を下すべきだ!」
「領主さま。具体的には、どう動くおつもりでございますか?」
「うむ。ひとまず……ダンジョンの討伐を大々的に宣伝し、貧乏人の流出を食い止めろ! いいか、大々的にやるのだぞ」
「はっ!」
「その後300名の討伐軍を差し向け、奴らに”己が愚かさ”を教えてやる」
「かしこまりました!」
討伐軍より、流出した人数の方が多いが……所詮は最下層のゴミ共、武器一つ持っていないだろう。
数百人殺して震え上がらせ、誰が支配者かを理解させてやれば、自ずと頭を垂れるはずだ。
「ゴミ共が降参したら、ダンジョンの水源も私の支配下におく。税収が増えるぞ!」
「領主様。ダンジョンは、人類共通の敵でございますが……よろしいのですか?」
「ふんっ。国益になるダンジョンなら、国もすぐに潰せとは言わぬであろう。それに実効支配しておけば、討伐の栄誉も私に与えられる」
「なるほど。どちらに転んでもオイシイ……。ご賢察と存じます」
2カ所のオアシスを支配するか、ダンジョン討伐の任を果たせば、私は晴れて男爵→子爵へ昇格できる!
「くっ、くっ、くっ…………!」
今の状況は、むしろチャンスなのかもしれないな。
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〜メグミside〜
ある日を界に、最寄り街であるロマーニュオアシスから、流入してくる人がガクッと減った。
どうやら街で、「領主が討伐軍を送る」というウワサが流れているらしく……それを恐れた人々が、移住をためらっているようだ。
『おぃマンチェス。例の話聞いたか? 俺たち、どうなっちまうんだろう?』
『分かんねぇ。でもさぁ〜、俺はここに残るぜ! 嫁さんも子供も、今の生活に満足しているからな』
『俺のところもだ。でもよぉ……怖いなぁ…………』
オアシスフロアでも討伐軍のウワサが飛び交い、不安の声があふれているが、今のところ逃げ出した人はいない。
命の危険に身を晒してもなお……ようやく出来た安住の地を失い、以前の暮らしに戻るのは嫌なのだろう。
『一か八か、皆で力を合わせて戦うか? 人数だけなら、俺たちの方が多いぞ?』
『怖いが……そうするしか、今の生活を守る道はねぇんだろうな』
僕が魔王である以上、人間の彼らに対し”同情心”を持ってはいけない。
だけど、”理不尽に奪われる恐怖”は分かるよ。
そして一人の男として、それに抗いたくなる気持ちも……。
「僕はどう動く? 住人と討伐隊の殺し合いが起これば、殺戮ポイントで大儲けできる。だけど……それは、あくまでも一時的な収入」
長期スパンで見ると不利になる、望まない展開だ。
それにロマーニュオアシスの領主は、このダンジョンを支配下に置き、住民から税金を取るつもりらしい。
せっかく人が住めるよう設備を整えて、収益化の流れを作ったのに、ソレを横から掻っ攫うようなマネ……
「ふぅ……。弱者が強者に虐げられるのは世の常。だけど気に食わないな」
全面的に不愉快だから、住人を支援し戦う方針でいこう!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)