31話 商人はオアシスダンジョンを見つける
〜とある商人side〜
私の名前はスコッチネル。
モートランド皇国に籍を置く商人であり、サルモード商会の次期会長候補だ。
ヴィッチネント王国と交易を行うため、いつものように商隊を率いて砂漠を渡っていたのだが、不幸なことにサンドガーゴイルと遭遇。
商隊の仲間と、護衛の冒険者を8人もうしない……今は失意のドン底にいる。
「あ〜、水……。水が欲しい!」
「くそっ! まさか水樽まで手放すことになるとはなぁ」
サンドガーゴイルに惨敗した私たちは、交易用の商品はおろか飲み水まで奪われてしまい、丸一日何も飲んでいない。
水樽を失ったことも大きいが……殉職した商人に水魔法持ちがおり、彼に頼っていたのが仇となった形だ。
オアシスがある最寄りの街まで、あと2日。
そこまで、商隊メンバーとラクダの気力が持つといいが……。
「スコッチネル商隊長、見てください! あそこにヤシの木がありますよ! 俺たち、オアシスの場所を間違えたのかもしれない」
「そんなバカな!? 何年商隊をやっていると思っているんだ! 道なんて、間違えるわけないだろ!?」
「いや……でも現に、ヤシの木があんなに生えているっスよ」
「…………」
たしかに、見事なほど青々と茂っている。
極限まで追い込まれたせいで、私は目と頭をヤられたのだろうか?
いや、でも……
「道を間違えたとは思えない、だが……見える距離にオアシスがあるのなら、立ち寄る以外選択肢はないな。行ってみよう!」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
商隊の進路を変更し、ヤシの木が生い茂る場所へ近づくと、人工的な建物がいくつも並んでいた。
水源となる泉は見えないが……これだけの緑があり、人が住んでいる場所なんだ。
きっとどこかに、溢れるほどの水があるのだろう。
「うわぁ、すげぇよココ!! めちゃくちゃ家が立ち並んでいる!」
「本当だ。ここには絶対水があるぞ! 食料も買えるかもしれねぇ!」
はしゃぐ隊員たちを落ち着かせ、ラクダを木に繋いでから、仲間と別れて辺りを散策する。
まだ昼で部屋の数も多いのに、なぜか道を歩く者は一人もいない。
「ふむ、やはり変だ。もしかして此処は、水源の枯れたオアシスの跡地なのか? だが、それにしては綺麗すぎる……。おや、あの目立つ箱はなんだ?」
私が見つけたのは、異質な存在感を放つ四角い箱。
よく見ると、オアシスの其処彼処に置かれているな。
「粗末な造りではあるものの、不自然なくらい真新しい建物に、”自動販売機”と書かれた不思議な箱」
商人として国をめぐる中で、多くのものを見てきたが……ここまで違和感をおぼえたのは初めてだよ。
「何々……”自動販売機”は、表示されている物を無人販売する機械です。ここにお金を入れると、好きな飲み物が買える……だって!?」
そんなバカな!?
にわかには信じがたい話だが……安いものは僅か100ロルで買えるため、騙されたと思って銅貨を投入してみる。
すると「ガコン!」という音が聞こえ、足元の”取り出し口”へ、キンキンに冷えた水が落ちてきた。
「なっ、なんて冷たいんだ! それに……濁り一つない、光りかがやく透明な水。味っ、味は……美味い!! 今まで飲んだ水の中で、一番美味いぞ!!」
なんという画期的なサービス!
「誰だ。誰がこの装置を作り出した?」
どんな方法で商品を生み出し、砂漠の真ん中で温度を保っている!?
「ハァ、ハァ……。金で冷たい水が買えたのだ。隣にある、このパンも……」
本能のままに100ロル払うと……今度は上流階級の食卓でしか見かけない高級料理、”クロワッサン”が落ちてきた。
焼きたてに比べると味は劣るが……値段を考えると、驚異的としか言いようがない。
妻と子がいなければ、私はサルモード商会・次期会長候補の地位を捨ててでも、オアシスで過ごしたいと願っただろう。
「スコッチネル商隊長〜。このオアシスもどき、ダンジョンの中ですぜ! 真ん中の建物が、地下への入り口になっていて……」
「そこに”恵のダンジョン”って名前と、クソ長い注意書きがありました!」
「何っ!? という事は、この場所もモンスターの住処なのか?」
「いや……注意書きには、階段に足を踏み入れた時点で敵とみなす……って書かれていたから、多分大丈夫っス」
「ダンジョン側の主張を鵜呑みにするのは愚かですが、実際問題モンスターはいませんし……。魔王が、気分で作ったオアシスなのかもしれません」
そうか、なるほどな。
「商隊長。念のために、早く離れるべきでは……」
「いや。ダンジョン側の意図は分からないが……目の前に”金の成る木”が転がっているのは、紛れもない事実だ。商人なら行動あるのみ!」
「「えっ?」」
「ダッケ、ケスタ……今すぐ隊員たちをここに集めろ。水と食料は入手できる。明日の朝まで休んだら、積めるだけパンを仕入れて移動再開だ!」
「「は、はぁ……」」
商業ギルドへの情報提供料に、安くて美味しいパンの販売。
サンドガーゴイルに襲われたときは、「出世コースから外される」と思ったが……ここで巻き返せば大儲け!
私は、ライバルを出しぬき商会長になるぞ!!
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)