11話 初めての対人戦を終えて
「ふぅ〜、ようやく帰ったか。長かった〜」
冒険者3人が去ってゆくのを確認してから、避難させていたイッシャクムカデに”アリの巣探し”を再開させ、コアルームの中で一息つく。
「あぁ〜、味噌ラーメンと塩ラーメンの食べくらべ最高! 生きているって素晴らしい!!」
初めての対人戦だったので緊張したが、大きな被害を出すこともなく撃退できたし、まずは生き残れたことを喜ぼう。
音声も拾える監視機能を使って、観察した結果……あの3人は、ヴィッチネント王国所属のCランク冒険者だと判明。
祖国からモートランド皇国へ向かう途中、たまたまこのダンジョンを見つけ、興味本位で立ち寄ったのだと分かった。
「正確な値は不明だけど……保有ポイントの推移から見て、彼らの滞在で得られたポイントは120ほど」
無視できる数字じゃないが、4日間ダンジョンの拡張作業を止められた上、神経をすり減らしたにしては、ショボい報酬だ。
緊張し過ぎて、せっかくのラーメンも美味しく食べられなかったしね。
ダンジョンが大きく成長した後ならともかく……現時点では人の生命エネルギーをアテにするより、アリの飼育でポイントを稼ぐ方がいいだろう。
「3人組の様子を見た感じ、砂漠迷路に10問連続クイズを取り入れたのは正解だったな」
24時間”お昼モード”の灼熱地獄と合わせて、敵の気力・体力を削り、撤退させることができた。
「逆に問題だったのは、モンスターを配置しなかったせいで、予想外に深く潜られた点」
5階層まで降りられたときは、「このままコアルームに来ちゃうんじゃ……」と焦ったよ。
「それに戦闘タイプのモンスターがおらず、トドメを刺す手段がなかったせいで、冒険者を口封じできなかった」
いや……保有ポイントでCランクモンスターを召喚し、精魂尽き果てた彼らの元へ送れば、殺せると分かった上で見逃した……という方が正しいか。
やはり心のどこかで、元同族としての甘えというか……「人間は殺したくない」という気持ちがあったのだろう。
彼らは「報告して報奨金」云々言っていたから、このダンジョンは近いうちに公となり、攻略狙いの連中がやってくるかもしれないな。
「一度でもコアルームに侵入を許せば、魔王である僕の命はない。コアルームへたどり着けるような猛者に勝てるほど、僕は強くないからね」
次からは、侵入者が人間でも殺す気でのぞむ。
侵入者に配慮している余裕など、今の僕には存在しないのだ。
ポイントに限りがあるので、ガッツリ……という訳にはいかないが、今後は戦闘タイプのモンスターも増やしていこうと思う。
「今回もそうだけど……運命の転機は不意に訪れるものだから、備えはしておいた方がいい。僕はまだ死にたくないもの」
冒険者3人組が滞在している間に、僕は別の角度からも、背筋が凍る思いをした。
クラスメイトの総数と思われる値が、30→29に減ったのだ。
ダンジョン名:恵のダンジョン
属性:土
順位:29/29(308/308)
保有ポイント:84259
地脈ポイント:72ポイント/日
階層:9
これまで数字が減ることはなかったから、気にもとめていなかったけど……知人が殺されたと考えると、他人事とは思えずゾッとする。
「一歩間違えれば、殺されていたのは僕かもしれない」
もし僕が普通の場所にダンジョンを創り、早い段階で発見されていたら……?
”アリの養殖”を試みず、ポイント不足でダンジョンを拡張できていなかったら……?
今頃、元同級生のステータス欄に表示される順位は、<◯◯/28(◯◯◯/307)>だっただろう。
「殺されたヤツは、目立つ行動をとって討伐隊に攻め込まれたのかな? それとも、近場の先輩魔王に目を付けられた?」
自分の身を守るためにも、犠牲者がどういう状況で亡くなったのか知りたい。
「サーシャ様、大丈夫かな? 僕ほどじゃないにしろ、初期ポイントで不利な順位にいたはずだし……心配だよ」
彼女の所在地すら分からぬ以上、僕に出来ることは何もないけど、どうか無事でいてくれ。
「ハァ……ウジウジするのは時間の無駄だな。思うところがあるなら、今後に活かせばいい」
悩んでいるだけじゃ問題は解決しないので、一眠りして気持ちを切り替えてから、ダンジョンの改造案を考える。
知人が殺されたかもしれないのに、ひどい話だけど……
差し迫った恐怖から解放された安堵感と、ラーメンを3杯食べた満腹感から、自分でも驚くくらい熟睡できたよ。
「防御をかためるなら、ボス部屋の設置は絶対だよな。相性がいいモンスターじゃないと、交換レートが高すぎて呼べないから……ミスリルゴーレムとか?」
魔法耐性を持つミスリルゴーレムなら、ウチのダンジョンと相性が悪い<水魔法使い>を止める事もできるし、抑えの要としてはアリだろう。
「ボス部屋での防衛はあくまでも最終手段だから、それ以前のフロアでも、水魔法使いが苦戦する仕掛けを用意すべきだ」
眠気をさそう毒ガスフロアに、耐性持ちのアーススライムと、致死毒持ちのポイズンスライムを大量投入しておくか。
「他の対策はどうする? 討伐隊がくる可能性を考えると、分断して各個撃破できる仕組みが必要だから……」
冒険者3人がダンジョンを去った半日後。
思い浮かんだアイデアを全て書き出し、費用・効果を考慮しながら優先順位を決めた僕は、ダンジョンの改造に着手した。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)