修羅場?
俺とアテネは寮までの帰り道、恋人つなぎというやつをしながら帰った。通行人のおばさんたちから
”若いっていいわね~”
と微笑ましいものをみるような目で見られた。大分恥ずかしかった。定番の告白スポットで告白してキスまでした奴が何言ってんだという話ではあるが。
「私とセルスが恋人か~。」
「今までも婚約者だったからあんまり変わらない気がするけどね。」
「違うよ?セルスも私のことを愛してくれてるっていうことが分かったんだよ。もっともっとセルスのことを愛さないと。私、がんばろ!」
謎の決心をアテネがしている。アテネとヘレネのおかげで、俺の理性は世界一になっているが、耐えられる自信はない。というか、恋人同士になったのだったら我慢しなくてもいいのか。クラスのみんなに見せつけてやろうか。マーズの血の涙が見れるのか。明日が楽しみになってきたぞ。
「セルス?なんか悪い顔してるよ?」
「いや、なんでもない。明日からもっとイチャイチャしような。」
「もちろんだよ!」
この時、俺はまだ知らなかった。修羅場が待ち受けていることを。
「ただいま~。」
「セルス君?お帰り…。」
ヘレネが絶句している。その目線の先には、”恋人つなぎ”があった。
「セルス君。そうなんだ。そっか…。」
「ちょっと待って!」
俺はうっかり失念していた。ヘレネにも思いを伝えなければならないということを。
「ごめん。今は一人にさせて。」
ヘレネは死人のような表情を浮かべながら、部屋に引きこもってしまった。
夕食の時間になっても、ヘレネは出てこなかった。
「ど、どうしよう。」
「はぁ~。」
俺が焦っていると、アテネがため息をつき、
「やっぱりセルスは馬鹿だね。」
「え?」
「セルスもわかってるんでしょ。ヘレネに今すぐ言わなきゃいけないことがあるって。」
アテネがいつになく真剣に語る。
「でも、ヘレネが。ヘレネが一人にさせてくれって。」
「そういうところが馬鹿って言われちゃうんだよ?セルスは女の子が傷ついてるときも一人にさせるような人なの?私、そんな人を好きになった覚えはないよ。私が好きになった人は、婚約者のことをいつも最優先に考えてくれる、そんなかっこいい人なはずだよ。」
アテネに諭され、俺はハッとする。
ヘレネが嫌がってるからなんだというのだ。王城から脱出するときだって、俺は無理やり連れだしたじゃないか。いまさら何を怖がってるのだ。好きな人のためなら玉砕覚悟で突っ込む。当たり前じゃないか。
「ありがとう。そしてごめん、アテネ。こんな俺を許してくれ。」
「次にヘレンを泣かしたら許さないだからねっ。」
アテネはそういい、俺のおでこにデコピンをする。かわいらしい罰だな。
俺はヘレネの部屋に向かう。
「ヘレネ。入っていいか?」
「…。」
もちろん返事はない。
「入るぞ。」
俺はそっとヘレネの部屋に入る。ヘレネはベッドの上でうずくまっていた。
「なんできたの?アテネとイチャイチャしてればいいじゃん!どうせ私なんて…。」
ヘレネは顔を上げる。目を真っ赤にしている。きっと泣いていたんだろう。彼女を俺が泣かせたと考えると…。何度謝っても許されることではない。
「ヘレネ!今日、俺はアテネに告白したんだ。アテネからもいい返事をもらえた。」
「なら私のことなんてどうでもいいじゃん。邪魔者の私は出ていくよ。」
俺はそっとヘレネのことを抱きしめる。
「えっ!?ど、どうしたの!?」
俺はとヘレネは顔を合わせる。ああ、綺麗な顔だな。つい見惚れてしまう。
俺は顔をヘレネの顔に近づける。
そのまま俺の唇と、ヘレネの唇と、
そっと重ねる。
ヘレネは突然のことで何が起こったかわかっていないようだ。俺もアテネにされた時はそうだったから気持ちは分かる。
「これが俺の思いだ。二股なんて不純だと思うかもしれない。でも、おれは2人のことをたまらなく愛してる。それだけは絶対だ。」
「フフッ。」
ヘレネはそういい、
キスしてきた。
「もちろん私も同じ気持ちだよ。」
「さっきはごめんな。もっと早くこうするべきだった。」
「それはそうだけど、この時間でいかに私がセルス君のことが好きなのかがよーく分かったよ。これからは手加減するつもりはないからね。」
「お手柔らかに頼むよ…。」
「じゃあ、夕食でもいただこっか。誰かさんに泣かされたせいでお腹が空いてるんだ。」
「ご、ごめん。」
俺はヘレネの晴れやかな笑顔を見ながら考える。
俺は幸せ者だな。こんな美女の恋人が二人もいて。そして俺は心に決める。
『二人の笑顔だけは何としてでも守ろう』と。
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