入学式と変人
長めです
俺は翌日、学院に呼び出された。
「先生。何の御用でしょうか?」
「君にやってもらいたいことがあるんだよ。」
めちゃめちゃ嫌な予感がする。聞きたくない…。
「え、ええ。」
「そんなに身構えなくていいよ。それで頼みというのはね。入学式のスピーチをやってもらいたいんだ。」
ほら当たった。俺はスピーチが苦手だ。どうも人前で話すと、緊張してしまうんだ。戦闘とかなら楽しくやれるんだけどな。
「全力で遠慮させていただきます。」
「まあまあ。これはSクラスみんなの総意なんだ。君が断ったなら、他の誰かに当たらないといけないんだけど…。」
この人の言葉は何故か断りにくい雰囲気を作り出す。一度、鑑定したことがあるが、そんなスキルはなかった。素なのか。すごいな。
「わかりましたよ。下手でも文句言わないでくださいね。」
「そうか!引き受けてくれるか。ありがとう。楽しみにしてるよ。」
俺は壁にかかっている時計を見る。時計は8:30を指していた。確か入学式が始まるのは…。
「ヤバい!あと1時間しかない!」
1時間で10分ぶんのスピーチを考えなければならないだと…。無謀というやつでは…。
俺は仕方なく婚約者たちを頼ることにする。彼女らは国語が得意なのだ。ヘレネは特に、王族として英才教育を受けてきたけらいつも頼らせてもらっている。
「…というわけで、手伝ってくれ。」
俺は頭を下げる。
「しかたないね。手伝ってあげるよ。」
「そうだね。セルス君に頭を下げられたら聞かないわけにはいかないしね。」
本当に感謝しかない。2人には頭が上がらないな。
「まず初めは…。」
「もっと固い言葉を使って…。」
「それは傲慢だから…。」
なんとか50分で作り終えた。後は10分で覚えれば完璧だ。やはり持つべきは婚約者だな。
入学式が始まった。滞りなく式は進んでいった。
「では、新学生代表挨拶。セルス=アングルス君。前へ。」
ついに出番が来た。俺は颯爽と壇上へ上がる。
よしっ。なんとかかまずに言い切った。なかなかかっこよかったのではないか?
「次。入学制代表挨拶。ガイア=デネラエ君。壇上へ。」
ガイアという金髪で目つきの悪い、男子生徒が壇上に上がった。そして開口一番にこう言い放った。
「私はお前らとは違う。私は才能の塊だ。私が通る道を開け、跪け。女は抱いてやる。私の部屋
に来い。以上だ。」
皆、ポカンとしている。そして苦笑している。頭のおかしい奴だな。関わりたくないものだ。だが、そううまくいかないものだ。
「げっ。あいつと同じクラスかよ。あれでも入学生1位の実力の持ち主だもんな。そりゃSクラスに編入されるわけだ。」
俺たちは初等部の頃からSクラスだった。Sクラスというのは学年でトップクラスの実力を持つ分野があるものが集まったクラスだ。1つの分野で突出していればいいので、マーズのような馬鹿でも編入できる。初等部の頃は7人だけだったが、高等部では10人になるらしい。1年間無事に終えられるか不安になってきた。
「久しぶりだなセルス。相変わらず女侍らしてるじゃないか。」
教室に入るとマーズが話しかけてきた。
「侍らしてない…か?」
自分でも最近、リア充してるなと思ってきている。というか、アテネとヘレネというひいき目なしでも絶世の美女を2人も婚約者にしている時点でリア充なのは間違いないが。
「自分でもリア充してるなーとは思って来てるけどね。」
「だよねー。アテネちゃんもヘレネちゃんも可愛いからね。ところでさ、入学生代表の人、いろいろとヤバそうだよね。」
「ああ。アテネとヘレネが心配だから今日は近くにいてもらうことにした。」
「そうだね。それがいいよ。まあでも、セルスたちに勝てるとは思えないけどね。」
さっき、鑑定で確認したが、ヘレネでも余裕で勝てそうな奴だった。あまり気にする必要はないが、念には念をということだ。
「アテネ、ヘレネ。さっきも言ったがガイアとかいうやつに気を付けてくれ。2人なら撃退できるはずだが、万が一の時のためにな。」
「わかったわ。」
「おっけー。」
噂をすれば、ガイアが教室に入ってきた。
「おお~。上玉ぞろいではないか。さすが連合国一の学院だ。」
やはりあいつはクズだな。ガイアはこちらを見て、目を輝かせる。
「君たち。後で私の部屋に来い。楽しませてやろう。」
「「え?」」
クラスメイト、全員口をあんぐりとする。このクラスでは、アテネとヘレネが俺の婚約者だというのは周知の事実なのだ。
「どうした?もっと喜べ。私が相手をしてやろうというのだぞ。」
俺は別に怒りに震えるようなことはなかった。真正面に来れば、俺が手を貸さずとも二人ならあいつに触れられる前に撃退できるだろうから。
「丁重にお断りさせていただきます。」
アテネは丁寧に断る。だが、ヘレネは
「誰があなたのようなクズで弱い奴の相手になるの?それに私にはセルスという素敵な婚約者がいるし。さっさとあきらめなよ。」
と吐き捨てた。
するとガイアはプルプルと震えている。
「なんだと!この素晴らしい私がクズで弱いだと!」
ガイアは声を荒らげて言う。うるさい奴だな。黙ってればいいものを。俺は席を立つ。そしてガイアの肩をたたいて、
「あきらめな。2人は俺の婚約者なんだ。それにお前じゃヘレネにも勝てないぞ。あっ。ヘレネっていうのは金髪の方だぞ。」
「ナチュラルに煽ってんな。流石セルスだ。」
後ろの方でマーズが何か言っているが気にしたら負けだ。
「この私があの女よりも弱いだと!そんなわけあるか!私は神に愛された世界最強になる男なのだぞ!」
へえ。神に愛された男ね。テール様。そうなんですか?
《そんなわけないじゃん。君とアテネしかいないよ。神が直接かかわった人間は。》
そうですよね。知ってました。だが、あいつを黙らせるには力を見せつけるしかないよな。決闘かな~。最近狩りに行ってないからな。ストレス発散したいし。
「なら…「なら決闘だ。お前と俺で決闘だ。勝った方が2人をもらう。異論はないな。」
相手から言いだしてくれた。ちょうどいいや。もう少し条件を足すか。
「いや。そしたらこちらにメリットがないだろ。俺が勝ったら2人に近づかない。必要最低限のこと以外関わらない。この2つを呑むなら受けてもいい。」
「まあいいだろう。お前らもいいな。」
ガイアがアテネとヘレネに確認を求める。するとヘレネがこう言いだした。
「私が君の相手になるよ。私の方がセルス君よりも弱い。だから私が勝ったら私たちの指示に従うこと。要するに奴隷になるってことだね。君が勝ったら私たちが奴隷になるんだから文句ないよね。」
ヘレネがこっちを向く。その顔を見てヘレネの考えを理解する。ヘレネが勝ったらあいつはビビッて手を出さなくなるしな。一番弱い奴が出て、あの自信をへし折る。なかなか鬼畜だな。ヘレネも。
「いいだろう。明日の10時。闘技場にて始めようではないか。今言ったルールは契約書で縛る。異論はないな。」
ガイアはそう宣言し、自分の席に座った。さて、明日ヘレネの勝利が確実になるように、今夜はみっちり特訓するか。別に如何わしい意味はないぞ。もちろん。
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