魔神ケプリ
俺とヘレネはダンジョンに向かった。
「ここのダンジョンでいいのか?確か初心者向けだったよな?」
「うん。セルス君に大事な話があるんだ。」
ヘレネからいかにも深刻そうな雰囲気が伝わってくる。今日は国全体での祭りの日だ。そんな日にわざわざ初級のダンジョンに来る人などいるわけない。必然的にダンジョンにいるのは俺達だけになっている。
「大事な話なのか?」
「うん。大事な話だと思うよ。」
なんだろう。まったく見当がつかないや。
「昨日、教会に行ったよね。そこで私、レアっていう女神さまと話をしたんだ。」
「えっ?」
レア様って、アテネのお母さんの?もしかして、俺が転生者ってこと、バレた?特に問題ない気がするが。だがアテネがレア様の娘ってことがばれるのだけはヤバい。この世界において女神というのは絶対だ。その娘ともなると勇者とは比べ物にならないほど、象徴としての存在は大きい。国にばれたらきっと戦いなどに駆り出されることになるだろう。それだけは避けたい。
「そ、それが、ど、どうしたんだ?」
声に出して初めて気が付いたが、俺はめっちゃ動揺しているらしい。
「そんなに身構えなくてもいいよ。」
「う、うん。」
「それで話っていうのはね…。」
《セルス君!危ない!》
ヘレネがちょうど、何かを告白しようとすると突然、頭の中に声が響いた。この声はテール様だ。俺は急いで、「探知」スキルを発動させる。すると魔物がものすごい速さでこちらに向かってきている。
「ヘレネ!魔物がこちらに向かって来てる!すまんが話は後だ!」
「うん。わかった。」
魔物は超大型のミノタウロスだった。だが、そのミノタウロスはよく見るミノタウロスとは違った。黒く禍々しい。そして醸している雰囲気は魔王級だ。こいつはヤバい。
「ヘレネ。これは異次元だ。今までの魔物とは比べ物にならない。」
「うん。この雰囲気を見ればわかるよ。」
「そこで、だ。ヘレネは先に逃げてくれないか?」
「それって…。」
ヘレネの顔が絶望に染まっている。なぜだ?俺、そんな変なこと言ったかな。ヘレネのレベルだと俺の戦いについていけないから逃がそうとしただけなのだが。
「ヘレネ?」
ヘレネは何か、覚悟が決まったように、
「…うん。セルス君。どうか無事で。」
「俺も死ぬつもりはないぞ。むしろ無傷で帰ってやる。」
ヘレネがダンジョンからいなくなったのを確認して、俺はあるスキルを使う。
「スキル『竜化』」
このスキルは竜人族のみ伝わっているスキルだ。そのスキルをなぜ、人間の俺が知っているのかというと、もともと王国にあった魔王戦のときの竜人族の里が新しい帝国に反発して、新しい国を造ったのだ。俺は大変恥ずかしいが、その国の英雄と呼ばれている。そのため、アテネやヘレネには内緒で月に一度ほど、通っているのだ。そこで教わったというわけだ。
竜化のスキルを発動させると、俺の身体は竜に変化した。こうなることにより、すべてのスキルが大幅にアップする。特に、防御力などは5倍ほどになる。ただし魔力消費が大きい。俺の魔力があったとしても5分ほどしか持たない。
俺はミノタウロスと向き合う。ミノタウロスは一度走り出すと、曲がれないと聞いたことがある。おそらく今、ミノタウロスは全速力で突進してきているだろう。俺はミノタウロスのルートから外れる。俺はミノタウロスに攻撃しようとする。
「うおっ。」
なんと、ミノタウロスは方向転換してこちらに向かってきた。
「ぐっ。…曲がれるなんて聞いてないぞ。」
がら空きだった腹に突進されてた。HPは5分の1ほど削られてしまった。
(やばいな…。攻略法が思いつかない。防御力と攻撃力はこちらが勝ってるから相打ちで行くか。)
俺は身体強化や攻撃力アップなどのスキルを発動する。そして俺は使える攻撃の中で一番攻撃力の高い物を選択する。
ミノタウロスがこちらに突進してきた。ミノタウロスが避けられないところまで接近したところで、俺は用意していた攻撃をお見舞いする。
「火魔法『ガス爆発』」
もったいぶった割には雑魚い名前だって?だがしかし、これこそが俺の4年間の特訓の成果だ。まずなんといってもこの世界にはガスがない。そこで俺は1からガスを作った。森で狩った魔物の死体を圧力をかけて化石を作る。それを超高温に熱し、ガスを作り出す。ちなみに圧力はヘレネに重力魔法を教えてもらい、超高温の熱は火魔法で作った火種に風魔法で空気を送り込んで作った。最後にヘレネの時空魔法でその化石に流れる時間を24兆倍、とりあえずめちゃくちゃ加速させて作り出したのだ。これならば魔力を消費しなくとも大きなダメージを与えることができる。
爆発をまじかに浴びたミノタウロスは跡形もなくなくなった。結局俺のHPは半分ぐらいまで削られてしまった。
「はあ。強かった。あっ。そういえばテール様。ご忠告ありがとうございました。」
テール様の忠告がなければヘレネに何かあったかもしれなかった。
《いや、まだこれからだ。まだ君に危険が迫っているらしい。》
「えっ!?」
嘘だろ。これよりも強い魔物が来るの?さすがにヤバい。
すると、目の前にボディービルダーのような筋肉をした大男が現れた。
「ほう。貴様がセルスだな。」
目の前にいる男はミノタウロスと比べ物にならないオーラをまとっている。それこそ魔神ラーのような。
「…そうですが。あなたは?」
「俺か?俺は魔神ケプリだ。お前は魔王セクメトを追い詰めたそうだな。あのミノタウロスを倒してみせるとなるとなかなか強そうだと見た。そこでだ。お前、俺の配下にならないか?」
「は?」
俺は一瞬ケプリの言っていることがわからなかった。
「いや。俺はそんなものにはならない。」
あんなセクメトのような奴にはなりたくないし、そもそも俺は魔神を倒すという使命がある。
「そうか。じゃあここで死んでもらう。」
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