襲来のツインテール
白川さんの帰りを待つために、ずっと家の前で待っていたツインテールで小柄の少女。その格好は昨日、白川さんが来ていた制服と一緒で、そして白川さんを知っている様子だった。
白川さんはその少女を見た瞬間、咄嗟に逃げ出して、私も走って白川さんを追いかけようとしたら。
「はぁ……はぁ……」
大体30メートルぐらいだろうか。その30メートルは普通に走っていたが、今では息を激しく切らして、膝を着いてダウンしていた。
須和山の長いコンクリートの坂を上っている時でもかなり息が上がっていた。やっぱり、白川さんは体力が全く無いようだ。と言うか、無さすぎじゃないだろうか。
「捕まえた」
白川さんは、あっという間に小柄な少女に確保されて、白川さんを白川さんの家に移動させようとしたが、白川さんは意地になって、この場を動こうとはしなかった。
「そんじゃ本題。美夢と一緒に来た、あなたは誰?」
白川さんを移動させようと手を引っ張る中、少女は目を細めて私の事を睨んでいた。
「美夢は凄い人見知り。心を開いた人しか話さない。それがどうしてあなたみたいな人が、美夢と一緒にいるの? もしかして、嫌がる美夢を無理やり連れ回した?」
「ち、違うっ!」
敵意むき出しで私にそう言ってきたので、私もムッとして、このまま黙っていられずに反論しようとすると。
「……違いますよ。……学校をサボったのは、私の意思でやった事です。……華原さんを責めないでください」
沈黙を破った白川さん。そしてようやく歩いた白川さんは、私の前にやって来て、私に頭を下げた。
「華原さん。私、本当は学校だったんです。華原さんを見知らぬ町で一人にするのが嫌だった、華原さんが探し物を、私も一緒に探したかった。ただ、私の我儘でやった事なんです」
どうして須和山の近くにあった学校を避けていたのか。それはあの学校が白川さんが通う学校で、白川さんが学校がサボっていることを、万が一に見つかると厄介だから。
白川さんの言う通り、確かに私は白川さんが離れてしまったら、私は再び独りぼっちになってしまう。まだ見知らぬ町で指輪を探すとなったら、時間はかかると思うし、まだ見つかっていない可能性もある。もしかすると、諦めていたかもしれない。
「……そっか」
白川さんの頭を軽く叩いて、白川さんに注意をした。
「けど、学校を無断欠席するのはダメだよ」
あの出来事のせいで、私は学校に行けていない。行きたくても行けなかった身だ。こうやって学校に通えているんだから、私にとっては羨ましく、そして勿体無いと思った。
「彼女みたいに白川さんを心配してくれる人、待ってくれる人がいるなら、ちゃんと行かないといけないよ」
「……はい」
この様子だと、明日はちゃんと学校に行ってくれるだろう。しょげた顔をして、ぺこりと頭を下げた。
けど、いいな……。私も、学校に行って、色んな人と関わってみたかったな……。
「悪い人じゃ、無い……か……」
ツインテールの子は、私と白川さんのやり取りを見て、さっきまで敵意を向けていた目で見ていたが、今ではにこやかな顔をしていた。どうやら、私の誤解は解けたようだ。
「……ねえ。……貴方の名前は?」
「私は華原美花……」
そう名乗ると、ツインテールの子はにこやかな顔で頭を下げて一礼した。
「私は青空花菜。美夢とは友達なの」
青空さん。小柄な体型で、誰とでも気さくに話す、とっても元気な女の子。白川さんとは真逆の性格のようだ。
「さっきは疑ってごめん。急に美夢が学校に来ないし、電話にも出ない。家も留守だし、もしかして変な事件に巻き込まれたのかと思って」
青空さんの解釈は間違っていないだろう。私と関わったせいで、白川さんがヒューマンキラーの手によって寄生されて、私を殺しかけたからね。
「それで、華原さんと美夢とは、一体どう言う関係?」
「話せば長くなるんだけど……。私は、白川さんに助けてもらったんだ」
「美夢に? それは意外だね」
青空さんは、凄い人見知りの白川さんが、私を助けたことに疑問に思っているようだ。
「信じられないかもしれないけ――」
急に私の背後から殺気を感じたので、私は指輪からスティックに変形させて、寸前で当たるところだったヒューマンキラーの攻撃を受け止めた。
「……俺は、諦めない。……40番」
「しつこい……!」
今、私に攻撃をしたのは、さっき白川さんが崖底に蹴飛ばした、ヒューマンキラーだった。随分体は泥と傷だらけ。結構山の下まで転がって行ったようだ。
「40番は、ハレー様が一目置いているとても貴重な実験人間だ。ここで手放すわけにはいかない」
私の体の一部を掴んで来ようとするが、今は私の方が有利だ。
ヒューマンキラーは、白川さんの一撃によって、大分体力を消耗しているようだ。そして私は、さっきルビーの指輪で回復したので、余裕がある。
けど今、私がヒューマンキラーに戦って勝てるとは言い切れない。怪我の治癒で体力を使い過ぎたのか、物凄く体が怠い。半端な気持ちで戦えば、また私は負けて捕まり、白川さんたちを危険な目に合わせる可能性もある。ここは慎重に行くべきだろう。
「さあ。戻るぞ」
「もしあんたたちの命令を無視すると言ったら?」
「断ると言うのなら……」
ヒューマンキラーが懐から取り出して、青空さんに向けて投げたのは。
「青空さんっ! 逃げて――」
「よっと」
ヒューマンキラーが投げたのは、人間を寄生するスライムが入った小さな瓶。
逃げるように、注意を促したと同時に、瓶が地面で割れる前に、青空さんがキャッチしてくれた。
「華原さん。これ、どうすればいい?」
「えっと……。私に渡してほしいな……」
青空さんから、スライムが入った瓶を受け取った。じっくりと見ると、ローションのようなドロッとした液体のようだ。そして中には赤いビー玉のような物も入っている。これはスライムの心臓部の核。この状態なら核さえ壊せば、倒す事も可能だ。
「ヒューマンキラー。形勢逆転ね」
今回は、青空さんのファインプレーによって、あっけなく決着がついてしまったけど、今回は完全に私の方が優勢だ。
このまま私が、スライムの入った瓶を持っていても、どうしようもない。新たな被害者を出さない為、さっさと瓶ごと壊して、スライムを退治した方がいいだろう。
「これは、ここで壊させてもらうから」
瓶を地面に置いて、そして指輪をスティックに変えて、瓶を破壊しようとスティックを思いっきり振り下ろして破壊した。スライムの核が破壊され、スライムが蒸発していったので、これで白川さんと青空さんを守り切る事は出来ただろう。
「よ、よくもやった――」
今にも飛び掛かってきそうだったので、私はヒューマンキラーの鼻先に、スティックから剣に変えて、剣先にを突き付けた。
「実験人間に殺されたいなら、すぐに楽にしてあげるけど?」
そう脅すと、ヒューマンキラーは私たちからかなりの距離を取って、私を睨んでいた。
「……40番。……今回は40番を確保する手段を失った。……撤退させてもらおう」
ようやくヒューマンキラーは私を捕まえる事を諦めたらしく、私たちの前から逃げて行った。
何とか、今日だけで2回あったヒューマンキラーの襲撃を乗り越えることが出来たようだ。そう思うと、急に体に力が抜け始めて――
「……だ、大丈夫ですか?」
「……うん。……大丈……夫……だよ……」
尚更、白川さんの優しい表情を見たら、緊張が解けた。
家に帰り、お母さんに出迎えらたようなホッとした感覚に陥り、そして疲れが一気に出てきた私は、白川さんに抱え込まれて、気を失った。