お風呂は本音を言いやすい
「……もう、クタクタだよ」
ようやく私たちは、銅谷先生に解放され、ようやくありつけた夕食。施設の人が作ってくれた、定食を食べて、少し体力が回復したような気がした。
あの後、私たちだけ別室に案内され、反省文を書かされた後、銅谷先生の監視下で勉強会の続きをする事になった。銅谷先生の担当は数学。けど、自習で美夢が数学を勉強して、少し行き詰っている時にも、先生が美夢に勉強を教えていた場面もあった。
「……美夢は、疲れていないの?」
「大丈夫です。……先生のおかげで、分からない所が分かったので、今回の勉強会は凄く感謝しています」
美夢は満足そうだった。私が悩んで書き上げた反省文だけど、美夢はスラスラと書いて、すぐに勉強に取り掛かり、銅谷先生が説教中でも何食わぬ顔で、ずっと先生の顔を見つめて先生の説教を聞いていた。もしかして怒られ慣れているのだろうか。
そして夕食を食べ、私たちの部屋に戻った。風香曰く、お風呂に入った後、明日の朝の6時半までは、特に用事がないのでゆっくりして良いようだ。
「華原様。ちょっと、お話したいことがあるのですが~」
ゆっくりしても良いと言う事なので、私は畳の上で寝転がっていると、少し部屋を出ていた風香が戻って来て、そう私に告げた。
「……説教なら、後日にしてほしいな」
風香だって、クラス委員長だ。私たちの行動に怒り、みんながいない所で説教するのではないのかと思い、体を起こしてからそう言うと、風香は首を横に振った。
「説教ではありません。華原様に、少しお役に立つことが分かりましたので~」
「役に立つ事?」
「華原様たちの世界で暴れている、地球外生命体の事ですよ~」
美夢が回し蹴りでノックアウトにして、それから風香の家で飼われているというヒューマンキラー。首が変な方向に曲がっていても生きているという事なので、あれからヒューマンキラーから色々と聞き出したのだろう。
「弱点が分かったとかではないのですが、DNAを採取したら、ハレー族も人間に近いと言う事が分かりました~」
「……親戚ってこと?」
「簡単に言えば、そういう事です~」
見た目は人間とあまり大差はない。私たちのように、服を着る習慣もあるようだし、恋人や家庭を持つという話は、あの監獄の中で聞いた話だ。あんな奴らと、私たちが近い存在だというのは、かなりショックだ。
「ちなみに、血液型はRh-でした~」
聞きなれない血液型に、私と花菜が首を傾げていると、美夢は珍しい血液型だと教えてくれた。
「生きたサンプルがいますから、血液を採取して、アレルギー反応でも調べられるかもしれません。今後とも、調査していきますね~」
「……ありがとう」
こうやって、私の私情を親身になって協力してくれて、自分の身に危険が及ぶかもしれないのに、ヒューマンキラーの事を調べようとしている。ありがとう。その言葉だけでは、感謝しきれない。何か、形でお礼をしないといけない。
「さて、そろそろお風呂に行きましょうか~。入った後は、みんなで枕投げですよ~」
私にとって、今からが本来の目的と言えるだろう。みんなでお風呂に入って、寝る前に枕投げ。ずっと憧れていた事がようやく出来ると思い、私は浴場に向かう通路では、小さくスキップをしながら向かった。
「……気持ちいい」
そして私たちはお風呂に入った。大きなお風呂は恐らく初めて。このような大きなお風呂には、効能とかあるのだろうか? 肩こりとか、疲労回復効果とかあったら、私の日頃の疲れも取れていきそうだ。
『あの生き物も人間に近いと言う事が分かりました~』
お湯に浸かっていると、さっき風香が話した話が、どうも気になり始めていた。
私たち人間と近い存在がヒューマンキラー。親戚のような存在なら、どうして私たちを殲滅させようするのか。
確かに、見た目は私たち人間とあまり大差はない。人間と同じく家庭を持ち、衣食住もあるらしい。ただ違うと言うのは、強く人間に恨みを持ち、性格が凶暴だという所だろうか。花菜が貸してくれた漫画の宇宙人のように、人間と共存は出来なかったのだろうか。
「美花ちゃん。じゃんけん――」
「え?」
あいつらの事について、色々と頭の中で巡らせていると、いつの間にか花菜が現れ、そして不意にじゃんけんを仕掛けて来た。
「私の勝ちだね」
咄嗟に出したグーは、花菜のパーに負けていた。
「じゃあ、美花ちゃんはフウちゃんと戦って」
「戦い……?」
「枕投げのメンバーだよ。私と美夢、美花ちゃん、フウちゃんに分かれて戦おうってわけ」
何のじゃんけんかと思いきや、私は枕投げのメンバーを分けるじゃんけんをされていたらしい。なるべくなら、美夢と一緒が良かったんだけど……。
「そんなに美夢と一緒が良いなら、やっぱり変わろうか?」
「別に……」
じゃんけんは、じゃんけんなので、私は風香と戦う事にした。けど美夢を諦められず、感情は行動に出ていて、口元まで湯船に浸けてブクブクした。
「……花菜と美夢って、どうやって仲良くなったの?」
白い悪魔として恐れられていた美夢。みんなが怖がる中、どうして花菜は美夢に接近して、仲良くなったのだろうか。
「私と美夢が出会ったのは、高校の入学式。美夢が自己紹介をした瞬間、クラスのみんなは凍り付いていた。それから美夢は独りぼっち。ずっとしょげた顔で、机の模様とにらめっこしていたのが凄く印象的だったね」
「花菜は怖くなかったの……?」
昔の美夢が、どれだけ怖かったのかは分からない。みんなが恐怖のどん底に落ちると言う事は、美夢は魔人、魔王のような印象だったのだろう。
「おっ、とは思った。けど授業は真面目に聞いて、顔を赤くして休み時間はクラスの人に話しかけようとして、教室に落ちているゴミを進んで拾う姿を見て、誰が悪い人に見える?」
私もその光景を見ていたら、本当に悪い人なのかと疑ってしまうだろう。やっぱり根は優しいのが美夢。暴れていたのも、悪い人が関わってきたせいで、非行に走ってしまったのかもしれない。
「何の話をしているのですか……?」
花菜が言い終わった途端、念入りに体を洗っていた美夢が、ようやく湯に浸かって、一息ついて会話に入ってきた。
「さあ? どうやったら、学校が無くならないかなと言う事で、話し合ってたの」
「そ、それなら、他校の生徒を病院送りにすれば、しばらくは学校は休みなると思いますよ……?」
やっぱり、美夢は本当は怖い人なのかもしれない。そんな恐ろしい事を、淡々と語る美夢は、本当に悪魔のような素質を持っているのかもしれない。
「冗談だよ。美花ちゃんが、私と美夢の馴れ初めが聞きたかったみたいだからさ」
「『私と喧嘩したの覚えてる』って、いきなり喧嘩売って来たのが、最初に交わした会話でしたね……」
美夢と花菜出会いにちょっと感激していたのに、花菜の最初の行動で台無しだ。
「……やっぱり、花菜も暴れていたの?」
「まあね。美夢ほどじゃないけど、悪の組織の下っ端みたいな感じだった」
あまり花菜が喧嘩するイメージがない。スマホゲームをずっとしている、ゲーマーの印象しかないので、美夢のように暴れているのが想像できない。
「フウちゃんも、昔暴れて――」
「青空様? ちょっと付き合ってくれませんか?」
いきなり現れた風香は、入浴中の花菜をどこかに連行していった。風化に昔の事を聞くのはタブーのようなので、あまり気にしないようにしよう。