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屋上の誓い

 

「つ、つまり、そう遠くのない未来で、ハレー族と言う地球外生命体が、地球を侵略しに来ると。そ、それで華原様は地球外生命体を倒すため、日々活動されていたと……?」


 何度か黄森さんが処理落ちしながら、ようやく私はここまで説明した。ここまで説明するのに、ヒューマンキラーと戦ったぐらい疲れた気がする。


「けど、私も度重なる戦いで、体力が尽きた。そして私は殺されることなく、なぜかヒューマンキラーの本拠地に連行された。そこで私は、じ、実験人間として拘束されて、拷問を受けた」

「ご、拷問……ですか……」


 7度目の処理をした黄森さんの回復を待つ間、青空さんは拷問で何をされたか聞いてきた。


 人が作り出した武器、鈍器での暴力。ヒューマンキラーが作り出した兵器の検証実験など。とにかく、私を痛めつける拷問が多かった。


「……そ、それで拷問される日々の中、どうやって逃げ出したのですか?」


 だいぶ話を理解してきたのか、復帰が早くなってきた黄森さんは、話の結末を聞いてきた。


「ヒューマンキラーの実験中だったと思う。偶然出来た異空間につながる穴が出来たと言って、それで実験人間として投げ込もうとした隙に、ちょっと機械の数値をいじったら、この世界に来た」

「……ようやく話を理解しました」


 ようやく落ち着きを取り戻した黄森さんは、大分冷めてしまった紅茶を飲むと、黄森さんは私を穏やかな目で見ていた。


「華原様の状況を知ってしまった私たちに出来ること、それは華原様をお守りする事です。華原様みたいに果敢に戦う事は出来ないと思いますが、私、白川様、青空様が協力して、華原様をお守りすることを誓います」

「そういう事。美花ちゃん、これからもよろしく」

「……私も頑張ります」


 普通なら、命に係わるから私から遠ざかろうとするだろう。けど、美夢だけじゃなく青空さんと黄森さんも協力すると言ってくれた。私を放って置くことが出来ないお人好しなのか、それとも仲間意識があって協力してくれるのか。そのどちらかと思うけど、そう思ってくれたなら、私は嬉しかった。


「華原様の話が終わったので、次は気になっているであろう、白川様のお話ですね」

「……私が話します」


 黄森さんがチラッと美夢の方を見ると、美夢は小さな声で話し始めた。


「……私が暴れていたのは本当です。……ある人に誘われたのがきっかけで、そこからいろんな人と勝負して葬っていました。……3年前でしょうか? ……自分がやっている事が過ちだと気付いて、私は暴れることをやめました」

「……そっか。話してくれて、ありがとう」


 これ以上聞くのはやめた方がいいかもしれない。話している時、美夢は辛そうな顔をしていた。


「……私だけではなく、青空さんと黄森さんも――むぐっ」

「私のイメージが崩れてしまうので、それ以上は言わないでください~」


 黄森さんに口を手でふさがれてしまった美夢。もしかして美夢だけじゃなく、青空さんと黄森さんも昔暴れていたとか……?


「それではお茶だけではなく、お菓子も用意していますので、そちらも頂きましょうか――」


「な、なんだこれは……!!」


 和やかな雰囲気だったお茶会。そんな雰囲気を壊すことが起きていた。


「平和な日は続かない……か……」


 黄森さんの命令で動いていた黒いスーツの男性の一人がスライムに寄生されそうになっていた。


「今、助けますから、動かないでっ!」


 男性の体の半分以上を呑みこんでいる状態。まだ完全に寄生されていないので、スライムの中にある核を壊せば、大事なことにはならないだろう。指輪からスティックにして、そしてスライムの核を突くと、スライムは蒸発していった。


「調査していたら、こんなところに40番がいたから、ついでに捕獲しようと思ったのに、何で殺しちゃうの?」


 そして屋上に設置されている空調機の室外機の上に座っていたヒューマンキラーが、私の目の前に立った。どうやら、このヒューマンキラーが、今回の騒動のきっかけのようだ。


「厄介な相手なのは聞いていたけど、さて武器を失った僕は、どうやって40番を捕獲すればいいんかな?」

「諦めて、元の世界に帰るでいいと思うけど」

「それは嫌だ」


 そしてヒューマンキラーは私に攻撃をしてきた。人の幼少期のような小柄なヒューマンキラー。力は強く、素早く動くので、攻撃を当てるのは難しそうだ。


「フウちゃん。こんな事を言っているけど、それでもこんな奇妙な生物を飼いたい?」

「そうですね~。映画とかに出てくるグロテスクな見た目のエイリアンかと思っていましたが、あまり人と変わりませんね~」


 スティックで防御している最中、そんな会話をしながらやってくる青空さんと黄森さん。黄森さんは、どうやらヒューマンキラーを飼いたいと言っているようだけど、どう見たらヒューマンキラーをペットのように見えるのだろうか?


「華原様を実験体にしていたなら、私たちにもあなた方を実験する権利があると思うのです。どうですか? ちゃんとおもてなしをしますので、私の家に来ませんか?」

「嫌に決まってるだろ。人間に屈服するなら、スライムかぶって自滅した方がマシだぞ」

「それは残念ですね……」


 黄森さんは、ヒューマンキラーの頬を少し掠る程度で、風を切る音が聞こえるほどの強烈なパンチをすると、ヒューマンキラーは呆然として尻餅をついた。


「あなた様の体の中に入っている液体、臓器を見たいなら、このまま攻撃を続けますよ?」

「ぼ、僕たちを倒すと言うの? 40番でもない人間が? 俺たちを倒すなんて、不可能だぞ」


 黄森さんの話を笑い転げていると、黄森さんは残念そうにため息をついた。


「それなら、あなた様は死を選ぶという事ですね」


 再び笑い転げているヒューマンキラーに強烈なパンチをする黄森さん。もしかすると、私よりも強いんじゃないだろうか――


「きゃっ!」

「動くな」


 黄森さんの戦う姿を見ていたので、私は緊張が緩んでいた。小柄な体形で動きは速いので、あっさりとヒューマンキラーに捕まってしまった。


「動いたら、40番の首を折る」

「あらあら……。大変なことになってしまいましたね……」


 私が人質にされてしまったので、黄森さんの動きも止まった。

 ヒューマンキラーは私の背後に回って首を絞める、ヘッドロックをされている。早く抜け出すために、ヒューマンキラーのあの場所を――


「……っと」


 そんな時、気配を消してヒューマンキラーの背後に回った美夢。何の躊躇もなく、ヒューマンキラーの頭に回し蹴りをして、ヒューマンキラーを一発で仕留めた。美夢の回し蹴りによって撃沈したヒューマンキラーは、首が変な方向に曲がり、口からは泡を吹いて倒れていた。


「ナイスアシストですよ~」

「さすが、伝説の少女」


 今回の行動に、黄森さんと青空さんに称賛されると、美夢は少し頬を赤らめていた。


「……美花さんを守るって、決めていますから。……そういう時だけです」


 そう言って美夢は、私の所にやって来て、私の体にどこか怪我していないかをくまなく確認していた。


「とりあえず、ハレー族でしたよね? 家に招待して、色々と研究します」


 黄森さんは黒いスーツの人を呼んで、気絶したヒューマンキラーを紐でぐるぐる巻きにした後、ヒューマンキラーを連行していった。

 美夢、青空さん、そして黄森さんが傍にいてくれる。戦いができる、ちょっとだけ私の気が安らいだような気がした。


「さて、お茶会の再開ですね。華原様は続けて同じ物を飲みますか~?」

「美花ちゃん。コンソメ味、のり塩のどっちが食べたい?」


 このような境遇の私を、二人は迎え入れてくれた。編入初日に美夢以外の友達、仲間が出来たこと、きっと天国で見守っているはずのお母さんも喜んでいるはず。


「風香。今度は紅茶でお願い。花菜、私はのり塩が食べたいな」


 勇気を出して下の名前で呼んでみると、風香も花菜も、嬉しそうに頬を緩ませて頷いてくれた。



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