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お茶会

 青空さん、先生だけではなく、クラス委員長の黄森さんも現れた。もしかすると青空さんが応援として黄森さんを呼んだのだろうか。


「白川様はとっても有名な方です。急に現れ、急に姿を消した伝説の少女と知られています」

「私も早く話しておくべきだったよ」


 この様子だと、青空さんも美夢の事を知っていたようだ。黄森さんの話を否定しなかった。もしかすると、青空さんが言おうとしていた初回特典の話は、この事だったのかもしれない。


「特に目立った外傷は無いようで……。か、華原様……。その手はどうされたのですか……?」


 血が垂れ続けている右手に気づいた黄森さんは、少し青ざめて、私の右手を見つめていた。感覚がおかしくなってきたのか、もう痛いと言う感覚が無くなってきていた。


「えっと……。さっき転んで……」

「転んだだけで、そんな状態にはならないと思います……。早急に保健室に――」


 この状態を保健の先生に見せたら、確実に病院に行かされるだろう。


「治ったから、もう保健室に行かなくてもいいよね?」


 指輪に念を込めて、手の怪我を治した。治した手の平を黄森さんに見せると、黄森さんは動きが止まった。


「華原様。貴方様は、ただの編入生ではありませんね。私、更に華原様に興味を持ってしまいました」


 黄森さんの言葉の後に、昼休みの終わりを告げるチャイムが無情にも鳴った。そして黄森さんは私たちに背中を向けて、校舎に向けて歩き出した。


「華原様。放課後にお茶会をしましょう」


 私の方にもう一度振り返り、にこっとした表情をして、黄森さんは再び歩いて行った。



 初めての高校生活はとても長く感じた。怒らない先生だったので、昼休み以降の授業が全部寝ていた。そして少し体力が戻った私は、大きく背伸びした後、黄森さんは私の所にやって来た。


「お疲れのようなら、後日にしましょうか?」

「……大丈夫。どこでやるの?」

「誰も来ない、せっかく晴れていますから屋上で行いましょうか~」


 黄森さんは、この学校の屋上でお茶会をするようだ。


「早速、フウちゃんと仲良くなったんだ。ねえ、私も混ぜて」

「勿論ですよ~」


 鞄を持って、帰る気満々の青空さんは、私がいるせいか、黄森さんのお茶会に参加したいようだ。


「美花ちゃんがいるなら、美夢も参加するんだよね?」

「は、はい……。黄森さんに、差支えが無ければ……」


 おそらく、今からのお茶会は昼休みの事を聞かれる。ここは美夢も参加しざる負えないのだろう。


「4人でお茶会ですか~。華やかなお茶会になりそうです~」


 嬉しそうに席を立った黄森さんは、私たちを屋上に招き入れた。



 屋上には、生徒どころか、先生の姿も無い。誰でも入れるわけではないようだ。

 そして、私が昼休みにいたテニスコートには、テニス部の生徒だろうか、多くの生徒が集まっているのが見えた。


「……っと」


 手で押さえないと、スカートがめくれてしまいそうな、時折強めに吹く風だが、日差しが私たちを照り付けるせいか、風は心地良く感じた。


「何が飲みたいでしょうか~? 緑茶から紅茶、コーヒーやレモンティーもありますよ~」


 屋上には、すでにお茶会が出来るように、テーブルやいす、赤いカーペットが敷かれて、ティーカップや花柄の薬缶……? みたいなものがあった。恐らく私たちよりも先にいた黒いスーツ姿の男性が準備したのだろう。黄森さんの手下なのだろうか……?


「コーラは無いの?」

「コーラなら、今すぐ買いに行かせますね~」


 手を叩くと、一人の男性が屋上から飛び降りて、コーラを買いに行かせていた。結構高いし、飛び降りても大丈夫なのだろうか……?


「白川様は、何になさいますか?」

「……レモンティーで、お願いします」


 美夢は、メニューにあったレモンティーを頼んでいた。これ以上、スーツの男性を無理させない為だろう。


「華原様は?」

「わ、私も同じで、レモンティー……」


 私も美夢と同じ考えなので、レモンティーをお願いした。そして黄森さんが、私たちにレモンティーを淹れると、コーラを買いに行った男性が息を乱さず戻ってきた。


「華原様。私、手相で占うことが出来るんですよ~。お近づきの印に、見せてもらえますか~?」

「う、うん」


 そう言って、私は右手を黄森さんに見せると、黄森さんはがっちりと私の手首を掴んだ。


「これが、華原様の秘密ですか」


 どうやら、手相が目的ではなく、中指にはめている指輪が目的だったようだ。どのみち、話すつもりだったし、別に隠す気は無かったけど、こうやってまんまと、黄森さんの作戦に引っかかってしまうのは、何だか悔しい。

 金色に輝くリング。ルビーと思われる宝石の部分に日が当たると、ルビーは赤く輝いた。そして黄森さんは指輪を吸いつくように観察していた。


「貴金属等のアクセサリーを身に着けるのは校則違反となります。明日から身に着けないようにした方がいいと思いますよ~」

「それは無理な相談かな……」

「形見とか?」

「まあ、そんな感じ」


 貴金属類はうるさいようなので、銅谷先生に見つからないようにしないと思いながら、黄森さんから離れようとしたけど、黄森さんは私の手首をがっちり掴んでいた。


「華原様。貴方様は何者ですか?」


 黄森さんは、手首を持ったまま、私に微笑みかけて指輪の事を聞いてきた。指輪の力を見せた時から、もう黄森さんには、私の事を話す覚悟は出来ている。けど絵空事だと思って、信じてくれるか分からない。


「私は遠い未来から来たと言ったら、どうする?」


 そう本当の事を心の内を打ち明かすと、黄森さんは、私の手首を放して、にこっとしたまま動きが止まった。どうやら黄森さんは、驚くことがあるとフリーズしてしまうようだ。


「ま、まさかの未来人ですかっ!? わ、私の予想を遥かに上回っているのですが~!」

「……何十年後の世界からやってきました。……華原美花です」


 フリーズ中に情報を処理した黄森さんは、完全にパニックになっているようだ。パニックになりすぎて、黄森さんは口をパクパクさせていた。


「ねえ。未来から来たんだから、今後の日本がどうなるか知っているの?」


 青空さんがコーラを美味しそうに飲み終えた後、私にそんな筆問をしてきた。


「……えっと私が生まれた頃に、世界中に死ぬかもしれない病気が流行ったり、東京でオリンピックがあったり。……そして度重なる大きな地震、豪雨、すぐに記録を塗り替える異常気象が多発したって言うのは聞いた事がある」

「どこにでもつながるドアとかは?」

「ないよ」


 青空さんは漫画の話をしているのだと思うけど、それは私の世界よりも更に未来の話だったはず。

 お母さんから聞いた話を思い出しながら話すと、黄森さんは更に混乱したのか、空気が抜けた風船のように、椅子にもたれかかっていた。


「あははっ。フウちゃん、面白い」


 黄森さんの反応を見て、青空さんは可笑くて笑っていた。


「それじゃあ、美花ちゃんはいつ生まれたの?」

「えっと……。私は令和の――」

「「「れ、れいわ……?」」」


 あれ? 青空さん、黄森さんだけではなく、美夢までもが首を傾げている。今は令和の時代じゃないのだろうか。

 そう言えば、前に新聞を見たときには平成って書いてあったから、まだ令和の時代じゃないのかもしれない。

 けど私の聞き間違えて覚えてしまったかもしれない。もうお母さんはいないし、私はいつに生まれたのかも確認できないので、西暦で答えておいた。


「……そ、そんな方が、どうしてこの世界にやって来てしまったのですか?」


 私が生まれた西暦を聞いて復活した黄森さんは、紅茶を飲んで体力を回復させると、再び私に質問してきた。


 私がどうしてこの世界に来てしまったのか。その話を説明するとなると、黄森さんは今度こそ気絶してしまうかもしれないけど、話しても良いのだろうか? 未来から来たことを言っているので、もう言うしかないだろう。


「さっき東京でオリンピックをやるって言った。その数年後、ハレー族と言う宇宙人が日本を襲撃する。そして日本は滅んで、私は――」

「……あの、美花さん」


 説明中に美夢が私の肩を叩いてきた。


「……黄森さんが処理落ちしています」


 美夢の指摘通り、黄森さんは頭から煙を出して、椅子の背もたれにもたれかかっていた。



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