そして一歩へ
猛毒が込められた弾を肩に掠ってしまい、私も更に緊張感を持って戦わないといけなくなった。いつ毒で動けなくなるか分からない。すぐにこのヒューマンキラーと決着を付けないといけない。
私には指輪で毒を治す事も出来る。けどそれには相当の体力と集中力がいる。戦いながら治すのは困難で、急いで倒さないと体中に毒が回り死んでしまうだろう。
「これも予想通り。毒でも倒れないときは、すぐに仕留める。それが得策だと出ている」
「……それは私も思っていたところ。……私も早く倒さないと、どうにかなっちゃいそうだから」
そう言えば猛毒って言っていたっけ。徐々に力が入らなくなってきた気がする。
大きく息を吸ってから、私は長刀でヒューマンキラーに斬りかかると、ヒューマンキラーは再び拳銃で私に向けて撃ち込んできた。
「ほら。避けてばかりでは、辺りに植えられている木が枯れていくぞ」
足に力が入らなくなっている中、私は集中して弾の軌道を見て避け続けているが、避けると堤防に植林されている桜の木に命中し、そして段々と枯れてしまっている。
「……ちっ。弾切れか」
撃ちっぱなしのせいか、遂に猛毒が入った弾が切れたらしい。これはチャンスだと思い、私はとっさに接近して、ヒューマンキラーの首を斬り落とそうとした時だった。
「……うっ」
急に景色が歪んで見えて、そしてヒューマンキラーの目の間で倒れてしまった。
「ようやく毒が回ったか」
たった数分で、私の体中には毒が回ったらしい。そして殴られた訳ではないのに、無意識に口からは血が出てきた。
「毒で死んでも、再び蘇生させればいい。観念して元の世界に戻り、実験人間に戻れ」
「……ははっ」
「毒が回って、遂に頭がおかしくなったか――」
勝利したと思い込んでいるヒューマンキラーの首に、指輪から変えた槍で貫いた。
「……私が毒を治すって言うのは、想定していなかったのかな?」
全身に毒が回っているなら、弾が掠った肩に当てなくてもいいと思ったので、倒れている私を見て喜んでいるヒューマンキラーの隙に毒を治した。
「……実験人間を連れ戻す作戦は失敗か」
「分かったなら、さっさと楽になり――」
「自分だけ死ぬのは不本意っ! なら、40番と共に道連れになる運命を選ぶっ!」
態度が急変したので、私は距離を取って様子を伺うと、ヒューマンキラーは生物兵器のスライムを自分に寄生させた。
「きゃぁああああああああああああああああっ!!!」」
スライムに寄生されたヒューマンキラーは、とても大きな声を発した。耳を塞いでいなかったら、鼓膜が破れていただろう。けど、あまりに大きな声なので、私は踏ん張ることが出来ず、川まで飛ばされてしまった。
こんな事は私も初めてだ。人間に対して使い、人間を使い捨ての傭兵にするときに使用する物。それを私を道連れにするために、自ら殺戮マシーンになるのは想定外だった。
「……こんな事になるなら、もっと早く倒すべきだった!」
ヒューマンキラーの体中の筋肉が膨張し、体も何倍の大きさになった。けどスピードはすごく遅くなり、攻撃をかわすのは簡単になったが、私は再び血の気が引く光景を見てしまった。
私に向けたヒューマンキラーの拳は地面に命中したが、それは隕石が衝突したように大きなクレーターが出来た。命中したら即死だ。
「……あった」
うずうずしていられない。ヒューマンキラーの全身を見渡すと、ヒューマンキラーの腰にスライムに寄生されたときに出る目玉のような紋章があった。
「早く楽になりなさい」
紋章の所に、槍を突き刺すと、ヒューマンキラーは再び大きな奇声を上げて蒸発して消えていった。
「……終わった」
私をずっと追いかけてきたヒューマンキラーは何とか倒した。久しぶりの戦闘で倒せたなら、十分な成果だ。そして気が緩んで座り込んで辺りを見渡してみると。
辺りの地面はボロボロ。無残に枯れ木になってしまった桜の木たち。そしてこの騒動に駆け付けた野次馬。そしてサイレンの音も遠くから聞こえたので、悪目立ちしている私は、すぐにこの堤防を後にした。
服は私の血、ヒューマンキラーの血、土の汚れに、そして川に落ちてしまったので、全身はびしょびょになっていた。
白川さんになんて言い訳しようかと考えながら、高校の校門のところでずっと待っていると。
「……一体何があったんですか?」
学校から出てきた白川さんには目を丸くされて、すごく心配された。
「もしかして、これは華原さんの仕業だったりする?」
青空さんが私にスマホの画面を見せてくると、それはSNSで呟かれたさっきまで私がいた堤防の写真が付いた投稿だった。
「……うん」
「派手にやったねー。これで華原さんは有名人だ」
「……嬉しくない」
青空さんには変な風に慰められて、そして白川さんは私の身に何があったのかを聞いてきたので、正直に話すと。
「……無事で何よりです」
白川さんは怒ることはせず、私が無事だったことを安心していたけど、青空さんは私の体を見ながら、白川さんに話しかけた。
「けど、かなり拡散されちゃってるよ? この状態で華原さんを歩かせるのは、私たちSNS世代の注目の的かもね」
「……そうですね」
考え込むと、白川さんは自分の制服の上着を脱いで、それを私にかぶせた。
「服だけ隠せば何とかなると思います」
「それとこれもかけされば……」
白川さんは、自分の制服の上着。青空さんはなぜかアイマスクとマスクをかけさせた。
「うん。これで目立たない」
「逆に目立ってるよね……?」
私はどこかの刑務所に連行されるのだろうか。すぐにアイマスクとマスクを外して、白川さんの後ろによそよそしく歩いて帰ることにした。
「……ありがとう、白川さん」
今日の夕食は、カレーライス。何事もなく、家に着いた途端、白川さんは夕食の準備を始めた。白川さんの部屋で着替え終わって、リビングに向かうとカレーの匂いが漂ってきた。匂いがする台所に行き、夜ご飯の準備をしている白川さんにお礼を言うと。
「……名字で呼び合うのは止めませんか?」
おたまでカレーを回すのを一旦止めて、私の目を見て、そう提案してきた。
「……学校で花菜さんに言われたんです。……一緒に暮らしているのに、名字で呼び合うのは変ではないかと。……名字だと距離を感じるし、姉妹みたいに呼んでみたらって」
そして白川さんは少し顔を赤らめて、私に面向かい、目をウルウルさせた。
「……美花さん」
白川さんなりの友情の表し方なのだろう。白川さんがここまで勇気を出してくれたのなら、私も白川さんの要望に応えよう。
「……美夢? ……でいいのかな?」
私も何だか恥ずかしくなってしまい、顔が熱いと思いながらそう名前を呼んでみると。
「……ううっ」
急に名前を呼んだせいか、白川さんはキョトンとしてから、しばらく固まった。そして理解した途端、顔を真っ赤にして顔を逸らしてしまった。
まだ完璧に打ち解けているとは言えないようだけど、これはこれで白川――美夢さんと更に仲良くなれたような気がする。まだお互いにぎこちない関係だけど、これからもヒューマンキラーから抗い続け、そして美夢と一緒に暮らしながら、更に仲良くなれればいいなと思った。