登校と堤防と……
正式に白川さんの家に住めるようになった私。夜は、真希さんと白川さんで外食をして、そして一緒の部屋で寝た。
もう一生出来ないと思っていた、本当の家族ではないけど、再び家族の温かさ、家族の温もりを感じることが出来て、昨日は夢のような一日を過ごすことが出来た。
そして翌日。今日は家に籠る事無く、白川さんと一緒に学校に行ってみる事にした。家にずっといるのも暇だ。なら白川さんはどんな道のり、どんな光景を見ながら学校に行っているのか気になって、私は付いて行くことにした。
白川さんは、自転車や公共交通を使わず、ずっと長い距離を徒歩で歩いているようだ。白川さんが言うには、体力をつけるためだと言っているが、数メートル走るとすぐに息が切れてしまうので、実際にはあまり意味が無いようだ。
「……」
白川さんの横に並んで歩いているが、白川さんは顔をこちらに向けず、ずっと自分の足下を見て歩いていた。
まだ、私と話すことが恥ずかしいのだろうか。どうやったら、もっと白川さんに心を開いてもらえるのだろうか……。
「……白川さんが通う学校って、どんな所?」
いきなり話しかけた事が不味かったのか、白川さんは肩をビクッとさせ、びっくりしていたが、すぐに恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「ふ、普通の高校ですよ。須和高校は、普通科しかありませんから、毎日毎日、勉強尽くし。そして色んな人がいる高校だと思います……」
十人十色と言う言葉がある通り、人は色んな見た目、性格、考えを持っている。高校と言う色んな所から集まる場所なら、様々な人が集うだろう。
「そうそう。毎日毎日、1時間近く椅子に座らされて、子守唄のような話を聞かされる身にもなって欲しいよ」
学校に向かって、市内の大きな道を歩いていると、白川さんの横にひょいと現れたのは、数日前に白川さんを心配してやって来た青空さんだった。
「2人とも、おはよ」
ほとんどの人が眠いはずの朝なのに、青空さんは凄く元気だった。白川さんと出会えたのが嬉しいのか、満面の笑みで挨拶をしていた。
「花菜さん。今日はちゃんと宿題はして――」
宿題、と言う言葉を聞いた途端、青空さんは手で耳を塞いでいた。この様子だと、宿題はやっていないようだ。
学校指定のネクタイをせず、制服を着崩している彼女が、真面目に宿題をしているとは思えない。学校の授業はおやすみの時間のようだし、しっかりと勉強しに来ている白川さんとは違い、青空さんは学校は遊びで来ているような感じなのだろう。
「美夢は真面目過ぎるの。たった一度の高校生活。遊んでおかないと、一生後悔するよ?」
「……たった一度は、勉強も一緒ですよ?」
白川さんも正論を言ったが、青空さんはまあまあと、白川さんの肩をポンポンと叩いて宥めながら、私たちは再び歩きだした。
歩き出すと、青空さんは私の横にやって来て、顔をじーっと見て、そして腕や顔、私の体中をあちこち触ってきたので、所々くすぐったかった。
「華原さん。もう元気?」
「うん。もう大丈夫」
青空さんにそう返事すると、青空さんは安心したようで、にこやかな顔をした。
「無理は禁物。無理だと思ったら、私、そして美夢に相談して。一人で悩みを抱え込まないで」
「……うん。ありがと」
けど、青空さんたちはヒューマンキラーの恐ろしさを知らない、戦い慣れもしていない2人に頼る訳にもいかない。
もう白川さんと青空さんに心配かけないよう、またあいつらが襲って来たら、今後は負けない様にしよう。油断せず、どんな隙も見逃さない、あいつらに圧勝できるように、本気で戦おう。
「……華原さん、着きましたよ」
そう思っていると、私たちは白川さんたちが通う学校、須和高校に着いていた。昨日はよく分からなかったけど、確かに白川さんたちが来ている制服を、色んな人が着ていた。
「白川さん。もう疲れてない?」
「……もう1年通っていますよ。慣れています」
と言っている白川さんだけど、ふーっと息を吐いて、呼吸を整えていた。やっぱり1時間歩きっぱなしはしんどいのだろう。
白川さんの家から歩いて、およそ1時間ってところだ。毎日歩いて通うとなると、結構大変だ。
「……それじゃあ、また後、ですね」
「うん。夕方にまた迎えに来るよ。学校、頑張ってね」
そして白川さんとは、学校の校門で別れ、散歩しようと歩こうとすると。
「じゃあ私は、この町を華原さんに案内してきまーす」
「花菜さんは、こっちですよ!」
気が付くと、青空さんも私について来たが、すぐに白川さんに捕まって、学校の中にに連行されて行った。自由になりたい青空さんには悪いけど、私は須和川の堤防でのんびりと昼寝をして時間を潰そう。
須和川の堤防に着き、今日も気持ちよく晴れているので、私は堤防に仰向けになって昼寝をしていた。
こうやって昼寝をするぐらいなら、ヒューマンキラーに負けないように特訓した方がいいのだろうか。先日、私を元の世界に戻そうとしたヒューマンキラーが、また私を連れ戻そうと襲いに来る可能性は大だ。あのヒューマンキラーの目はまだ死んでおらず、私を諦めていなかった。
「……特訓した方がいいかな?」
お母さんから譲り受けた、ピカピカに輝いているルビーの指輪を見つめながらそう呟いた。あの日々のせいで、私はかなり弱体化している。ヒューマンキラーが現れないことが一番なのだけど、絶対にあいつらは襲ってくるだろう。そうなったら、白川さんに付き合ってもらおうかな……。
「絵美がいたらなぁ……」
絵美は捕まる前に一時期共闘していた女の子。私と同じぐらいの年で、戦闘もそれなりに強かったので、たまにお手合わせしてくれていた。絵美みたいな子がいたら、私もまた一歩強くなれたりするのだろうか。
「……やっぱり特訓しよう」
スティック状に変えて、私は目の前に敵がいると想定して、河原の真ん中で特訓を始めた。
目の前ではなく、仮に横から急襲されたらどうするか。避けることが出来ないまま、そのまま攻撃を受けるか。違う、そう言った予想も立てて、すぐに防御できるようにして、そしてカウンターを狙う。
「……これが、ダレスト様を倒した実力か」
まさか本当にヒューマンキラーが襲いにかかってくるとは思わなかった。実際の先頭の時みたいに素早く横にスティックを構えたら、ヒューマンキラーの拳が当たっていた。
「また私を連れ戻そうと?」
「それ以外、40番を襲う理由があるか?」
相手は今まで私を苦しめてきたヒューマンキラー。手加減なんてする必要なんてない。今までみたいに目の前に立つヒューマンキラーを倒すのみだ。
「40番の行動パターンは予想済みだ。あらゆるパターンでも俺は40番に勝てる」
「その予想が、実現するといいね……!」
スティックから一旦指輪に戻してから、再び強く念を込めて長刀に変えた。
「居合か?」
「人間の事は、ちゃんと調べているんだ」
「サフィルアに住んでいた人間が太古の昔に身に着けていた技。それぐらい、俺たちハレー族は調べてある」
人間の弱点を知るため、いろんな事を調べて研究されているようだ。
「居合の弱点は、こちらが動かなければいい」
「それじゃあ、一生私を捕まえられないけど?」
「それも予測済みだ」
懐から何かを取り出そうとしていたので、私はすぐに斬りかかった。
「予想通りだ」
ヒューマンキラーが拳銃のようなものを取り出し、それを私に向けて撃ち放った。
「くっ……!」
頭、胸の命中は避けられたもの、拳銃の弾は私の肩に掠った。
「掠ってしまっては、効果が薄れてしまう」
弾が命中した後ろの桜の木を見たら、一気に花が散って枯れ果てた。
「この地球上に住む生物が持つ猛毒を調合して、毒薬を作った。俺たちハレー族でも受けてしまったら、死に至るものだ」
私は一気に血の気が引いた。肩に掠って血が出ていることが分かる。何だか力が入らなくなってきているのは気のせいだろうと思い、気を引き締めてヒューマンキラーに向かい合った。