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影響

ダンジョンが出来てから2ヶ月ほどたった今でも、連日温泉ダンジョンには、大勢の女騎士がつめかけていた。


ただし今となっては、女騎士は自分が温泉に入りに来る目的ではなく、温泉に入りたがる貴人の護衛としてつくことが、ほとんどになっていた。


流石にあれだけの人数の肌と髪がみるみる綺麗になっていけば、温泉の効果を口止めし続ける事など不可能に近い。

あっというまに貴族社会に温泉ダンジョンの噂は広まっていき、大勢の貴婦人がダンジョンへ入ることを要望しはじめた。


しかしなんだかんだ言っても、ダンジョンとは人を殺すモンスターが大量に出る、非常に危険な場所なのである。

貴族の奥様やお嬢様が、いくら入りたい入らせろと要望しても、はいかしこまりました。と、簡単に許可を出せるものではない。


結果として、おそろしく過剰な人数の護衛を連れ、浴槽まで連れて行くこととなる。


そのためにかかる費用はもちろん貴族持ちだ、騎士だけではとても手が足りず、腕のたつ女の冒険者や傭兵などは、こぞってこの温泉ダンジョンへの護衛へと駆り出されることになった。


1階層の浴槽は現在では5000人は入れるほどの広さに成長している。

ダンジョン部分がちょっとしたサイズの洞窟なのに比べ、温泉部分はどでかい池みたいなサイズになっている、わけのわからないダンジョンである。


女王陛下がお入りになるときなど、数百人の騎士がガッチリとガードして、ネズミ一匹入り込めない状態を維持していた。


あまりに護衛の人数と費用がかさむため、護衛費の相場は日に日に安くされていったが、それでも護衛志願者が減ることはほとんどなかった。

護衛する見返りに、お付きの者も温泉に入る時間を設ける権利を要求していたからである。


貴族も小一時間、お付きの護衛が温泉に入る時間を設けるだけで、護衛費用がぐんと安くなるのだから、その要求を撥ね除ける者はほぼいない。


美より金を選び、報酬を下げる交渉には応じない傭兵達も、ごく一部いなくもなかったが、そういうタイプはそういうタイプで、皆の入浴が終わるまでの周辺の見張り役として、しっかり適材適所に重宝されていた。





「あらあなたの髪お綺麗なこと、2階層の湯までお行きになられたのね?」


ぷるぷるに潤った肌をしている子爵令嬢が男爵令嬢にそう問いかける。


「ええ……あなたこそ6階の温泉までお行きになられたのですね? 恐ろしく肌がお美しくなっているのがわかりますわ」


「ほーっほっほっほやっぱりわかってしまいます~?」


ええまあ肌は綺麗ね……認めるわ。

でも美女になる湯でも発見して、それに入ってからマウントとれよドブスがよ。

男爵令嬢は心の中で、そう毒づきながら目上である子爵令嬢の肌を褒めて、ご機嫌を取る。


それと同時に、私もいずれ必ず6階層まで行って、潤いの湯に入りにいかないと……。

そのように、羨ましいと感じる思いも同時に募らせていった。





そうして次々と、貴族令嬢達は、温泉ダンジョンの生み出す美容と言う名の欲望に心を囚われていく。


実際の所6階層まで、非戦闘員が無傷で済む護衛を固めるのは、上級貴族であってもかなり厳しい費用がかかるのだ。

護衛を最小限に抑えた結果自分を守りきれず、顔に消えない怪我でも負ってしまえば本末転倒である。

すでにもう、最小限の護衛で6階層を目指し、大怪我を負ってしまった令嬢が続出しはじめた。

美を求めて逆に顔に傷を負ってしまい、嘆き悲しむ者が大勢出始めた頃。


8階層が出現した。


大勢の騎士団がさっそく8階層の調査に乗り出し、発見された温泉に入った結果。

彼女たちのこれまでの戦いで、身体に刻まれていた数々の古傷の痕がすっと消えていった。


8階層の湯は傷あと消えの湯である。


そのような情報が国中に広まったあと、顔に傷を負い絶望で塞ぎ込んでいた令嬢たちの心に、またダンジョンの奥に向かうための決意と意欲が生まれ始めていた。


しかし……。そこにたどり着くためには、今の個人で護衛を雇って行くスタイルではもう無理だ。

安全を確保するためには、同じ思いを持つ貴族同士で探索出資金を募り、温泉ダンジョンの捜索を後押しする……。

その見返りに、王族クラスの巨大な護衛団の出陣に、相乗りさせていただき安全を確保できる権利を得る仕組みを作らねばならない。


一度の手痛い失敗が、彼女たちの堅実な思考を育くんでいった。


そうして温泉ダンジョンの探索は、個人個人で欲を叶える枠を超え、大貴族同士が協定を結び出資し合う、巨大な投資ビジネスへと姿を変えていこうとしていた。




ー現在の騎士団探索による調査報告ー


温泉の効能は各種の通り。


1階層 美肌の湯。

2階層 髪艶の湯。

3階層 シミ消えの湯。

4階層 実年齢から3歳くらい若返る湯。効果は一度きり

5階層 (効能不明)

6階層 潤いの湯。

7階層 小じわ消えの湯。

8階層 傷あと消えの湯。


ダンジョンに出没するモンスターの強さは、平均的なダンジョン以下。

自然地形による危険は多数あれど、悪意のあるトラップは一切見受けられず。

ゆえに、ダンジョン探索難易度自体は、極めて低レベルの部類である。


反面5階層では、やたら討伐高難易度のボスモンスターが出現するとの報告あり。

討伐後のボスのリスポーン速度も早く、数日で復活するとの事。


2階層までなら、5人程度の護衛で安全がほぼ確保できるが、3階層から先は運が悪いと非戦闘員では大怪我、死亡のおそれあり。

大規模な準備がない場合、基本2階層で引き返すべし。


また1階層の湯に限り、持ち帰っても効果効能を発揮することを確認。

1階の湯を美容液として各国に販売し、国の新たな財源とすることを進言する。

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