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尊敬

翌日ダンジョンに駆けつけた女騎士の数は、前日からは大幅に減り50人程度の規模であった。


会話を盗み聞きした所、前日の女騎士の殴り合いの乱闘は王宮でも大問題になったようで、本日は厳選された精鋭のメンバーだけで調査するようになったようだ。


それでも生まれたてのこのダンジョンに、50人もの精鋭の派遣はあきらかに過剰……というか無意味なので、この厳選された50人とやらも、ただ温泉に入りたいだけの美容欲がありありな奴らなのは間違いないのだが。


「前日より浴槽のサイズが広がっていたというのだな? あきらかに」


「はい、間違いありません。一昨日は100人が入れるのがやっとの浴槽でしたが、昨日は250人のうち200人は入れました、このダンジョンは……成長しています」


「100人しか入れなかった浴槽に、250人連れて行ったのか?」


「元々3グループで分けて順番に入る予定でした……。が、思いの外浴槽が広がっていたために、こぞってみんなが入ろうとしたのです……」


「それで、中途半端にあぶれて乱闘になったと……。ひどい話だな」


「面目次第もございません」


「ふん……まあここは女王陛下直属の我々セパンス女騎士団が統括することになったからな。あわてずとも入るチャンスはいずれいくらでもあるだろう」


「一般には開放しないのですか?」


「女王陛下の命令だ、広く開放して男どもにまでわらわらこられても邪魔だからな、まあ所詮は生まれたてのダンジョン、2階層への成長までには早くても年単位かかるはずだ。

温泉の効能さえ世間に秘匿していれば、今しばらくは我々が独占していたところで大した文句は出まい」


「あ…あの……。隊長……。」


奥の方を探索していた女騎士が報告に来る。


「なんだ?」


「地下が……出来ています。2階層が……。」


「……なんだと?」


普通に考えればありえない。

発生して一週間足らずで2階層が産まれるダンジョンなど聞いたこともない。

……それをいえば温泉しかないダンジョンなどというものも聞いたことがないわけだが。


「いかがいたしますか? 隊長。」


「精鋭が50人……。2階層程度調べるには十分すぎる、2階層も隅々まで調べるぞ」


「「「「ハッ!」」」」


全員が非常に力強く返事をした。

騎士として……ではない。

もっといい温泉があるかもという期待感が声に張りを持たせていた。


通常ダンジョンというものは、下層に行くたびに、複雑になりモンスターは強くなり。

そして……、得られる報酬も大きくなっていく。


人の欲望を刺激してより多くの者を、より強きものを自らの奥まで呼び込み、……最後は殺して自分の糧とする。

それがダンジョンというもの。

彼女たちはどっぷりと、ダンジョンの生み出す魔性の欲に囚われ始めていた。



彼女たちは皆、飯困らずダンジョンの8階層に単独で滞在し続ける試験の経験者であり突破者だ、たかだか2階層など一人でも十分探索できる。

難なく彼女たちは2階層にいる敵を蹴散らし、温泉を見つけると、安全確認もなにもなく皆服を脱ぎ捨て、我先にと温泉に飛び込んでいった。






「2階にはどんな湯を置いたんですか?マスター」


「1階よりパワーアップした美肌の湯でいいだろ……。なんか2階ならもっと肌に効くらしいし、髪だって綺麗になるみたいだからさ」


2階の瘴気で同じ湯を作ったら、色々効果効能が増えてたからこれでいいだろ……。

手抜きではない、手抜きではないぞ!

被りっぱなしの兜の中、汗と熱気に蒸らされ続けゴワゴワになったみなさまの髪がキューティクルに生まれ変わったら、世間への美容効果の宣伝も、入浴シーンの美しさもさらに映えるというものだ。


「ペタちゃん、ペタちゃん、3階層はどのくらいのタイミングで作るものかな」


「5万くらい稼いでたらいいんじゃないかしら」


「それじゃ、来週くらいにはもう、3階は作れるかな」


「作れるかもね……。すごいわねマスター」


もうペタは、マスターのことを完全に認めきっていた。


この人はすごい。

このマスターは、間違いなく私が100年で作った8階層を超える。

それも瞬く間に……。


あまりにも違いすぎる。

ここまで明確な差があると嫉妬の気持ちも湧かなかった。

あるのはただ驚愕と尊敬。


……そして長年待ち望み続けた、8階層を超える成長への期待感。

10階層……。いや……、20階層を超える超巨大ダンジョンの高みへ、この人なら私を、連れて行ってくれるかもしれない。





そして温泉ダンジョンが8階層に到達するのは、ここからわずか2ヶ月後の事であった。

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