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プロローグ ダンジョンマスター始めます

「あなたは、ウチのダンジョンマスターとして転生したのです。

多くの冒険者を欲で誘い込み、探索と戦闘で、彼らの血と魔力と命を、吸い取れるダンジョンを作ってください、マスター」


少女のような見た目の悪魔が、俺にそう問いかける。

目つきはキョロギョロした感じの三白眼のツリ目で、ウエーブがかった長髪が、体いっぱいに広がっている。


身体はつるっぺたの貧乳だけど…マジのお子様って感じじゃないな……。

発育不良で、子どもに見える成人女子って感じの見た目だ、うむ……なかなか俺好みの通な外見だな、いいじゃないか。

そんな事を考えながら彼女を眺めてると、不審そうに。


「おい……聞いているのか?」


と怒られた。


「あーうん……聞いてる聞いてる。

概要は「生前に」君から聞いてるから、だいたい知ってるよ、初めて見る君の姿を観察してたんだ」


調子の良さそうな様子でマスターと呼ばれた若い男は答える。


そう…彼女の声を聞くのはこれが初めてではない。

俺は生前死にかけていた。

不治の病を抱え病院のベッドで半年ほど寝ていた頃

ある日脳内に声が響いてきたんだ……。

内容は先程言われたこととほぼ一緒だ。


「私と契約しなさい……。

そうすれば、死後ダンジョンマスターとしてお前の魂を転生させてあげる。

ダンジョンマスターとなって冒険者を誘い込むのよ」


……死にかけで聞こえてきた幻聴かと思ってたけど

本当だったとは思わなかったな。


この幻聴とは、生前会話もすることができた。

ダンジョンマスターについての軽い説明なども、この時すでに受けていた。


そして俺は、病院のベッドでダンジョン経営の妄想をして遊んでいた。

あーすれば冒険者は来るかな?こうすれば冒険者は敬遠するかな…などと。



幻聴が聞こえる前……死にかけて動くこともできずに絶望していただけの時間と違い。

ダンジョン経営の思考に浸っている時間は結構楽しかった。

あの声が聞こえてから、俺が死ぬまではだいたい3ヶ月ほど……。


死にたくない、死にたくないと、ただ自分の運命に絶望していた頃より。

死んだらダンジョン経営が、ほんとに出来たらいいなぁ……とか。

死ぬ直前まで、呑気に考えるように気楽に死ねたのは、彼女のおかげだ。

そのあたりは深く感謝している。


そしていま本当に転生して、さあダンジョン経営をしてください、と言われた所なのである。

さてどうしようかな。



「君はダンジョンコアであり、人間を欲で誘い込まねばならない。

だがダンジョンである君には、人の欲というものがよくわからない。

……だから異世界の人間の魂を、ダンジョンマスターとして転生させて運営させるのが、最近のダンジョンコアの流行り……だったかな?」


「流行り、というほどでもないわね……。

ダンジョン支配権を人間に明け渡すのに、抵抗のあるコアがほとんどよ。

でもそれを実行したダンジョンは、かなりの確率でコアが自分で考えるダンジョンより

結果を出しているのもまた事実なの」


だろうなぁ。

だいたいのコアたちが考えているダンジョンは、敵を倒せば、金か宝石が出るダンジョンだと聞く。

そして、当のダンジョンコア達は「なぜこれで人間が喜ぶのか」は、正直よくわかっていないのだ。

ただ金や宝石を出せば人間が来てくれる。と、これまでの経験で知っているから、そういうモノが出てくる構造のダンジョンにしているに過ぎない。


より奥まで潜り込んで敵と戦えば、より質の良い金と宝石がとれるダンジョン。

それが、歴代のダンジョンコアたちが、数千年かけてようやく導き出せた答えなのだ。

なるほど、人間にダンジョンマスター権をあけわたして経営させたほうが効率がよさそうだ……。


「深い階層にならないと、いい宝石や金は出せないんだったっけ?」


「そうね……ダンジョンは深い階層に行くほどに瘴気が濃くなるの。

その瘴気は、ダンジョンの力であらゆる奇跡を起こせる……。

鉱物を宝石に変えたりして、モンスターに持たせておくと人間は喜ぶけど

低層で作れるそれらの宝石は、サイズは小さくて透明度も下がるのよ」


「地下水に魔力を注いで、怪我を治せる効果とかは出せるかな?」


「……できるはずだけど、1階層の瘴気じゃ小さな切り傷でも完全には治せないんじゃないの?

せいぜい治りがすごく早くなるだけじゃないかしら」


「軽い肌荒れ程度もか?」


「……はっきりとはわからないけど…そのくらいなら治せるかしら?怪我よりは軽いんでしょ?」


「地下水を温めてお湯にしたりとかは、1階層で可能か?」


「なによそれ…まあ、熱いお湯くらいなら可能じゃないの?」


……それなら俺がベッドで、寝ながら考えてたダンジョンはできるかな?


「よし……温泉ダンジョンを作るぞ」


「……温泉ダンジョン?」


「危険なダンジョンの中に、様々な美容の効果がある温泉が湧いており。

それに入ると、肌が綺麗になる!そんなダンジョンだ」


「………」


ダンジョンコアには理解が出来なかった。

まずこのコアは、温泉という概念から知らなかった。

そして、人間が最も好むはずの金品や食料などではなく、肌が綺麗になるなどという効能を提案してきた。

だいたいダンジョンコアに、肌荒れなんて概念はない。

なんか外の生物には、そういうよくない状態もあると知っている、程度だ。

しかし……怪我が治るならともかく、そんなものが治る効能でいいのか?

それで人が集まるとでもいうのか?

少なくとも、そんなダンジョンの前例はない。


……まあいい。

私にわからないことをするのが、召喚されたマスターの役目だ。

私でも考えつくような提案をしてこなかっただけでも、十分期待できると言えよう。


「わかったわ……すべてあなたに任せる…使えるダンジョン構築のエネルギー、ダンジョンポイント、それをあなたに託す。

これを使って、どれだけダンジョンを広げ、どれだけモンスターを呼んで、どれだけリターンである、その温泉とやらを出すのか。

それをあなたが決めるのよ、期待しているわよ……マスター」


「了解了解、これでも生前元気な頃は経営ゲームが大好きだったんだ いっちょやってやるぜ」




こうして、俺のダンジョン経営はスタートした。


挿絵(By みてみん)

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