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故郷ということ Ⅰ


 人は魔女であるべきではない。魔女は悪だ。許されるべき存在ではない。

 魔女が居なければ、私は疎まれなかった。

 魔女が居なければ、私は呪われなかった。

 あの眩い星紅が助けてくれなかったら、きっと私は死んでいた。

 私は魔女が嫌いだ、全ての魔女は悪だ。だから。

 許すわけには行かないのだ、絶対に。

 なのに。

 それなのに。


 ☆


「クレセン?」

「…………あ、うん、ごめん、ラーディア、ぼうっとしてました」


 ルーヴィ様直属の【聖女機構(ジャンヌダルク)】の本隊は、十人から二十人前後で行動している。

 人数に幅があるのは、大きな街に行く度に、ルーヴィ様が道を示してくださるからだ。

 安息の地へと少女たちを導き、魔女と疑われ、生まれた場所に居られなくなった少女を救い、また遠い安息の地へ連れゆく。

 私はまだ、【聖女機構(ジャンヌダルク)】に入って一年程度しかたっていない。

 それでも、たった一つ年上の女の子が、大きな力と、これだけの役割を背負っていることに、絶望した。

 女神が居るのなら、まずあの人を救うべきなのだ。なのに、人々は、女神の救いを、ルーヴィ様が与えることを望む。

 なら、私達が支えるしか無い。あの人の孤独を、重荷を、少しでも背負わなくては。

 【聖女機構(ジャンヌダルク)】の少女たちは、皆そう思っている。

 その誓いと決意は、正しく気高い、本物だ。


「外に馬車を回しておくわ、遅れないようにね」

「……うん」


 思いは変わらない。その願いは変わらない。

 だけど。だけど。

 ……だけど!

 ああ、私は今、あの貴い人を、裏切ろうとしている!

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