87.モール族の学者先生
レイアとの話し合いから数日。
日々の事にプラスして、冒険者ギルドの設立準備も進めることになった。
物はナールに任せているが、重要なのは建物の立地だな。
大樹の塔みたいに魔法で作ればいいので、いざ作り始めれば早いだろう。
とはいえ場所くらいは決めておくか……。
建物の中に入れる物を仮置きする必要もあるしな。
見渡すと改めて気が付くが、大樹の家も大分増えてきた。
下手なところに作ると利便性が下がりそうだな。
そして俺の目の前には窓や家具、色々な形の棚等々……。
入ってきたばかりの品物であふれ返っている。ニャフ族総出でチェックしているが、全部冒険者ギルドで使う品物だな。
「手早いですね、さすがニャフ族はいい働きをします」
満足そうに頷いているのはレイア。
当然、コカトリス帽子を被っている。
「……ふーむ、どこら辺に建てるのがいいんだ?」
「ザンザスの冒険者ギルドはダンジョンの近くですね。建てた後に街が大きくなってしまったパターンですが。あまり計画的ではないですね。他の所にあまり大きな冒険者ギルドはないのですが……」
「ナールのいた北部はどうだったんだ?」
入ってきた品物を確認しているナールが答える。
「北部だと人口も少ないですにゃ……。村長や町長の家が冒険者ギルドというのも結構ありますにゃ」
「なるほど……。自宅兼用ということか」
それはあまり気が進まないな。
計画では冒険者ギルドはかなり大きくなる。
もし今の俺の家に冒険者ギルドをくっつけると、上層階に移り住むことになるだろう。
この世界にはエレベーターがない。先々の腰と足を考えると、あまり高い位置に住みたくはなかった。
意外と三十代くらいからクるんだよな……。
「あとは森の入口ですかにゃ。素材の買い取りや地下通路の件があるから悪くないですにゃ」
「ふむ……あの辺りはまだ家が少なかったな。そうだな、利便性を考えるとあの辺がいいか」
「賢明かと思います」
「ですにゃ。それにしても、とんでもない品物の量ですにゃ……」
「全てを一気に揃えなくても良かったのですが……。建物はエルト様の魔法で増改築が楽ですし」
まぁ、それはそうなのだが。
しかしまとめて買ったので多少は安くなっている。
一番金のかかる建物は俺の魔法で作れるし、中の品物くらいは揃えたかったのだ。
「……支払いも現金一括でいいのですにゃ?」
「ああ、もちろんだ。その条件で安く買えたんだしな」
「ええ……っ!? これら全部、現金一括で!?」
レイアが目を見開く。
あ、彼女には言ってなかったか。
「有意義な金の使い道が見つかったからな。多少は奮発した」
「はぁ~……これが多少、ですか……。お金はあるところにはあるものですね」
俺が使わないだけとも言うがな。
ここに来てからあまり生活スタイルは変えていない。
食事にハムの原木が増えたくらいか……。
この世界には活版印刷もあり、俺の趣味の本もそこそこの値段で手に入る。
ステラも質素な生活だしな。彼女も意外と読書家なのだが、読む本は俺と被っているし。
とはいえご飯は美味しく、寝床がふかふかなら大抵のことは気にならない。
収入の大半は貯金になっているのが現状だ。
今回、その使い道が出来て良かった。
「金は眠らせているだけだともったいないからな。使ってこそだ」
「実際、エルト様が言われると違いますね……」
「商人にとっては素晴らしいですにゃ……!」
「にしてもこれだけのお買い物をいっぺんにされるとは……。ザンザスのお金持ちでも、そうはいないでしょうね」
と、そんなことを話していると向こうから一人……ニャフ族がとてとてと歩いてくる。
いや、ニャフ族じゃないな……。耳と揺れている尻尾がない。
……村の外からやってきたのかな?
◇
ふさふさ茶色の毛。それとスコップ。
近付いてくるとその人物の正体がわかる。
二足歩行するもぐらのモール族。
背丈はニャフ族とそう変わらない。俺達からすると子どもぐらいの大きさだ。
肩にかけるバッグがいいアクセントになっている。
……おお、モール族はこの世界では初めて見たな。
ゲームの中ではドリアードと同じく、NPCとしてクエストなんかに出てくる。
ドワーフと違ってプレイ可能な種族ではないから出番は多くはないが……。
でも適度にディフォルメされていて、かなりかわいい。
そのモール族はこちらに歩いてくると、丁寧にお辞儀をした。
「ちょっとお尋ねしたいもぐ……。もし間違ってたら失礼ですけど、あなたが冒険者ギルドのレイアもぐ?」
「ええ、そうですよ!」
「……本当にコカトリス帽子を被ってたもぐ」
ぽつりとモール族の人がものすごく小さな声で呟く。
声音も柔らかくて、誠実そうな感じだが……まぁ、レイアを見たらそうなるよな。
しかしすぐに気を取り直したのか、自己紹介をする。
「わたしはゼルア高等学院で採掘を教えていますイスカミナもぐ。ザンザスの冒険者ギルドより要請がありましたので、参上しましたもぐ」
そう言ってイスカミナは懐からペンダントを取り出す。これは身分証の代わりだな。
ペンダントには細かい字で当人の外見が書いてあるのだ。
それをレイアが受け取って、頷く。
どうやらちゃんと当人のようだな。
「歓迎しよう。領主のエルト・ナーガシュだ」
「ザンザスのギルドマスター、レイアです。よろしくお願いします」
「んにゃ。この村の冒険者ギルド、文書管理役のナールにゃ」
「ご挨拶、ありがとうございますもぐ」
イスカミナはちょっと前にレイアが言っていた、地下通路探索の専門家だな。
ゼルア高等学院というと、アナリアを初めとしてこの村の薬師の大半が学んだ教育機関か。
ゲームでもモール族は大抵地下に住んでいたし、鉱山や遺跡に詳しい種族だった。
それに加えて学者先生でもあるわけか。心強いな。
来るのが思ったよりも早かったが……手が空いている人を推薦してもらったのかもな。
ザンザスとしては地下通路がどうなのか、早く調べたいだろうし。
「ところでそのコカトリス帽子はなんですかもぐ?」
……お、イスカミナは中々強い。
突っ込んでいったぞ。
これまでのザンザスの冒険者と違って、イスカミナはレイアとは初顔合わせぽいしな。
気になるよな……。
「ザンザスのマスコットです」
レイアが胸を張って答える。答えになっていないが……。
鋼のメンタルとはこの事か。
全く動じていないな。
「……もぐ。エルト様、ちょっと良いですかもぐ?」
「構わないが……」
こそこそとイスカミナが話し掛けてくる。
「あれはあれで良いのですかもぐ?」
「気にしないでくれ」
「……わかりましたもぐ。やっぱりグランドマスターは変人揃いもぐ」
やっぱり……ということは他も変人なのか。
まぁ、大きな組織の長は強烈なものだからな。
「ところで荷物がスコップと肩にかけるバッグしかないようだが……」
「もぐ……親友のアナリアの家で暮らすので、荷物は持ってきてませんもぐ。高等学院ではルームメイトでしたもぐ」
「なるほど……」
そんな繋がりがあったわけか。
いや、この世界での学校は多くないからな。
必然的に学問的な繋がりは濃くなるか。
「その辺は任せよう。何か要望があれば遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございますもぐ」
そこでイスカミナの瞳が光った気がする。
なんだろう。
早速何かあったのか?
「……土風呂はどこでしょうかもぐ?」
領地情報
地名:ヒールベリーの村
特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)
住民+1(モール族のイスカミナ)
総人口:156
観光レベル:D(土風呂)
漁業レベル:D(レインボーフィッシュ飼育)
牧場レベル:D(コカトリス姉妹)
魔王レベル:F(悪魔を保護)
お読みいただき、ありがとうございます。