64.コカトリスの姉妹
俺の言葉をディアがコカトリスに伝えてくれる。
「ぴよぴよ、ぴぴよ!」
「……ぴよ! ぴぴよ、ぴよー?」
「なかまだからぴよー!」
ふむ、コカトリスは『どうしてそこまで……?』と言ったのかな……。
疑問文のときは分かりやすい。
ディアと暮らしている経験もあるが。
「ぴよ……」
コカトリスがじっと俺とステラを交互に見つめる。
つぶらな瞳がかわいい……。
「妹さんも助けます。どうか案内してくれませんか?」
「ぴよぴよー……ぴよぴよ!」
「いもうとのことをいわれると……わかったぴよ、だって!」
「ありがとう、全力で頑張るからね……!」
「ウゴウゴ、おれもがんばる!」
ふんす、とやる気を出すステラ。
さて方針は決まったな。
ブラウンと冒険者達に向き直り、今の説明をする。
ぴよぴよばかりで伝わってないだろうし……。
「――というわけだ。あのコカトリスの巣へと行く。巣と地下通路も繋がっているみたいだしな」
俺の言葉にアラサー冒険者が大きく頷く。
「フラワーアーチャーも出ましたしね。情報も欲しいところでさ。それに森の奥を探検するのには変わりねぇですし」
「ですにゃん。ここで立ち話を続けるわけにも行かないですにゃん」
「そうだな、ありがとう」
「それと……うちらもコカトリスにはザンザスで世話になってますからね。知らんぷりは寝覚めが悪いや」
そう言って鼻をかくアラサー冒険者。
……そうして槍を持っていると絵になるな。
ザ・冒険者という感じだ。
テテトカは、
「もぐもぐ……草だんごを好きなひとに悪いやつはいません。助けましょー」
とのことだった。
……うん、ドリアードはそう言うよな。
ともあれ全員賛成である。
俺達はコカトリスの案内で巣へと向かうことになった。
◇
それから俺達はフラワーアーチャーが来た方へ進むことになった。
本当なら地下通路を通って巣へと行くのだが、それだと遠回りになるらしい。
地上ルートの邪魔になるフラワーアーチャーを倒したので、そのまま地上を行く方が早いとのことだ。
【森を歩む者】のおかげですいすい森を進む。
この辺りはさらに木々が密集している。人の手は全く入っていないな。
まともに歩こうとしたらかなり大変だろう。
【森の鑑定人】も同時に発動させているが、フラワーアーチャーの反応はない。
戦闘も起きず順調に巣へと歩いていく。
そして三十分ほどで俺達は目的地に到着した。
そこは森にあって開けた場所だった。
綺麗な泉と石造りの小屋がある。
森に入って初めて人工的な建物を目にした。
ドリアードの古い家は大木なだけだからな。
泉は結構大きい。
直径五十メートルはあるか……?
二十五メートルプール、二本分より大きいと思う。ぱっと見た目測だが。
対して小屋はこじんまりとしている。
山小屋レベルで一人住めるかどうか。
とにかく小さい。一時的な滞在かちょっとした物置だな。
「ぴよぴよ~!」
コカトリスが小屋の近くで鳴くと、もう一体のコカトリスが中から出てきた。
うーん……見分けが付かない。
全く同じように見える。
「ぴよ!」(いもうとよ!)
「ぴぴよ!」(おねえちゃん!)
「ぴよー!」(かえったよ!)
「ぴよよー!!」(おかえりー!)
二体のコカトリスはダッシュしたかと思うと、そのまましっかりと抱き合った。
「ぴよぴよー」(それでね、実は……)
「ぴよ! ぴぴよ!」(あ、向こうにいた人間さん!)
「ぴぴよ、ぴよよー!」(そう、来てもらったんだ~)
少しの間、コカトリス同士でぴよぴよ会話が行われる。
多分、話しているのはさっきのことだろう。
抱き合っていたうち、一体がこちらに歩いてくる。
そのコカトリスは丁寧にお辞儀をして、
「ぴよよ、ぴよぴよぴよー!」
「おねえちゃんをおくってくれて、ありがとー! ぴよ!」
「ぴよ! ぴよぴよ~!」
「なにもないけど、なかでゆっくりしていってね……だぴよ!」
「歓迎ありがとう、嬉しいよ」
ただ小屋のなかに俺達全員が入るのは無理だな。
コカトリスは子供サイズだからいいとしても、あと入れて数人くらいか。
全員入るのも厳しそうだ。
「ぴよ?」
いもうとコカトリスが首を傾げる。
かわいい……じゃない。俺の言葉は通じないんだった。
……翻訳全部をディアにやってもらうのも大変だよな。
「話すのは私がやりましょうか?」
「む、それは助かる」
「娘に全部やってもらうのもあれですしね……。歓迎ありがとう、嬉しいです」
「ぴよ、ぴよ!」
「どういたしまして、ぴよ!」
ステラとディアを介して、いもうとコカトリスと話をしていく。
「なるほど、ここから西にフラワーアーチャーの拠点があるのか……」
「ぴよぴよ、ぴぴよー」
「わかってるのでせんぐらいいる、ぴよ」
「千体か。思ったよりも巨大なコロニーだな」
フラワーアーチャーは敵がいないとどんどん増える。そして支配エリアも大きくなる。
増えるスピード自体は遅いはずだが、この森には他に天敵がいないようだし……。
放っておくと着実に増えてしまうな。
うーん、ちまちま倒していってもいいが……。
ここまで大きなコロニーだと十中八九、ボス個体がいる。それを倒さないと根絶はできないだろう。
そしてボス個体は拠点の奥深くにいるはずだ。
ステラがぽつりと言う。
「……回復ポーションと時間があれば、このメンバーでも倒せそうですが」
「素材を回収するのに荷物少な目で来ましたからね。一旦、出直した方がいいんでないですか?」
そうだな。千体以上のフラワーアーチャーとなると本来は貴族か冒険者ギルドの案件だ。
さすがに探検ついでに戦う相手じゃない。
あるいはレイアに地下通路とフラワーアーチャーをセットで伝えるか。
そうしたら人を派遣してくれるだろう。
フラワーアーチャーが増えすぎて森を埋め尽くしたら、調査どころではない。
万全を期せばなんてことはない相手だ。ここは計画を練って出直すのが良策か。
俺はステラとアラサー冒険者に頷き返す。
「ザンザスの冒険者ギルドに報告して、共同で当たろう。その方が結果として早くて確実だろう」
「森は広いですにゃん、手分けした方がいいですにゃん」
「ああ、とりあえずコカトリスと接触できたし、情報も得られたからな」
と、俺はコカトリス達が静かにしているのに気付いた。
見るとコカトリス二体がテテトカと見つめあっている。
いや、テテトカの持っている草だんごに釘付けになっている。
「ぴよ……」(おいしそう……)
「ぴよ! ぴよぴよ」(さっき食べたけど、おいしいよ!)
「……ぴよ、ぴよぴよ」(おねえちゃん、知らない物を食べちゃ駄目だとあれほど……)
「ぴよっ、ぴよぴよ、ぴよー!」(ぎくっ、違うの。ほら目の前で食べてたし! 安全だよ!)
「……もぐもぐ。食べますー?」
「ぴよ、ぴよ!!」(こんな感じ、危なくないって!!)
「ぴよー……ぴよ」(確かに……)
「はい、まずは一個食べてみてくださいねー、おいしいですよ!」
テテトカがいもうとコカトリスに草だんごを手渡す。
「……ぴよ」(……もらっちゃった)
「ぴよ、ぴよー!」(本当においしいんだから!)
「ぴよぴよ……」(もぐもぐ……)
「ぴよ! ぴよ!」(どう? どう?)
「……ぴよよー!」(おいしいー……!)
「まだまだありますからねー」
「ぴよよー!」(もっと食べるー!)
なんとなく言っていることはわかるな。
というか、草だんごへの反応が凄い。
「はぁ……癒される光景ですね……」
「そうだな、守ってやりたくなるな……」
連れて帰りたくなるくらいかわいい。
……うん?
俺はそこで思った。
別に本人達がいいなら、連れて帰ってもいいんじゃないか。
村なら安全だし、草だんごもある。
フラワーアーチャーに怯えることもないし。
大樹の塔の裏にコカトリス用の建物も作ったし……。
……ということをコカトリス姉妹に話したら。
草だんごがよほど気に入ったらしい。
即座にオッケーをもらったのだった。
領地情報
地名:ヒールベリーの村
特別施設:大樹の塔(土風呂付き)
領民+2(コカトリス姉妹)
総人口:155
観光レベル:D(土風呂)
漁業レベル:D(レインボーフィッシュ飼育)
牧場レベル:D(コカトリス姉妹)
魔王レベル:F(悪魔を保護)
お読みいただき、ありがとうございます。