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51.発見と出会い

 ザンザスの冒険者ギルド。


 ジェシカはいつも通り水色の魔術師服を着ている。髪も水色、杖も水色。

 故郷では海の女神の化身とさえ言われるほど、ジェシカは際立った美貌を持っていた。


 そんな彼女は今、ギルドマスターの部屋でレイアと向かい合っている。


「ああ、ギルドマスターの直々のSランククエストだ。重要性はわかるだろう?」

「ええ……ひとつの街のみならず地域も左右する案件、ということですね」

「そういうことだ」


 十八歳のジェシカであるが、冒険者になったのは十三歳の頃。

 早熟の天才と言われ、数々の高難度クエストをこなしてきた彼女である。

 しかしSランククエストはこれまで二回しかやってきていない。

 それほどSランククエスト自体が珍しいのだ。


「まぁ、やることは簡単だ。エルト・ナーガシュ様へ手紙を届けて欲しい。その場でエルト様に手紙を読んで頂ければさらなる指示をくれるだろう」

「……なるほど。緊張しますね……」

「貴族絡みの案件ゆえ、詳細を伝えられないのが心苦しい限りだが……」

「よくあることです……。ですが、ちょうど良かった。一度エルト様にお会いしたいとは思っていましたので」

「ふむ、気さくで良い方だぞ。これまで会ってきた貴族の中で一番良いくらいだ」

「あのステラ様が慕うくらいですからね……ところで」


 ジェシカは話を切り替えた。気になってしょうがない。

 ギルドマスターのレイアはなぜ、コカトリスのヒヨコ頭をディフォルメしたかわいい帽子を被っているのか……?

 どうみても子ども向けの帽子だけれど……。

 意味がわからない。


「そのかわいい帽子は?」

「やっと聞いてくれたか。このままスルーされて終わるのではないかと、ちょっとヒヤヒヤしたぞ。これは未踏破エリアのクリア記念品として投入する新商品だ」

「なぜレイアが被っているのです?」

「耐久テスト中だ」

「……ギルドマスターも大変ですね」

「ちなみに好きで被ってるからな。ふふふ、役得という奴だ」

「…………。その帽子の横から少し垂れてる紐も、何なのか聞いた方がいい感じですか?」

「助かる。これは引っ張るとな……」


 レイアが紐を引っ張る。


 ぴよ!


 帽子から可愛らしいコカトリスの鳴き声がした。


「どうだ? 簡単な魔法具だが、コカトリスの鳴き声がするんだ。素晴らしいだろう」

「は、はい……」

「ちなみにジェシカ君の頭のサイズは――Sでいいかな?」

「なぜ今、その質問をしました?」

「このSランククエストの付随事項として、この帽子の装備が義務だからだ。ギルドマスターは、クエスト遂行に必要な装備を義務付けることができる。君も宣伝に協力したまえ……!」

「その制度でこんな使い方、聞いたことないですし!?」


 それに対して、レイアは無言で帽子の紐を引っ張る。


 ぴよ!


 また紐を引っ張る。


 ぴよ!


「…………わ、わかりました。被っていきますから。確かにかわいいはかわいいですし……」


 ジェシカが言うと、レイアは机からぱっとコカトリス帽子を取り出した。

 そしてジェシカに手渡す。


「ありがとう。この帽子はそのまま報酬の一部だ。健闘を祈る!」


 ◇


 ヒールベリーの村。

 ディアが生まれてから数日が経った。


 ディアはどんどん成長してる。

 日ごとにこんもり、一回り大きくなっているのだ。


 ディアが生まれたときは、手のひらに収まるサイズだった。

 今はもう両手で持つサイズだ。


「ずいぶん大きくなってるぞ。よしよし」


 なでなで、もふもふ。

 でも毛の柔らかさは変わらない。

 とても気持ちいい……。


「ぴよ! 成長してるー?」

「ああ、よく食べて寝ているしな。えらいぞ」


 ステラも一緒にディアを撫でている。彼女もうっとりしているな。

 ディアは本当に撫でられるのが好きだからな。


「はい、えらいですよ~。よしよし」

「ぴよ! わーい!」


 今日は天気も良い。

 久し振りにだいぶ暖かくなりそうだ。

 しかも今日は休日。一日、ディアと一緒にいられるな。


「ねー、とうさま?」

「うん? どうしたんだ」

「おさんぽしたいー……」


 最近のディアは家の中をよく歩いている。

 やはり好奇心旺盛な性格のようで、起きている間は色々と行動したがるのだ。


「これまでディアが歩くのは家の中だけでしたし……。どうでしょう、一緒にお散歩するのは?」

「そうだな……。ディアも大きくなってきたし、出掛けるか」


 鶏は生まれたときから歩くしな。

 歩けるのに歩けないのは、それはそれでストレスだろう。


「よし、皆でお出掛けだ。村を一回りするぞ」

「ウゴウゴ、みんなでさんぽ!」

「いいですね!」


 そういうわけで、散歩に出掛けることにした。


「ぴよ! おひさま、きもちいー!」

「あんまり慌てるんじゃないぞ。散歩は逃げないからな……」


 ステラと俺でディアが不意に走り出してもいいよう、ガードしながら歩く。

 よちよち歩きとはいえ、その辺りは気を付けないとな。


 今日は本当にいい天気だ。

 まさに散歩びよりだな。


 四人で歩いていくと、広場の近くで騒いでいる音がする。

 ディアがぴくりと反応する。


「あっちでなにかあるー? なんだろうー?」

「行ってみますか?」

「ぴよ、いってみる!」


 広場には即席の台が作ってあって、その上にはテテトカと何人かの冒険者がいる。


 ……冒険者が並んで草だんごを作っているな。

 それをテテトカが歩きながら指導している。


 あ、草だんごの講習会は今日だったか?

 確か冒険者を集めて草だんごの指導をするとか……。

 俺は俺で練習していたので、あまり気にしてなかった。


 テテトカが足を止める。目の前にいるのはアラサー冒険者。


 彼の作ったであろう草だんごが板に並んでいる。

 テテトカはそんな草だんごのひとつをつまむ。


「いい色ですねー」

「は、はい!」

「でもまだこねこねがちょーと足りません……」


 そう言うとテテトカは、その草だんごをこねこねし始める。


 こねこね。

 こねこねこね。


「ふぅ、こんな感じです。触ってみてください」

「は、はい……。うーん、確かに柔らかさが……」

「そうです、このくらいがいいんです」


 ひょい、ぱく。


 テテトカがその草だんごをぺろりと食べる。

 凄い講習会だな……。

 というか、もしかして他人の作った草だんごを食べる講習会か?

 テテトカも考えるようになったな……。


 その様子を見ていたディアが感想を言う。


「ぴよ……おいしそー」

「う……まだディアには早いからな。もう少ししたら、おやつに出すから」

「ええ……もうちょっと大きくなったら作りますから!」

「ぴよ、約束ぴよー!」


 そんな話をしていると、一台の馬車が広場にやって来た。

 あれはザンザスから来た高級馬車だな……。この馬車は相当な金持ちでないと乗れないクラスだ。


 最近は本当に来訪者が増えてきた。

 一日一台は馬車が来るし、多い日は二台三台と来るからな。


「あれはー?」


 ああ、そうか。

 ディアは初めて馬車を見るんだな。


「遠くからきた乗り物だな。中に人が乗っているはずだ」

「なるぴよ……。どんなひとだろー?」

「ウゴウゴ、あいさつする?」

「ああ、出迎えよう」


 商人の馬車なら、ナールの事務所前で止まる。

 ここで止まると言うことは観光そのものか、俺に用事のあるパターンだ。


 馬車の戸がゆっくりと開く。

 中から現れたのは……帽子を被った女性魔術師だった。

 水色の髪と服。

 ……そして、かわいいコカトリス帽子を被っている。


 その女性を見て、ステラが目を見開いた。


「あなたは……」

「あ、ステラ様!?」


 どうやらステラの知り合いのようだな。

 思い出した……前に話で聞いた水を操る魔術師か。

 ステラがしてきた未踏破エリア攻略の仲間だな。


 と、ディアが大声をあげる。


「ぴよー! なかまだー!」

「ひぇぇ!? ひよこが喋ったー!?」


 ……おっと。

 帽子のせいで、ディアがコカトリス認定してしまったようだな。


領地情報

 地名:ヒールベリーの村

 特別施設:大樹の塔(土風呂付き)

 来訪者+1(コカトリス帽子装備の魔術師ジェシカ)

 総人口:151

 観光レベル:D(土風呂)

 漁業レベル:D(レインボーフィッシュ飼育)

 牧場レベル:E(コカトリスクイーン誕生)

お読みいただき、ありがとうございます。

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