41.ドリアードの贅沢
こねこね。
こねこねこね……。
「ふぅ、こんなものか……」
数時間の間休みながら草だんごをこねていた。
けっこうな量をこねたな。
まぁ、ちょっとだけつまみながらではあったが。
保存するにしても、このくらいの量が限界だろうか。
ブラウンはでろーんと机にもたれかかっている。
「にゃーん……だいぶ、こねましたにゃん!」
「ああ、お疲れ様」
「にゃんの! 楽しんでやれましたにゃん。これ以上は作っても食べきれないのですにゃん」
「俺もそうだな。意外と作ってしまった……」
周りを見ると、同じように作るのは終わりの雰囲気だな。
ドリアード達も作り終わっている。
手持ちの材料がなくなったみたいだが……さすがに作るのが早いな。
近くに来たアナリアが焼き菓子グループの状況を伝えてくれる。
「あちらも終わりみたいですね」
「よし、それじゃ……食べ始めるか」
後片付けをしたあとは、実食タイムだ。
ニャフ族が持ってきた様々な紅茶やハーブティーとセットでお菓子を頂こう。
いくつものテーブルを用意して、席につく。
ふむ……なんとなくこれだけだと寂しい気がする。
ドリアードは装飾品にはあまり興味がない。
塔の中にも飾りに使うようなものはないからな……。
お金があっても躊躇せずに高級土を買う種族だし。
そんな風に思っていると、テテトカが植木鉢を持ってくる。
他のドリアードもだ。
なぜに?
「……その植木鉢はどう使うんだ?」
「テーブルの上に置いて、入るんですよー」
「えっ……?」
「ぼくたちは草だんご大会をすると、いつもこうしているんですけど」
「そ、そうなのか?」
「植木鉢に入りながら食べる草だんごは、極上なのですー」
「……う、うん。なるほどな」
見るとドリアード達は全員、それぞれ植木鉢を持ってきていた。
どれもがピカピカだ。一人一個だな。
「マイ植木鉢か……?」
「もちろんですー」
「つまり、こういうことか? 俺達はテーブルの上に並んだ鉢植え入りドリアードを見ながら、お菓子を食べると」
言っててシュール過ぎるだろ。
しかしテテトカはぱぁっと顔を輝かせた。
「そうですー!」
「ま、まぁ……それがドリアードにとっては普通なんだよな?」
「植木鉢に入りながら食べるのはとっても贅沢なんですー」
きらきらの期待オーラを出すテテトカ。
それを遮る勇気は俺にはなかった。
「よし、今回はそれで行こう……行くしかない」
「わーい!」
テテトカがピカピカの植木鉢をテーブルに乗せる。
よく手入れされているようだ。
他のドリアードも同じように植木鉢をテーブルに乗せていた。
こそっとアナリアが俺に耳打ちする。
「ま、まぁ……他の領地の方を呼ぶ前に把握できて良かったじゃないですか……」
「そうだな……」
俺は頷く。
ニャフ族も目を回しているが、さすがは商人。
たぶん、色々な種族との付き合いをしているのだろう。
なんとなく察して植木鉢の移動を手伝っている。
「この領地らしいと言えば、領地らしいですにゃん」
「確かにな。とりあえずドリアードはとても嬉しそうだし」
これもまた異種族交流というやつだ。
確実に仲良くはなれるだろうしな。
ドリアードの文化を知ることができて、良かったと思おう。
◇
その頃、ステラ達は死鳥の草原を踏破しつつあった。
「あそこから先が第二層ですね」
ステラの指差す先には、古ぼけた樹木で作られた巨大な門。
迷宮の各階層を繋ぐゲートである。
これをくぐれば、第二層へとたどり着く。
水色の魔術師が気を引き締めながら、
「はい……ふぅ、大丈夫です」
「第二層【無限の岩山】からは激しく動かないといけません。各自、気を抜かないように」
「ウゴウゴ! がんばる!」
「ええ……歩いて十数分で未踏破エリアですし。ここからは私達の出番です!」
「期待しています」
「「はい!」」
意気込む精鋭冒険者達。
さっそくゲートをくぐり、第二層へと移動する。
くぐった瞬間――ぐにゃりと風景が歪む。
目を開けると、風景は一変していた。
辺り一面、剥き出しの岩山。
草一本さえも生えていない虚無の大地である。
「こ、ここが……無限の岩山……」
「ウゴウゴ! はいいろばっかり!」
「そうですね、ここも懐かしい……」
ステラが何度も見てきた風景に思いを馳せる。
「さて、ワープボールがきましたよ。突破しましょう」
目指すエリアの手前。
ステラの視力がさっそく第二層の難関を捉えていた。
そのワープボールは人が抱えられるくらいの、丸く真っ赤なボール……のようなものだった。
ぽよん、ぽよん。
それがリズミカルにいくつも跳ねている。
ぽよーん、ぽよーん。
ワープボールは第二層では頻繁に見かける魔物である。
といっても、生きている魔物ではない。魔力で動くトラップと言った方が正確である。
このワープボールはとても柔らかいので、当たっても怪我はしないのだ。
その代わり、一時間に三回当たると階層入口にワープさせられる。
涙の最初からやり直しである。
そのため第二層に付けられた名前が【無限の岩山】
パターンを見切り、リズムよく行かないと永遠に攻略できないのだ。
「はい、今です!」
「「了解!!」」
ワープボールが跳ね回る間をステラ達が疾走する。
右へ、左へ……。
華麗なステップで踊るようにステラはワープボールを回避する。
ウッドも動きを見極めながら、最小限の動きで避けていく。
数分後、進んでいたステラは立ち止まる。
続いてウッド、息を切らしながら精鋭冒険者が追い付いてくる。
「ふぅ、ふぅ……!」
「順調ですね。ここは安全地帯なのでワープボールは来ません。少し休みましょう」
「は、はい……。しかし思っていたよりもハードですね、これは」
「二回までは当たってもいいんですよ……?」
「い、いえ! 全部避けます!」
魔法攻撃で打ち落とせるが、魔力の無駄使いはできない。
基本的に全てのワープボールは避けられるはずなのだ。
ぱよよーん。ぽわーん。
ワープボールが跳ね回りながら、音を奏でる。
このひっきりなしに響き渡る音が第二層の特徴でもあった。
ぱえーん、ぽよよーん。
「いい音、ですよね……。和みます」
「ウゴウゴ! うきうきする!」
「そ、そうですか……。足の遅いドワーフはここを『地獄の音楽が鳴る場所』『終わりなき苦行』と言ったとかなんとか」
「ま、まぁ……リズムセンスとスピードがモノを言いますからね。では、そろそろ行きましょうか……!」
後にこのエリアのことを聞いたエルトは、
「巨大アスレチック……。いや、そんなテレビ番組があったような……?」
飛んだり跳ねたり。
そういうのも面白そうだな、と思ったのだった。
……ちょっと太ってきた人もいるし。
ヒールベリーの村にアスレチックランドができるのは、もう少し先の話である。
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