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18.ドリアードの生態

 ザンザスからの手紙を受けて、俺は提携を即座に進めることにした。

 ついては俺の代理人を派遣することになる。


 ザンザスに行ってもらうのは前々から決めていたメンバーだ。

 アナリア、ナール、ステラの三人である。


「それでは行って参ります!」

「行ってきますにゃ」

「ふぇぇ……頑張ってきます……」


 太陽は朝からさんさんと赤く燃え、秋空を照らしている。

 風もいくらか静かで暖かい。過ごしやすい気候だ。


「ああ、頼んだぞ。しかし、悪いな……本当は俺も行った方がいいのかも知れないが」

「いいえですにゃ、ナーガシュ家の貴族様が行かれることはありませんのにゃ。どーんと構えておられればいいですにゃ」

「わかった、今回はよろしく頼む」


 俺としては何気なく言った台詞だったが、どうやら三人にはそうではなかったようだ。

 なんだろう――感動というか心打たれたような顔をしている。


「はい……ご期待に応えるため、頑張ってきますね! 絶対にいい知らせを持って帰りますから!」


 思った以上に言葉に力が込められている。

 ま、まぁ……やる気になってくれたのは良かった。


 気合いが入ったアナリア達を乗せて、馬車隊はゆっくりと村を出発していった。


 見送りを終えると、いつのまにか隣にブラウンがいた。

 ニャフ族は猫だからか、物音を立てずに近くに来ていることが結構ある。


 なかなかの隠密スキル持ちなのだ。

 まぁ、もう慣れたが……。


「さすがはエルト様、やる気を引き出すのが上手ですにゃん」

「……みたいだな。やはりああいうことを言う貴族は珍しいのか」


 特別なことを言ったつもりはないんだけどな。

 どうも、俺以外の貴族は領民にそんな言葉はかけないみたいだ。

 結果として、いい方向に行っているみたいだからいいのだが。


「めったにおられないですにゃん。その意味でも、あちし達は幸せですにゃん」

「ふむ……ま、そう言ってもらえるのなら、なによりだ」


 実を言うと、最近ブラウンとは仲が良い。

 なんというかブラウンはフランクな接し方なんだよな……。

 俺としても楽なのだ。


「よし、あとは果報を待つか……。俺は自分にできることをやろう」

「にゃん、お供いたしますにゃん!」



 ◇


 最初に見回りにきたのは、ドリアードのところだ。

 大樹の塔に着くと――そこにはウッドがいた。クワを持ちながら塔の前の土を耕している。


 ブン、ゴシャ。ブン、ゴシャ。


 二メートルのツリーマンのパワーは並みじゃない。ものすごい速度で耕している。


 耕しているというか、地面を砕いているみたいな感じだが。


「朝から頑張っているな、ウッド」

「ウゴウゴ! ここ、土やわらかい。やりやすい!」

「んにゃん、ウッドがエルト様から離れて行動してるにゃん……。この魔法はこんな使い勝手のいい魔法でしたかにゃん」

「成長のおかげだな。離れられる距離と時間はだんだんと伸びてるぞ」


 これまでは俺の側を離れると行動できなかったが、最近はそうでもなくなった。

 これもウッドの成長だ。

 本気を出せば小さいドラゴンくらいにはもう勝てるだろうな。


「しかし昨日テテトカが来て、塔の前を耕して欲しいと言ってきたが……ここにも何か植えるのかな」

「ヒールベリーみたいな草花もいいですにゃんが、ヤシの木みたいな大きなものもいいですにゃん」

「ああ、それはいいな。ココナッツは甘いし……デザートにもなる」

「ココナッツミルクティーはクールですにゃん」


 そんな雑談をしていると、塔の扉が空いてドリアード達が外に出てきた。


「わー、耕されてるー!」

「柔らかくなってる、ありがとう!」

「ウゴウゴ! どういたしまして!」


 ドリアード達が続々と塔から出てきた――三十人全員が出てきたみたいだ。

 ふむ、仕事熱心だな。さっそく何か植え始めるわけか。


 テテトカが真ん中に立ち、みんなに大声で呼びかける。


「よーし、揃った? それじゃ埋まるよー!」

「うん?」


 ざっくざっく。

 ドリアード達は一斉に、耕された地面に潜り込み始めた。


「首まで自分から埋まって、どういうことにゃん!?」

「あ、あれは……まさか……」


 記憶の奥底から、ドリアードのことが引っ張り出される。

 かすかに、こんなことを前にも見たような……。


 ぽん。俺は手を打った。


「そうだ、あれは土風呂だ! 彼らのリフレッシュ方法なんだ」

「あれがお風呂代わりですかにゃん?! 生き埋めみたいですにゃん!」

「ドリアードは植物に近いからな。土の中にいると落ち着くらしい。首から上が出ていれば大丈夫だ」

「にゃ、にゃるほど……。言われてみればそうかもですにゃん。さすがエルト様はお詳しいですにゃん」


 話を聞いたブラウンは頷きながら、埋まったテテトカに近付いていく。

 ……猫は好奇心が強いな。


「土の加減はどうですかにゃん? 気持ちいいですにゃん……?」

「ご機嫌うるわしゅー、ブラウンさん! 柔らかくて最高です。一緒にどうですかー?」

「……それは遠慮しておきますにゃん。またの機会にしますにゃん」

「それは残念ですー……ウッドさんはいかがですか?」

「ウゴウゴ! きもちよさそう! おれもここでひなたぼっこ、する!」

「どうぞどうぞー! 同じ植物仲間、日の光は浴びないと!」


 ……なるほど。そういう考えなんだな。

 ドリアードにとっては、ウッドは仲間になるんだ。


 俺達からしたら地面に埋まるのはハードな拷問だが、ドリアードにはご褒美らしい。

 やはり種族の違いはあるものだ。

 すやすやとすぐに寝入ってしまった。


「なかなかシュールですにゃん……」

「案外、こういうのが大事だったりするからな。ドリアードには栽培の仕事があるし、気持ちよく働けるならリフレッシュも問題ない」


 ……それから、少しして。

 俺は気が付いたのだ。


 ドリアードの埋まった場所では、植物の育ち方が非常に早くなることを。

 なんだろう……ドリアードの体から何かが土へと影響しているのだろうか。


 テテトカに聞いたら、鉢植えにも手を突っ込んだりしていたらしい。

 まぁ、ドリアードには泥遊びみたいなものだな。


 しかし、そうするとよく育つらしい。

 ということはドリアードが土に触れると、そこは植物にとって理想的な土壌になるんだな。


 いいことをひとつ知った。

 これからの農業の活用に役立つだろう。


 さて――地面に埋まったドリアードを見て、冒険者が腰を抜かすほど驚いたのは、また別の話。

お読みいただき、ありがとうございます。

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