17.さらなる発展へ
ドリアードが住むようになって、早いもので一週間が過ぎていた。
あれから俺の領地はさらに活気が増している。
なにせドリアードのおかげで、希少な薬草や果実が増産できるようになったからな。
園芸のプロ――というか森とともに生きる種族というのは伊達じゃない。
植物を早く育てる、不思議な力があるみたいだな。
ヒールベリーの生産量が増加するということは、ポーションも増産できることになる。
そうなると、さらにお金と人が集まってくるだろう。
さらに冒険者にとっても、この領地はかなりの稼ぎ場所になっている。
噂が広まればさらに冒険者も来るだろうな。
まさにうまい具合にサイクルが回っている。
そう、すべてがうまく回転しているのだ。
◇
「……だけど、それもうまく人を動かしていけばの話だ」
「はいですにゃ。まったくその通りですにゃ。ですがエルト様のおかげで、うまくいってますのにゃ」
「ふむ……それはなによりだな」
俺は今、アナリアの家でポーション関係の話し合いをしていた。
参加者は俺とアナリアとナールとテテトカ。
いわゆるポーションチームだな。
新しい薬師への仕事の割り振り、現在の生産量――この辺りの話がちょうど終わったところだ。
テテトカはアナリアの膝の上にずっといるが……ドリアードは自由な種族だ。アナリアも自由な人間だ。
そっとしておこう。
ここ最近、アナリアのお肌はさらにつやつやになっている。
思う存分ポーションを作ってるんだろうな……。
しかも書類を揃える手つきも弾んでいる。かなりの上機嫌だ。
「ご機嫌のようだな、アナリア」
「はい! 実にドリアードがすごくて……。まさに園芸の申し子ですね。ヒールベリーはまだですが、薬草類はもう収穫できそうです」
「あの赤いはっぱー?」
「そうですよ、魔物素材を綺麗にするのに使うんです」
薬師の仕事は幅広い。
ポーション作りだけでない。そのままでは加工できない魔物素材を使えるようにするのも重要な仕事だ。
だからこそ迷宮都市ザンザスで確固たる地位があるわけだしな……。
「テテトカ、ヒールベリーはあとどれくらいで実がなりそうだ?」
「えーとぉ……」
ここに来た初日に任せた、ヒールベリーの栽培。
テテトカがたどたどしい手つきで日数を指折り数えていく。どういう計算をしているんだろう。
「お日さまが出てるのがお昼寝三回分、綿毛三枚がいるくらいの寒さで……」
お、おう……。言葉はアレだが、思ったより高度な計算だな。
あれだ、ドリアードの言葉で今のは日照時間と温度だろうな……。
「お日さまが六回でたくらいかなぁ」
「ふむ……六日後か、ありがとう」
「どういたしましてー」
「……普通はヒールベリーは収穫までにどれくらいかかるんだ?」
「ヒールベリーは魔力を含んで、普通の植物とは育ち方が違いますが――約二ヶ月はかかります。それさえも現在では不作です」
そうすると、約半月で収穫できるわけか。ドリアードの力は素晴らしいな。
「薬草も普通では考えられないスピードで栽培できています。本当に不思議な種族ですね」
なんでもドリアードの頭の上にある花が、他の植物に共鳴しているとか。
少なくとも魔力は感じないので、魔法ではないな。
その辺の原理は追求しても仕方ないだろうし……。
とりあえず俺の他にもヒールベリーを作れるメドが立った、それだけで十分だ。
「あとは冒険者ギルドよりお手紙が来ましたにゃ」
「おお、来たか。思ったよりも時間がかかったな……」
ナールが取り出したのは、またもや厳重に封印がされた手紙だった。
気のせいか、この前の手紙よりも装飾が増えているような――もしかして、まぶしてあるきらきらした粉は金粉かな?
金持ちだなぁ……。
「早速、開けてみてくれ」
「はいですにゃ……。んにゃ、今度は冒険者ギルドだけでなく薬師ギルドや鍛治ギルドも連名ですにゃ」
「ザンザスの三大ギルドすべてからの手紙ですね……。大貴族にしか出さない、非常に格のある形式です」
ザンザスには領主はいない。有力ギルドの代表者から集められた議会で物事が決まっている。
これも迷宮によって成り立っているゆえか。
俺のところのように、爵位貴族の領地ではないのだ。
ザンザスには数多くのギルドがあるが、そのなかでも歴史があって力もあるのが――冒険者ギルド、薬師ギルド、鍛冶ギルドの三つだ。
前の手紙は冒険者ギルドだけだったが、今回は三つ全部からの手紙である。
「それだけエルト様を重く見てるということですにゃ。いいことですにゃ」
「冒険者も素材集めに精を出してくれているからな……。想定よりも採集の効率が良いようだし」
「ステラが手伝ってくれるのとドリアードが案内してくれるのが大きいですね。ザンザスの周囲よりも断然、稼げます」
「森の中にある丘からは金属類が見つかってますにゃ。鍛治ギルドも興味を持ちますのにゃ」
人手が増えたことで俺がやらないでも開拓が進むようになってきた、ということか。
実にいい傾向だな。
俺としてはザンザスとの提携を通じて、さらに発展の加速をしていきたいところだ。
「手紙の中身も――先の提案を全て受け入れる、そう書いてありますにゃん。『この度のご協力、伏して感謝いたします』こんな丁寧な文言はめったに見ないですにゃ」
「ふぅ……それはよかった。これでザンザスとの提携は確定して、人の往来と物流は加速するな」
よしよし。まぁ、あの内容ならまとまると思った。
こちらとしても願ったり叶ったりだしな。
提携が決まったのなら、次の段階にいよいよ行こうか。
ステラのザンザス訪問。
これでさらに親睦を深められるだろう。
それから五日後。日程の調整を済ませたステラ一行はザンザスへと出発することになった。
このとき、俺はまだ軽く見ていた。
ステラの人気というものを……。
そしていよいよ領地の開発は、新しい段階へと入っていくのだった。
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