100.爆発しました
「このライオン像が……?」
ステラに速攻で壊され、コカトリスの着ぐるみにぺちぺちされてる、このライオン像がか。
サイズはそれなりに大きい。
台座五十センチ、と像本体で一メートルくらいか。結構開いている口も大きいな。
腕くらいならすっぽり入る。
……いや、元々ザンザスのダンジョンに関係するわけだから年代物ではある。
ザンザスのダンジョンは約千年前から記録がある。それほど昔の記録はどこまでが真実か、後付けでないかは疑わしいが。
だが、少なくても五百年は古いのは確実らしい。日本でいえば現代から室町時代までか。
そう考えると十分、骨董品だな。
まぁ、今のナナの話は技術的にも素晴らしい物ということらしいが。
レイアも少し興奮気味である。
「雷鉱石は融合できる素材がありませんでした。しかしそのままだと脆くて用途が限られる……。せいぜい火薬代わりに投げるとか、そのくらいのはずです」
「それでも、それなりに高値で売れますけどね。なにせ魔力を豊富に含んで、電撃を発するわけだから。電撃に耐性がある魔物は少ないですし……」
「なるほどな……」
俺もライオン像の頭を撫でてみる。
つるっとして実に滑らかだ。
こうしてみると、銅像としても価値がありそうな気がしてくる。
「ん……?」
一瞬、俺の魔力が吸われる感覚がした。
パチッ……!
ライオン像が刹那の間、紫色に光る。
本当にわずかな時間だが。
「おおう……」
思わず手を引っ込める。
今のは俺の魔力に反応したのか。
いきなりだったので驚いた。
「なんだ、今のは……。大丈夫か? 光っただけみたいだが」
俺の言葉に皆が頷く。良かった。
……今、ナナが着ぐるみの手をライオン像の口に突っ込んでる。
ライオンの口は結構大きいので、すんなり入っているのだが……。
ここで雷球が出たら、ビリビリコカトリスが生まれてしまうところだった。
というか、それは危なくないんだよな?
信じてるからな……!
「うーん……エルト様の魔力に反応したもぐ」
「僕達が触れても反応はなかったのに」
「……魔力の大きさですかね? このメンバーの中で最も魔力が大きいのはエルト様かと」
「そうなるのか……?」
「僕は魔法技術の特化で、魔力そのものは桁外れではないんです。ぱっと感じるエルト様の魔力は、相当に凄いですよ……。貴族学院でも、ここまでの魔力持ちは滅多にいなかったはずです」
鍛えてはいるけど、あまり比較しないからな。まぁ、言葉通り受け取っておこう。
どうやら俺が触れると魔力がほんの少し吸われて、反応するらしい。
全部が壊れたわけじゃないんだな。
「僕が触れている感じだと雷球を跳ね返されて、回路が壊れて……一部は直るかな? ちょちょいと弄ってみて、魔力を再度入れてみれば……」
ふむ、もし像の何かがわかれば、探索に役立つかもしれない。
ここで調べるのも手か。
「わたしが入ってみますもぐ?」
「そうしてもらおうかな。右の方に……」
ナナがイスカミナを抱き上げて、上半身をライオンの口に突っ込む。
ぐいぐい……。
奥は結構空洞なのか……?
絵面はかなり凄い。
「光をこっちにもぐー」
「わかりました!」
レイアが位置を変えて、二人の後ろに屈む。
ちょうど口の中にコカトリス帽子の光が当たるように。
……まさか、役に立つとは……。
ここまで考えてその光るコカトリス帽子を作ったなら、大した策士だ。
多分、違うだろうけど。
ごそごそ。がさごそ。
「もうちょっと奥もぐー」
「はいはーい」
ぐっぐっとナナがイスカミナをさらに押し込む。食べさせているみたいだな。
イスカミナのくぐもった声が像の口から聞こえてくる。
「エルト様、魔力をちょっとライオン像にお願いしたいですもぐ」
「……それはいいが、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですもぐ!」
「本当に大丈夫なのか……?」
うーん……専門家が言うなら安全なんだろう。仕方ない、やってみるか。
俺は再びライオン像の上に手を置く。
少しして、魔力の吸われる感覚。
パチッ……!
またライオン像が光る。
俺はそれに合わせてぱっと手を離すが……。
「もうちょっとですもぐ。合図するまで魔力を流して欲しいですもぐー」
「わ、わかった」
「あと少しでビリビリするはずもぐー」
「本当に安全か?」
「大丈夫、大丈夫。僕が保証しますから」
ナナが軽く請け負って、サムズアップ。
指の部分はそれなりに形がわかるようにしているらしい。
……まぁ、羽なんだが。
「わかった、信じてるからな」
俺はまたライオン像に手を伸ばす。
今度はべたっと手のひら全体を、像に押し付けるようにした。
……魔力が手のひらから像へと流れ込んでいく。
パチッ……!
像からまた紫色の光が発せられるが、俺は手を離さない。正直、吸われる魔力は大したことがないが……。
パチパチ……!
光が段々と強くなっている。
……本当に大丈夫か?
バチィ!
いきなりライオン像の口から魔力が放出された――そんな感覚だ。
「もぐっ!?」
「ぴぃ!?」
イスカミナとナナが叫ぶ。
俺はすぐに像から手を離して、声を掛けた。
「無事かっ!?」
「大丈夫ですもぐ!」
「……続けてください、合図があるまで……」
二人とも何事もなかったかのように、俺に答える。何事もなかったんだろうか……。
そんな声じゃなかった気がするんだが。
「ぴりっときて、いい感じですもぐ」
「この着ぐるみは耐熱、耐冷、耐電、耐魔仕様だから大丈夫です」
「そ、そうか……」
「もっとビリビリお願いしますもぐ!」
語弊があるな。
俺は魔力を流しているだけなんだから……!
完全に面白映像みたくなってるじゃん。
「……後で着ぐるみの耐性を詳しく」
レイアが着ぐるみの袖を引っ張ろうとして――。
「えっ。今、触るのは……!」
ナナが慌てるが、手はふさがっている。
バチバチッ!!
「ふべっ!」
「あっ、光がズレたもぐ!? 見えないもぐ!」
「レイア、大丈夫か!?」
いきなり吹っ飛んだレイア。
だがレイアはすくっと立ち上がる。
……傷は浅そうだ。
もとい、無事みたいだな……。
「ええ……静電気です。ピリッときましたが……。すみません、迂闊でした」
しかし、コカトリス帽子の毛が爆発していた。
……え?
「ほ……本当に大丈夫か?」
「は、はい……。どこも異常ありません!」
異常はあるんだが……。
まぁ、帽子の毛は大した話じゃないけど。
ナナもレイアを振り返りながら、
「やっぱり静電気はあったか……。でも僕もレイアも鍛えてますから、この程度は何てことありません……。……っ!?」
あ、レイアの帽子の毛に気が付いたな。
コントみたいになってるよ。
「ご心配おかけしました。あっと、明かりを……」
レイアが定位置に戻る。
駄目だ、耐えろ……。笑っちゃ駄目だ。
通路を流れるわずかな風に、もわっとしたコカトリス帽子の毛が揺れる。
ゆらーゆらー。
ナナの着ぐるみも痙攣している。
笑いをこらえているんだな。
「ゆ、ゆれるもぐー!」
「ごっ、ごめん……! しっかり持つから」
ゆらーゆらー。
……これは真面目な場面。
謎の遺跡の、謎の像を調べる場面。
笑ってはダメなのだ……!
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