<< 前へ次へ >>  更新
100/521

100.爆発しました

「このライオン像が……?」


 ステラに速攻で壊され、コカトリスの着ぐるみにぺちぺちされてる、このライオン像がか。


 サイズはそれなりに大きい。

 台座五十センチ、と像本体で一メートルくらいか。結構開いている口も大きいな。

 腕くらいならすっぽり入る。


 ……いや、元々ザンザスのダンジョンに関係するわけだから年代物ではある。

 ザンザスのダンジョンは約千年前から記録がある。それほど昔の記録はどこまでが真実か、後付けでないかは疑わしいが。


 だが、少なくても五百年は古いのは確実らしい。日本でいえば現代から室町時代までか。


 そう考えると十分、骨董品だな。

 まぁ、今のナナの話は技術的にも素晴らしい物ということらしいが。


 レイアも少し興奮気味である。


「雷鉱石は融合できる素材がありませんでした。しかしそのままだと脆くて用途が限られる……。せいぜい火薬代わりに投げるとか、そのくらいのはずです」

「それでも、それなりに高値で売れますけどね。なにせ魔力を豊富に含んで、電撃を発するわけだから。電撃に耐性がある魔物は少ないですし……」

「なるほどな……」


 俺もライオン像の頭を撫でてみる。

 つるっとして実に滑らかだ。


 こうしてみると、銅像としても価値がありそうな気がしてくる。


「ん……?」


 一瞬、俺の魔力が吸われる感覚がした。


 パチッ……!


 ライオン像が刹那の間、紫色に光る。

 本当にわずかな時間だが。


「おおう……」


 思わず手を引っ込める。

 今のは俺の魔力に反応したのか。

 いきなりだったので驚いた。


「なんだ、今のは……。大丈夫か? 光っただけみたいだが」


 俺の言葉に皆が頷く。良かった。

 ……今、ナナが着ぐるみの手をライオン像の口に突っ込んでる。


 ライオンの口は結構大きいので、すんなり入っているのだが……。

 ここで雷球が出たら、ビリビリコカトリスが生まれてしまうところだった。


 というか、それは危なくないんだよな?

 信じてるからな……!


「うーん……エルト様の魔力に反応したもぐ」

「僕達が触れても反応はなかったのに」

「……魔力の大きさですかね? このメンバーの中で最も魔力が大きいのはエルト様かと」

「そうなるのか……?」

「僕は魔法技術の特化で、魔力そのものは桁外れではないんです。ぱっと感じるエルト様の魔力は、相当に凄いですよ……。貴族学院でも、ここまでの魔力持ちは滅多にいなかったはずです」


 鍛えてはいるけど、あまり比較しないからな。まぁ、言葉通り受け取っておこう。


 どうやら俺が触れると魔力がほんの少し吸われて、反応するらしい。

 全部が壊れたわけじゃないんだな。


「僕が触れている感じだと雷球を跳ね返されて、回路が壊れて……一部は直るかな? ちょちょいと弄ってみて、魔力を再度入れてみれば……」


 ふむ、もし像の何かがわかれば、探索に役立つかもしれない。

 ここで調べるのも手か。


「わたしが入ってみますもぐ?」

「そうしてもらおうかな。右の方に……」


 ナナがイスカミナを抱き上げて、上半身をライオンの口に突っ込む。


 ぐいぐい……。


 奥は結構空洞なのか……?

 絵面はかなり凄い。


「光をこっちにもぐー」

「わかりました!」


 レイアが位置を変えて、二人の後ろに屈む。

 ちょうど口の中にコカトリス帽子の光が当たるように。


 ……まさか、役に立つとは……。

 ここまで考えてその光るコカトリス帽子を作ったなら、大した策士だ。

 多分、違うだろうけど。


 ごそごそ。がさごそ。


「もうちょっと奥もぐー」

「はいはーい」


 ぐっぐっとナナがイスカミナをさらに押し込む。食べさせているみたいだな。

 イスカミナのくぐもった声が像の口から聞こえてくる。


「エルト様、魔力をちょっとライオン像にお願いしたいですもぐ」

「……それはいいが、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですもぐ!」

「本当に大丈夫なのか……?」


 うーん……専門家が言うなら安全なんだろう。仕方ない、やってみるか。


 俺は再びライオン像の上に手を置く。

 少しして、魔力の吸われる感覚。


 パチッ……!


 またライオン像が光る。

 俺はそれに合わせてぱっと手を離すが……。


「もうちょっとですもぐ。合図するまで魔力を流して欲しいですもぐー」

「わ、わかった」

「あと少しでビリビリするはずもぐー」

「本当に安全か?」

「大丈夫、大丈夫。僕が保証しますから」


 ナナが軽く請け負って、サムズアップ。

 指の部分はそれなりに形がわかるようにしているらしい。

 ……まぁ、羽なんだが。


「わかった、信じてるからな」


 俺はまたライオン像に手を伸ばす。

 今度はべたっと手のひら全体を、像に押し付けるようにした。


 ……魔力が手のひらから像へと流れ込んでいく。


 パチッ……!


 像からまた紫色の光が発せられるが、俺は手を離さない。正直、吸われる魔力は大したことがないが……。


 パチパチ……!


 光が段々と強くなっている。

 ……本当に大丈夫か?


 バチィ!


 いきなりライオン像の口から魔力が放出された――そんな感覚だ。


「もぐっ!?」

「ぴぃ!?」


 イスカミナとナナが叫ぶ。

 俺はすぐに像から手を離して、声を掛けた。


「無事かっ!?」

「大丈夫ですもぐ!」

「……続けてください、合図があるまで……」


 二人とも何事もなかったかのように、俺に答える。何事もなかったんだろうか……。

 そんな声じゃなかった気がするんだが。


「ぴりっときて、いい感じですもぐ」

「この着ぐるみは耐熱、耐冷、耐電、耐魔仕様だから大丈夫です」

「そ、そうか……」

「もっとビリビリお願いしますもぐ!」


 語弊があるな。

 俺は魔力を流しているだけなんだから……!

 完全に面白映像みたくなってるじゃん。


「……後で着ぐるみの耐性を詳しく」


 レイアが着ぐるみの袖を引っ張ろうとして――。


「えっ。今、触るのは……!」


 ナナが慌てるが、手はふさがっている。


 バチバチッ!!


「ふべっ!」

「あっ、光がズレたもぐ!? 見えないもぐ!」

「レイア、大丈夫か!?」


 いきなり吹っ飛んだレイア。

 だがレイアはすくっと立ち上がる。


 ……傷は浅そうだ。

 もとい、無事みたいだな……。


「ええ……静電気です。ピリッときましたが……。すみません、迂闊でした」


 しかし、コカトリス帽子の毛が爆発していた。

 ……え?


「ほ……本当に大丈夫か?」

「は、はい……。どこも異常ありません!」


 異常はあるんだが……。

 まぁ、帽子の毛は大した話じゃないけど。


 ナナもレイアを振り返りながら、


「やっぱり静電気はあったか……。でも僕もレイアも鍛えてますから、この程度は何てことありません……。……っ!?」


 あ、レイアの帽子の毛に気が付いたな。

 コントみたいになってるよ。


「ご心配おかけしました。あっと、明かりを……」


 レイアが定位置に戻る。

 駄目だ、耐えろ……。笑っちゃ駄目だ。


 通路を流れるわずかな風に、もわっとしたコカトリス帽子の毛が揺れる。


 ゆらーゆらー。


 ナナの着ぐるみも痙攣している。

 笑いをこらえているんだな。


「ゆ、ゆれるもぐー!」

「ごっ、ごめん……! しっかり持つから」


 ゆらーゆらー。


 ……これは真面目な場面。

 謎の遺跡の、謎の像を調べる場面。


 笑ってはダメなのだ……!

お読みいただき、ありがとうございます。


『読者の皆様へ』


作品を読んで面白いと思われた方、下にスクロールするとポイント評価の項目がございます。


広告欄の下で囲まれたところにクリックできる所がございます。


ぜひともそこから評価のほど、よろしくお願いいたします!


またお気に入り登録もぜひともお願いいたします!

感想やレビューもひとつひとつ、力になります!


書くモチベーションに繋がります!

よろしくお願いいたします!

<< 前へ次へ >>目次  更新