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74 旅路―2

 ロザリーが買い物を終えて馬繋に戻ると、すでにラナとロブロイが待っていた。

 買い物の成果だろう、ラナは袋に入った長い物を。

 ロブとロイは穀物用の麻袋をそれぞれ一つずつ抱えていた。


 四人は馬車を引き取り、街道に出た。

 イクロスで宿をとる選択肢もあったが、誰もそれを言い出さなかった。

 船旅続きで、自分の足で歩きたかったからだ。

 ロザリーが年寄り馬を引いていると、腰に差した剣を後ろからラナが触った。


「ロザリーの買い物はこれよね?」

「うん」

「いくらだった?」

「いくらって……金貨一枚?」

「え! もしかして、お釣り貰わなかった!?」

「あー、貰ってない。でも、そのくらいの値打ちだと思うけど」

「え~、絶対損してるよ」

「いいじゃない、私は満足してるんだからさ」

「ならいいけどさ。……レオニード金貨を渡したときの反応、面白くなかった?」

「面白かった! そっちも?」

「うん! 『えっ? なに、これ……えっ!? ……えええ!!?』って感じ!」

「そういや、ラナは何を買ったの?」

「ふふ~ん。秘密!」

「ずるっ! ……ロブロイはー?」


 ロザリーが問うと、二人は荷台に積んだ麻袋を指差した。


「何それ。麦?」

「旅先で麦なんか買うかよ」「お宝だっつーの」

「お宝?」


 するとロブが荷台に飛び乗り、麻袋の口を開けた。

 錆びてくすんだガラクタが、ボロボロとこぼれ出てきた。


「なっ?」「お宝だろ?」


 満面の笑みのロブとロイ。

 ロザリーは首を捻り、ボソリと言った。


「……ゴミ?」

「ふっっざけんなよロザリー!」「どこがゴミだ! 光り輝いてんだろうが!」

「そうは見えないけど……」


 ラナがポンと手を打った。


「わかった! 魔導具でしょ! 魔導具のゴミ!」

「だからゴミじゃねえつってんだろラナ!」「てめえだって無色なんだから魔導具バカにすんじゃねえ!」

「でも、どう見ても壊れてるでしょ。ゴミか、もしくはガラクタじゃない?」

「壊れてはいるがな!」「まだ使えるんだよ!」

「そうなの?」

「修理できるものもある!」「できなくてもパーツ取りに使える! 魔導を貯めておく魔導石(ソーサライト)が残ってるやつだってあるんだ!」

「へえ、そうなんだ~」

「そうなんだよ!」「わかったな! ロザリーも!」


 言われたロザリーは茜空を見上げていた。


「日が暮れるね。ここらで野宿しよう」

「てめえロザリー!」「無視すんな!」


 街道沿いの森の側に湧き水を見つけ、そこをキャンプに定めた。

 年寄り馬を休めて、その横で夕飯の支度に取りかかる。


「はー、しかしまたこの生活かぁ」

「愚痴んなロザリー」「水があるだけマシだ」

「ロブロイ、あれからすっかり水大事人間になったね」

「当然だ」「お前は違うのか?」

「いえ、大事です」


 かまどを作って火を起こしていると、荷台から不満げなため息が聞こえた。

 ラナが荷台から顔を出して、三人に言う。


「ねえ! 誰も果物とか野菜とか、買ってこなかったの?」


 三人は顔を見合わせ、それから同時に首を横に振った。


「はあ。せっかく町に立ち寄ったっていうのに」

「そう言うラナはどうなの?」


 ロザリーがそう問うと、ラナはペロッと舌を出した。


「となると、塩漬け肉か」「魚もあったろ」


 ロザリーはため息交じりにぼやいた。


「はー、またそれかぁ」

「なんだロザリー」「そんなに果物や野菜、好きだったか」

「肉。ポートオルカのご飯は美味かったけど、肉は塩漬けばかりだったから」

「まあな。航海中は保存食ばかりだし」「塩漬けじゃない肉って、いつぶりだろうな」

「でしょ? というわけでロブロイ。鳥でも獲ってきて」

「は? ふざけんな、こちとら都会っ子だぞ?」「自慢じゃねえが狩りなんてしたことねえ」

「私だってないもん。どの鳥が美味しいかさえ、わかんないしさ」

「ならラナに頼もう」「おい、ラナ!」


 ロザリーが小声で双子に言う。


「やめなよ。ラナこそ、狩りとかできそうにないじゃない」

「何言ってる?」「ラナは弓の名手だぞ」

「え、そうなの?」

「名手は言い過ぎよ。得意なだけ」


 ロザリーが振り向くと、すぐ後ろにラナが立っていた。


「得意にしても初耳なんだけど。弓持ってるとこも見たことないし」

「騎士ってやっぱり剣でしょ? 弓はあんまり持たない」

「まあ、そうね」

「だから騎士を目指すと決めたとき、弓を手放したわけ」


 するとロブロイが、じとりとした視線をラナに向けた。


「しらばっくれんな、ラナ」「イクロスで買ったそれ、弓だろ?」


 ラナは目を見開き、それから後ろ髪をしきりに触った。


「……買うとこ見てたの?」

「見てねーよ」「でもバレバレだ」

「はぁ~。カッコ悪いな」


 ラナは荷台から、袋に入った長い物を取り出した。

 そして袋から出すと、それはまさしく弓だった。

 地面に立てるとラナの胸辺りまである長弓だ。


大喰らい(グラットン)で何もできなかったこと、ずっと考えてたんだ。得意な弓があれば、もっと力になれたんじゃないか。騎士らしくないから剣にするとか、そういうつまらないプライドこそ手放すべきじゃないかって」


 ラナは照れ臭そうにそう話し終えると、今度は気取った声でロザリーに尋ねた。


「さあ、お嬢さん。何が食べたい? 鳥? 鹿? それとも野豚?」

「あぁ……ラナ、なんて男前なの!」


 ロザリーが思わずそう漏らすと、ラナは照れ笑いして言った。


「いいから。ロザリーは何を食べたいの?」

「鳥! 丸々と太って、脂の乗ったやつ!」

「何羽?」

「えっ、数も? ……三羽! 三羽食べる!」

「一人で三羽も食う気かよ!」「ラナ! 俺らも三羽ずつな!」

「オーライ。お嬢さん方!」


 ラナは弓矢を手に、颯爽と森へ入っていった。

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