57 旅のスポンサー
〝デリンジャー万鍛冶店〟。
その奥、ロブとロイの部屋。
「なーんで俺らがついてくんだよ」「意味わかんね」
双子はまったく興味がないようで、左右対称に頬杖をついている。
ラナは行きがけに買ってきた王国の地図を、双子の目の前に広げた。
「私たち、立ち寄らなきゃいけない場所が二つあるの。一つはここ、港町ポートオルカ。もう一つが――ロザリー、どこだっけ?」
問われたロザリーが、地図のある地点を指差す。
「ここでしょ、南ランスロー。さっき話したばかりじゃない」
するとロブとロイの顔色が変わった。
目をぎょろつかせ、覗きこむようにロザリーの指先を見つめる。
「ロザリー、お前」「今、なんつった?」
「え、いや、南ランスロー……って。私、何かマズいこと言った?」
ラナが双子に語りかける。
「私たちは南ランスローの領主に会うわ。たぶん、しばらくは滞在することになるかな?」
ロブとロイの食いつきぶりはロザリーが恐怖を覚えるほどで、双子は瞳孔の開いた眼でラナを凝視している。
「南ランスローって、あなたたちがよく話してた〝旧時代〟の遺跡群がある場所よね?」
「えっ、そうなの?」
ロザリーが問うと、ロブとロイはゆっくりと同時に頷き、交互に話し出した。
「見つかったのはわりと最近だ」「十年くらい前か」
「それまで〝旧時代〟遺跡なんて」「王国には数えるほどしかなかった」
「ところが南ランスローで遺跡群が見つかった」「その数、百以上」
「わかるか? 王国内の遺跡の九割以上が」「南ランスローに密集してることになる」
「現在の魔導具の大半は」「〝旧時代〟魔導具の劣化コピーにすぎない」
「つまり〝旧時代〟遺跡とは」「魔導具の秘中の秘が眠る場所なんだ」
「だからこそ誰でもは領内に入れない」「技師連の連中でも制限されるはずだ」
二人の最後の言葉は「本当に南ランスローに入れるのか?」という疑いを含んだものだった。
しかしラナは、毅然と言い切った。
「私たちにはコクトー宮中伯の言付けがある。少なくとも、領内には入れるわ」
「っ、ラナ!」
ロザリーは声を潜ませ、ラナに異議を唱える。
(そんなこと言い切っちゃっていいの? わかんないじゃん)
(大丈夫よ。もし入れてくれなきゃ、関所破りしてでも入るわ)
(物騒なこと言わないでよ……)
(当然よ。私の、騎士の道がかかってるんだから)
密談を終えて双子を見れば、彼らもまた額を寄せ合って相談していた。
「ロブロイに頼みたいのは――」
ラナが言いかけると、双子は同時に手で制した。
「金だろ」「わかってる」
「それはどうにかしてやるよ」「問題は、本当に俺たちに得になるかだ」
そうしてまた、二人で相談を始める。
ラナは立ち上がり、二人を見下ろして言った。
「意外だなあ。あなたたちなら、すぐ乗ってくるって思ってた。結構、慎重なのね?」
「当然だろ」「南ランスローは遠い」
「店も休むことになる」「準備も要るしな」
そして同時にラナをジトッと見上げる。
「何よりお前の口車に乗っていいのか」「お前にいいように利用されるだけなんじゃないかってな」
するとラナは、肩を竦めて双子を見下ろした。
「そんなこと、どうでもよくない?」
「どうでもいい――」「――だと?」
「だって、目の前に憧れの地へ行く馬車が待ってるのよ? これが本当に目的地に着くのか、馬車の御者を信用できるのかって疑って、馬車を
双子がグッと唇を噛む。
「私なら
瞬間、双子が勢いよく立ち上がった。
「言ってくれるじゃねーか、ラナ!」「知ったような口、利きやがってよ!」
「別に無理ならいいんだよ? 他を探すからさ」
「そこまで言われて引っ込めるか!」「お前の口車に乗ってやる! 乗せられてやるよ!」
「私とロザリーの実習についてくるってことね?」
「ああ!」「行ってやる!」
「ようし! 行こう!」
「行くぜ!」「おう、行くぞ!」
「ほら、ロザリーも!」
ラナに引っ張られ、乗り遅れていたロザリーも立ち上がる。
「えーと、行くぞー?」
「声が小さいよ、ロザリー!」
「そうだぜ!」「やる気出せ!」
ラナが天井へこぶしを突き上げる。
「南ランスローへ、行くぞっ!」
ロブとロイも続く。
「「南ランスローへ!」」
ロザリーも遠慮がちにこぶしを上げた。
「ポートオルカにも忘れずに行くぞー」