13 実入りのいい仕事―2
炭焼き小屋の中には五人の男がいた。
小規模ではあるが、幾度も悪行を重ねてきた強盗団である。
特に賞金のかかったロボスという男は、殺しと金稼ぎを同時にできる強盗を天職だと言ってはばからない、残酷な男だった。
安楽椅子に深く身を沈める今も、今年最後の仕事はどこを襲うか、それを終えたらどこの村を襲って居座るか、血生臭い計画を思い描いていた。
若い娘が多い村がいい。そうすれば冬の間中、楽しめる。
そう結論付けた矢先、屋根の上からごそごそと物音がした。
ちょうど暖炉の真上、煙突のあたりである。
「うう、急に冷えてきたな」
仲間の小男がそう言って、蠅のように手をすり合わせながら歩き回る。
ロボスはどうもこの小男のことが気に入らなかった。
落ち着きがないし、小胆だからだ。
「ロボス、火を起こしていいか?」
小男がそう尋ねる。
気に入らないから蹴とばしてやりたい衝動に駆られたが、思いとどまった。
奴の言う通り、たしかに冷える。
「その前に、屋根上のアナグマを追い払え」
「アナグマ?」
小男が驚いて天井を見上げた。
「……猫じゃないのか?」
「じゃあ、猫だ。なんでもいい、とにかく追い払え」
「ど、どうやって!」
「屋根に上れ」
「嫌だ! この寒さじゃ、手がかじかんで落ちちまう!」
ロボスはため息をついた。
お前は何ならできるんだと罵りたかったが、我慢した。
役立たずだとわかったのだ。次の仕事の最中に、ついでに始末すればいい。
「煙突に向かって叫べ。そうすりゃ逃げる」
小男は頷き、暖炉の中に上半身をつっこんだ。
が、すぐに抜け出し、振り返った。
「驚いて落ちてきやしねえか?」
ついにロボスはキレた。
「そんときゃ火にくべて焼き猫にしちまえばいいだろう! それともお前が焼かれてえのか!?」
「お、怒るなよ、ロボス。やるよ、やるから……」
小男はもう一度暖炉に体をつっこみ、煙突に向かって叫んだ。
「わあーっ! わあああーっ! ……わっ、わわっ!?」
小男は足を滑らせたのか、暖炉の消し炭の中に倒れ込んだ。
大量の灰が舞い上がる。
「クハッ、コイツ何やってんだ」
「笑える」
「な? 入れて正解だったろう?」
他の三人が笑う中、ロボスは立ち上がった。
何ならできるのかなんて問う必要はない。
こいつは何もできやしない。
現に、猫を追い払うことさえできないのだから。
目の座ったロボスに気づき、他の三人が押し黙る。
ロボスは暖炉に近づき、剣に手をかけた。
そして、ようやく気づいた。
小男の首を、ハーフブーツが踏みつけている。
「……誰だ。出てこい」
すると、暖炉の中からブーツの主が背中を曲げて出てきた。
女だ。
長い黒髪で色白の、ゾッとするほど美しい少女。
「にゃ~ん♪」
おどけた様子で笑う少女――ロザリーを、ロボスは測りかねた。
娘を見たらいつもなら、売ればいくらの値が付くか。売る前に味を見てみようか。
そうやって舌なめずりするのがロボスの常だ。
しかし――。
ただの小娘がこんなところに、しかも煙突から入ってくるか?
自分たちのような悪党を見て、おどける余裕があるか?
ロボスはロザリーに一番近い場所に立つ仲間に、目で合図を送った。
男はわずかに頷き、そっと手斧を拾い上げた。
「おらあ!」
ロザリーは振り下ろされた手斧を、鞘に入ったままの剣で受け流した。
間髪入れず剣を抜き放ち、男の肩口を貫く。
「あぐっ」
男は手斧を取り落とし、肩を押さえてうずくまった。
ロザリーは手斧を暖炉の中に蹴り入れ、煙突に向かって叫んだ。
「グレ~ン、まだぁ~?」
すると、煙突に反響した声が返ってくる。
「腰がっ、つかえて、入らな――くっ」
「早くしてよね? あなたが誘った仕事なんだからさ」
新手の存在を知り、ロボスは素早く決断を下した。
「……囲め」
ロボスと残り二人が、三方向に分かれてロザリーを囲んだ。
背後は暖炉。
正面のロボスは剣、右の賊はダガー。
左の敵は奴隷を捕らえるためであろう、鉄鎖を振り回している。
三人はじりじりとロザリーに近づく。
ロザリーは一人一人の目を見つめ、初めに倒すべき敵を見定める。
ロボスの経験上、まだ緊張状態が続く――そう思った矢先。
「う、うおおおお!」
すさまじい大声とともに、重い何かが煙突から落ちてきた。
ドシン! と轟くような音が響き、小屋全体が揺れる。
ロボスたちの意識がロザリーから逸れて、灰が舞い上がる暖炉へ向かう。
それはロザリーが待っていた瞬間だった。
「うっ!」「あぎっ!?」
まず左の敵の肩を貫き、返す剣で右の敵の手の甲を一突き。
ロボスが我に返ったときには、その首に剣先が突きつけられていた。
◇
ロザリーとグレンは王都への帰路に就いた。
二人はそれぞれ馬に乗り、残り三頭も引き連れている。
賊の五人は奴隷用の鉄鎖で繋ぎ、両端を馬に繋いでいる。
「五人を生け捕り、馬も売れる。大収穫だね!」
ほぼ一人でやりきったロザリーの表情は明るい。
一方グレンは、
「一人くらい残しとけよロザリー。俺、何もしてねえ」
「やったじゃない」
「何を?」
「体格を生かして、賊の注意を引いた」
「ふん、ぬかせ」
「そろそろ楽しい話をしよう。この収穫、いくらくらいになるかな?」
「そうだな、銀貨三袋……いや、もっとだな」
「嘘!? そんなに!?」
「嘘なんて言ってどうする」
「じゃあ、打ち上げしよう!」
「打ち上げ?」
「仕事達成のお祝い! 酒場か食堂でじゃんじゃん料理頼んでさ! 今夜くらいはウィニィよりも良いディナー食べようよ!」
しかしグレンは首を横に振った。
「そいつは無理だ」
「えー。お祝いとか嫌いだったっけ?」
「無理なのはそこじゃない。〝ウィニィより良いディナーを食べる〟ってことだ」
「ああ、そこ? ……今夜だけならできるんじゃない?」
しかしグレンは再度、首を横に振った。
「知ってるか、ロザリー。ウィニィはソーサリエの規則に従い、寮生活をしている」
「貴族は入学、即入寮だもんね。王子様にはさぞかし辛い寮生活だろうけど」
「ところが、だ。……大教室、わかるよな?」
「学年全員が同じ授業受けるときに使う?」
「そう、それだ。ウィニィの部屋は、それより広い」
「……うん?」
「あいつの部屋は特別製。調度品が飾られ、風呂もついてる。食事は専門の料理人がいるし、侍女だってついてる」
「待って、待って。そんなのずるいよ。他の寮生がそれ見たらどう思うか」
「見ない。ウィニィの部屋は別棟にあるから」
「別棟!?」
「王族のために建てられた、専用の建物だ」
「何よ、それー!」
「わかったか? たとえ一晩限りでも、王子様より良い食事なんて不可能なんだよ」
「不公平っ!」
「王族と公平なわけがないだろう」
「理不尽っ!」
「ああ、それには大いに同意するよ」