「斬神」(短編化)
ある日、ある異世界に別の世界から少女が召喚された。
その少女は「森羅万象に斬って解決できないものなど無い」が座右の銘の斬ることが好き過ぎる元の世界では厄介者扱いされてきた神、「斬神」だった。
その神はストレスが溜まっていた。
何故なら元の世界では斬ることに制限がかかっていたからだ。
座右の銘に偽りはないが一度斬れば面倒事が次々にやってくるため全てを斬って済ますには時間がかかるからだ。
だが異世界では違った。この世界では斬っても正当防衛ならお咎めなし。なんなら斬ったことがバレなかったらなんにも言われないのだ。
怪しかったら取り敢えず面倒事になる元の世界とは大違いだ。
だからこそ異世界の人物を誘拐する国を、幼子を攫う悪漢を、国を滅ぼされた恨みで雇われた暗殺者を、人々を脅かす危険すぎる魔物を、ついでにそもそも神が異世界に呼ばれた原因だった魔王も魔王軍や魔王城ごと丸っと、その世界の面倒事・厄介事の一切合切を斬って楽しく過ごしていた。
しかしその世界に元々いた神からしたら大問題だった。
何せ自分達が見守っていた人間達の運命が、本人達の所為でもあるが(色んな意味で)断ち切られているからだ。
だから彼の神を滅ぼさんと、凡ゆる武器が使える神や凡ゆる魔法を使える神、或いは武器も魔法も使える神など多くの戦神やその使徒達が挑み、斬り伏せられてきた。
そしてとうとう最強とも言われていたあらゆる『力』を司る神「力神」が挑んだ。
あらゆる『力』というのは攻撃力や防御力は勿論、脚力や体力に魔力など力と名のつく物を指し、それらをほぼ無尽蔵に強化出来るのだ!
そしてやはり斬り伏せられた。
だがいくら斬り応えがあれど神が次々来るのは面倒だった。
前の世界では人の社会の中ですら斬ることが難しかったことを考えると、まだ人には目を付けられていないこちらの方がマシだったが、それでも事ある毎に来られるのは面倒だし、神の斬り過ぎは世界の維持が大変になってしまう。
だからその最強の神を拘束し、見せしめ且つ人質ならぬ神質にした。
結果、武力では勝てず、斬るのもある程度悪人だったからだと他の神々は諦めることにした。
当然納得できない神もおり、しばらくは襲ってきていたが百年経つ頃にはほぼ居なくなっていた。
しかし同時に「斬神」の被害もその百年で減っていた。
理由は神質となった「力神」だった。
最初は世界を斬られるくらいならと再生力や回復力を上げて自分から代わりに斬られていたが、流石に斬ることが大好きな「斬神」でも虚しく思い斬ることを控えていった。
そして一緒に過ごしている内に打ち解けていき、仲が深くなっていき、男女の仲になっていったのである。
百年が経つ頃には二柱の子供も出来た。
無論身篭っている時を狙った神もいたが相手にならなかったし、流石にそんな仲になった相手なので「力神」も「斬神」が大人しくなったこともあり守るようになっていた。
そして他の神々もそれを見て「斬神」を受け入れていった。
だが最初の頃に斬り伏せられ、百年かけて回復した戦神達は認められなかった。
しかし自分たちでは勝てないのは事実。
だからこそと他の納得しきれていない神を引き入れ、計画を練り、数柱の神々の命すらを犠牲にして「斬神」と「力神」の子を攫った。
それに「斬神」は怒り狂い、攫った神々の残りを斬り滅ぼすも最後まで子供の場所は分からなかった。
そのため最終手段として時空を斬り取り子供が攫われたことを無かったことにしようとした。
しかしそれは世界にかかる負担が尋常ではなく、世界が崩壊する危険があった為「力神」が阻止した。
そしてどうすればいいと初めて見る狼狽える「斬神」を励まし、味方側の神々の協力を得て今回の件は物事の操作に長けた「操神」が裏で手を引いていたことを突き止める。
「操神」は神の上下が力である程度決まる風潮が気に入らず、自分の判断を押し付けてくる力が強い神も、力が強い神が決めたならと従ってしまう力が弱い神も納得出来ず、何千年とかけてその風潮を覆す準備をしていた。
それは『操作』の力を利用した神々の洗脳支配だ。
強い神ほど洗脳されにくかったが何千年と続ければほぼ完璧に支配出来るため実行まで計画がバレず、命を懸ける程斬神と戦わされたのだ。
結果、「斬神」により強い神は「力神」を除いて殆どが斬り滅ぼされ、そのまま世界が滅ぼされる寸前までいった。
ある意味では確かにただ力のあるだけの神よりも危険であるとの証明が出来たわけだ。
そう自身の計画を語り終えた「操神」は二柱の子供を残し、今はいないが自分と同じことを考える神はいずれ現れると断言し「斬神」に自らの意思で滅ぼされた。
それから「操神」の言葉が楔となり、神々の関係がギクシャクする中、「斬神」と「力神」の子供が『政』の神「政神」となり、両親を含めた神々に秩序を与え、時に両親の力を借りることで神々の間に一時的であるが平和を齎したのだった。