第99話「お互いの気持ち」
「今、何て言った?」
聞こえなかったのかな? と心乃香はもう一度、勇気を振り絞った。
「だから……私、八神のことが……」
「ちょっ、ちょっと、待って!」
斗哉は、慌てて心乃香を制した。
「え? ……何で、今頃? これ、ドッキリとかじゃないよな?」
斗哉は額に手を当てて、わけが分からないと心乃香を見遣った。ドッキリかと言われて、心乃香は泣きそうになった。違う、そんなつもりじゃない。そんな風に思われたなんて……でも、仕方ないのかもしれないと心乃香は思った。
中学を卒業して、それぞれの道に分かれて、新しい生活に慣れるのに大変だったことや、忙しかったこともあるが、殆ど連絡も取っていなかった。それが急に呼び出して、告白されても、どう言うことだとなってもおかしくないだろう。
そもそも彼はそんなつもりで、今日付き合ってくれたんじゃないのだろう。
消えたい……でも、伝えたことに後悔はない。ここで彼との縁が切れても、後悔はない。
縁が切れようが、彼は今までもこれからも自分の特別な人だ。
それを思うと、心乃香の胸に痛みを伴う、温かい何かが流れ込んできた。
「はあー。本当、今頃なんだけど。マジで? 本当に?」
「……本当だよ」
深く溜め息を吐くと、斗哉は空を仰ぎ、心乃香にもう一度向き直った。
「……オレも好きだよ」
「え⁉︎」
「え⁉︎ じゃないよ。……前、言ったと思うんだけど?」
「……前って、もしかして二年前のこと? だってあの時のは、私を引き止めるための、方便だったんじゃないの?」
「そんな風に思ってたのかよ⁉︎ マジか……そんなことじゃないかと思ってたけど……てかさ、如月が戻ってきた時、オレお前にキスしたよね? あれ、どー思ってたわけ⁉︎」
斗哉が、凄い勢いで捲し立ててきた。その勢いに心乃香は後ずさる。
「なんか……陽キャの挨拶的なノリかと思ってた」
「そんなわけないだろ! どこの外国人だよ! お前、オレを何だと思ってるんだ! ……ああ、こんなことなら、やっぱ早く確認しておくんだった!」
ああもうと、斗哉は頭を振った。そして、心乃香に真っ直ぐ向き直った。
「好きな子以外に、あんなことしないから。……オレも如月が好きだよ」
「……本当に?」
「お前がそれを言うかな? ここで二年前、オレを嵌めたクセに」
ふんと、斗哉はそっぽを向いた。いやだって、あの時は……と心乃香は項垂れた。
「うっ……あの時は、八神だって私を騙そうとしてたじゃん」
「……確かに嘘から始まったけど、もうあの時にはオレ、多分、如月のことが好きだったよ」
「騙されてたのに、好きってどう言うことよ? それに、あんなの本当の私じゃない」
「そうかもしれないけど、オレをあんなに必死で騙そうとしてたところとかさ……浴衣着てオシャレしてきたり、結局はオレのためってことじゃん? あの懸命さは……本物でしょ?」
「そ、それは!」
斗哉はそっと手を伸ばし、優しく心乃香の手を取った。
「今日もまた浴衣着てきてくれた。今日もだけど、あの時本当は……可愛い、似合ってるって言いたかった……」
「……え?」
心乃香は、その告白に目を見開いた。自分の頑張りは、少しも斗哉に届いてないと思ったからだ。
「でも、嘘の告白をした後でそんなこと言ったら、それも嘘になる気がして……言えなかった」
「……本当?」
「うん」
斗哉はそう頷くと、心乃香の額に自分の額を充てがった。
つづく
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