第97話「お祭り」
祭りの始まる少し前、二年前のように二人は駅で待ち合わせた。駅前は沢山の人々で賑わっていた。皆浮かれている…… あの日の再現だと、心乃香は思った。
あの日と同じように、斗哉の姿を探してみる。あの時は、自分のめかし込んだ姿を遠くから観察し、笑っているんじゃないかと考えたものだ。
来ないかもしれない……そんな考えもふとよぎる。来て欲しいような、来て欲しくないような、そんな不思議な感覚に心乃香は陥った。
「如月!」
背後から、聞き覚えのある声に呼び止められた。心乃香はそれだけで胸が高鳴った。どうしよう……何て返事をすれば……。
「なんか、久しぶりだな。……誘ってくれてありがとう」
「あ……えっと、迷惑じゃなかった?」
斗哉は、すぐ返信しなかったことについてかなと、思い当たった。
「あ、わりい。スマホ壊れててさ、しばらく使えなかったんだよ。復活したら、お前からメッセージ来ててビックリした! だって、如月お祭り嫌いだろ?」
そう言われて心乃香はビックリした。確かに、人が多い所が苦手と言った気がする。そんなこと、覚えていたのかと、急に恥ずかしくなってきた。
「良く、覚えてたねそんなこと?」
「そりゃ覚えてるよ。めっちゃ、悪態ついて言ってたじゃん!」
「あの時は言い過ぎた、ゴメン……」
「いいよ。だって本当のことなんだろう? でもそれなのに、如月が祭りに誘ってくるなんて、どーゆー風の吹き回し?」
「……えっと……たまには良いかなって?」
正論を叩きつけられて、心乃香はたじろいだ。まだ神社に辿り着いてもいないのに、もう負けそうだ。
「……ふーん? じゃ、そろそろ行こっか?」
斗哉はいつもと、変わらない調子で接してくる。それが心地よい。本当にこの関係を壊してしまうのかと、心乃香はますます怖くなった。
***
二年前の祭りの時のように、相変わらずの人混みだった。何とか二人は、つかず離れずを繰り返しながら前に進む。やっぱり人混みは苦手だ。斗哉とでなければ来なかっただろう。
斗哉とでなければ……と思い立ち、心乃香は顔が熱くなってきた。心乃香はふっと斗哉を見上げる。半年近く会っていないあいだに、また背が高くなったようだ。
半年のあいだで、自分の知らない、八神斗哉になってしまったのかもしれない。斗哉は二年前のように、手を繋いでくることはなかった。
前来た時とは違い、斗哉は屋台で何か食べようと言い出した。
本当はあのデートの時、心乃香はせめて、屋台で食べ物をたらふく食べたいと思っていた。だが報復の為に猫を被っていたので、そんなことを言い出せなかった。
でも今はもう違う。自分が大食漢なことも、彼は知っている。気兼ねなく食べられる。気が付けば、持参金が底をつくまで、屋台を二人で堪能していた。
つづく
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