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第89話「好きになった理由」

「え?」

「そんなこと、あったけっけ?」


 これだよ……はあっと、斗哉は溜め息を吐いた。傷つける方というのは、その所業を覚えてないと言うが、まったくその通りだと思った。


 これを如月が聞いたら、二人に更なる報復を行う気がする。恐ろしい。

 陸が急に思い出したようで叫んだ。


「ああ! あの罰ゲームか!」


「罰ゲーム? 何だっけ?」


「いや、お前が罰ゲームの内容書いたんだろ。……確か内容は『クラスの女子に告白する』ってやつ」


「あーあーあれか。あったなそんなこと。で、どーして、それで斗哉が如月を好きになるんだよ? 逆なら分からんでもないが……」


「あの、悪巧みを如月に聞かれてたんだ。バレてたんだよ。で、仕返しされたわけ」


 二人はその真実にギョッとなった。途端にことの重大さが分かったようだ。陸が震え出した。


「ヤバイ……おれも、如月に殴られるかも……」

「そうだ! お前も殴られろ! ……いや、でもさ、それで何で如月を好きになるんだよ? 意味が分からん! お前ドMなの?」


 どうして好きになったのかは、自分でも良く分からない。これまであった経緯も話すわけに行かないし、話しても理解できないだろう。


「えーと、あれだ……」


『ん?』


 陸と将暉は首を揃えて、斗哉の返答を待った。


「とにかく! お前たちには、オレの恋を応援する義務があるってこと!」


「応援って……」


「そう言えば、この前『もう会えない』とか死にそうな顔してなかった? あれはどう言うことなんだよ? ……喧嘩でもしたんか? クラス離れたし、すれ違うことも増えたってこと?」


「いや、そもそも付き合ってないし」

「はあ⁉︎ お前、何やってんだよ」

「だから、応援しろって言ってんの!」


 将暉はうんざりと陸の顔を見る。陸は陸で呆れているようだ。


 そうなのだ。問題はそこなのだ。いや問題はこれだけではない。三年に上がった時、クラス替えがあり、自分と心乃香は、どうやらクラスが分かれてしまったようなのだ。そう言うシナリオのようだ。


 これでは、傍にいて心乃香をすぐフォローもしてやれない。きっと一年のブランクがあり、心細い思いをしているはずだ。


「あー、なんか心配になって来た! オレもう行くわ! じゃあな!」


 そう言い残すと、斗哉は校舎の方へ走り出した。もうすぐ昼休みも終わる。


 残された二人は、再び顔を見合わせる。将暉はジト目で呟いた。


「どう思うあれ?」

「……まあ、いいんじゃない? 斗哉が誰を好きになろうが、あいつの自由だし。それに……」

「ん?」

「何かあいつ、スッキリした顔してるからさ。なんかずーと、何でもない素振りしてて、しんどそうだったじゃん?」

「……」

「そうさせたのは多分、如月なんだよ」


「……マジか。まあ確かに、俺にいきなり鉄拳食らわすような女だもんな……斗哉の世界が変えられても、おかしくないかも。あいつら付き合ってないってことは、告って失敗したってことじゃん? 逆に斗哉がこれからどう振り回されて行くのか、楽しみになって来たわ!」


「お前……そう言うところだぞ」


 やれやれと、陸は将暉から視線を逸らし、走って行った斗哉の行く先を見つめていた。


 将暉ではないが、二人が本当に付き合うことになったら、それはそれで面白そうだと、陸はフッと微笑んだ。



つづく

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