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第82話「三周目〜御守りと黒猫の力〜」

 斗哉は懸命に走っていた。神社の祭りで人がごった返す中、人を掻き分け懸命に走った。


 以前神主が言っていた「諦めなければ、その御守りが必ず、貴方たちの縁をお助けします」と言う言葉が思い出される。


 その御守りが、突然真っ二つに割れたのだ。

 斗哉は、言い知れない不安に襲われた。


 ――いつかは会える


 その言葉だけを信じて、生きて来た。一度繋がった縁は、そう簡単に切れないと言う言葉が、心の支えだった。


 今、その言葉を写したような、確かな形として残ってる唯一の物が、砕けたのだ。


 何か、決定的に良くないことが起こる気がする。心乃香との『縁』が完全に切れてしまうような、どうしようもない胸騒ぎが斗哉を襲って来た。


(嫌だ! ……絶対、嫌だ! ……如月!)


 その時、斗哉の耳の奥で鈴の音が鳴った。

 ハッと振り返った時、今まで人々の喧騒の中にいた筈なのに、辺りはすっかり鎮まり帰っていることに気がついた。

 いつの間に、自分は神社の裏手に来たのだろうと思った。その時、ニャーと猫の鳴き声がした気がした。


 そして、目の前にあの階段が現れたのだ。


 心乃香と別れて以来、一度として現れることはなかった。この階段に辿り着く為に、毎日神社に通っていたのだ。


 斗哉は迷うことなく、その階段を駆け登っていった。


 この階段は、あの世に繋がる道なのかもしれない。でも、それでもいい――彼女にもう一度会えるなら! 


 斗哉が階段を登り切ると、あの古びたお堂が目に入った。


 神社内では、お祭りが行われている筈なのに、この場所は嘘のように、鎮まり返っていた。


 次の瞬間、空が光り、ドーンと言う音が鳴った。花火が上がったのだ。


 一年前、神社で彼女と花火を見た時のことを、斗哉は思い出した。思えば、この時から始まったのだ。


(この場所でも、花火は見えるのか……)


 花火の光に照らし出される、辺りの景色を斗哉は見渡した。あの黒猫の姿は見つからない。


(さっきの鳴き声……アイツがここに導いたと思ったのに……)


 だがよくよく見ると、お堂の簀子廊下の上に何やら影が見える。


 斗哉は、吸い寄せられるように近づいた。そして――


 そこには一人の少女が横たわっていた。



つづく

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