第80話「三周目〜光〜」
彼女はいつも本堂の屋根の上から、眼下に広がる景色を眺めてた。飽きもせず眺めていた。
ボクはそんな彼女の膝の上に、ちょこんと乗る。彼女の膝は、ボクの特等席になっていた。
ボクが膝の上で微睡み始めると、彼女が優しく背中を撫でてくれる。
いつか、彼女もボクの前から消えるだろう――
その時は、ボクも彼女と一緒に消えてなくなりたい。
今度こそ一緒に消えてなくなりたい。
そしてもう二度と、生まれ変わりたくない。
――そう思っていた。
***
期末考査が終わった後、珍しく陸と将暉の二人に「来週、隣町のお祭り行かねー?」と誘われた。大体、こう言うことは将暉が立案するので、二人同時に声を揃えて言って来ることは、初めてかもしれない。
一年前の「告白ドッキリ」のことを思い出す。陸も将暉も、あの時のことは覚えてないのに、これは運命の悪戯か偶然なのかと斗哉は感じていた。
思えば一年前の七月三日、自分が賭けに負けなければ、将暉があんな内容の罰ゲームを、カードに書かなければ、陸がお祭りの情報を、持って来なければ……あの日、彼女とお祭りに行くなんてことは、絶対になかっただろう。
ずっと、このことを『後悔』していたが、今でも彼女に対して、酷いことをしたと言う反省はあるものの、このことがなければ、自分は『如月心乃香』と言う人間を、本当の意味で知ることはなかっただろうと思った。
それは今、彼女のことを忘れている人々と、何も変わらない気がした。
それを思うと、彼女に告白ドッキリを仕掛けたことも、彼女とお祭りに出掛けたことも、ドッキリを仕返されてショックを受けたことも、自分にとっては、すべて無駄ではなかったんじゃないだろうか?
彼女にしてみれば、大変迷惑な話だ。分かってる。彼女を傷つけたことも、取り返しのつかないことになってしまったのも事実だから。
(こんな方法でしか、近づけなかったなんて……本当、オレ最低だわ。大嫌いって言われたって仕方ない。何て身勝手なんだと、呆れられるだろう。――でも、もう『後悔』は無しだ)
***
暗闇に、ぼんやり浮かび上がる沢山の提灯の灯り。
何処か懐かしい祭りのお囃子。
屋台を楽しそうに回っている、賑やかな人々……
心乃香は生前、お祭りというものが騒がしくて大嫌いだったが、こんな風に、喧騒外からただ眺めているだけなら、お祭りも悪くないなと思った。
一年前、このごったの中を、男の子と浴衣で歩き回ったなんて、信じられないと心乃香は思った。
斗哉と出会わなければ、告白ドッキリの報復をしようなんて考えなかっただろうし、男子に関節技を決めることもなかっただろうし、誰かと二人で遠出するなんてこと、絶対なかっただろうなと心乃香は少し可笑しくなった。
すぐに、この世から自分は消えるだろうと思っていた。
自分を好きだと告げて来た、斗哉の言葉が本当だったとしても、それは一時のもので、いつかはその気持ちも、忘れて行くだろうと思っていた。
前に進んで行くために――
責めはしない。それが人間なのだ。人は『忘れる』ことができるから、前に進めるのだ……
嘘だ――
忘れられたくない。消えたくない。
消える――ということは、忘れらたことの証明なのだ。
自分が消える時、彼が自分を忘れた時なのだ。だから始めから、彼の告白を信じたくなかった。
だって、いつかは『裏切られる』かもしれないのだ。
愛だの、恋だのは特に移ろいやすい。永遠とは程遠い。だってもしそんなものがあるとしたら、浮気や不倫や離婚なんて、この世には存在しない筈だ。
だから始めから信じたくない。裏切られることが分かっているから。
そう考えると普通の「告白」も「告白ドッキリ」も大差ないのかもしれない。だってどうせ、最後には裏切られるんだから。
信じない……信じたくない。信じたくないのに……
(どうせ裏切るなら、私を早く解放してよ――)
その時、心乃香の体が光出した。
つづく
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