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第79話「三周目〜好きな人〜」

「はぁ⁉︎」と陸と将暉が、斗哉に詰め寄った。


 うるさっと、斗哉は思わず身を引いた。


「そんな、驚くことかよ?」


「いや、驚くって! お前にそんな『人の心』があったんか⁉︎」


「オレを、なんだと思ってるんだよ!」


「割と外道だと思うけど。斗哉、告って来る子、取っ替えひっかえだったじゃん……」


「クズだな……。本当にクズ」


「お前らに、言われたくないわ!」


 でも確かにそうだった。別に好きってわけじゃなかったけど、嫌いでもなかったし。斗哉は今までの自分の行いを、改めて冷静に思い起こした。

 

 付き合ってたら、好きになっていくものかと思っていたが、そうなることができなくて、それを相手に気づかれてを、斗哉は繰り返していた。


 今思うと、『告白』というものには、大変なエネルギーと勇気がいる。


 それが、自分もその経験をして今は分かる。

 今まで自分に向けられて来たその『勇気』を、自分は(ないがし)ろにして来たのだ。


 斗哉にその事実に、自分が許せなくなった、


「……そうだな。やっぱクズだな、オレ」


 陸と将暉は、再び顔を見合わせた。今度は陸が口火を切る。


「……で、その斗哉の好きな子って誰なの?」


 陸のその質問に、斗哉は軽く目眩を覚えた。


(そうだ……こいつらは『如月』のことを知らないんだ。元はと言えば、こいつらとの悪巧みのせいで、如月に告白したのに……二人はそのことを覚えてない)


「……お前たちの知らない奴だよ」


「?」と将暉が首を傾げる。


「学校の奴ではないってことか? 塾で一緒の奴とか……まさか、お前、ヤバイ人とかに入れ上げてないよな?」


 ヤバイと言われて、斗哉は可笑しくなった。


(確かにあいつ、ちょっとというか、大分ヤバイかも)


「告ったりしないの?」と陸が不思議そうに聞いて来た。


「もう、告った。でも、大嫌いって言われた」


「ハハ! マジかよ、ざまあー!」と将暉が笑い出した。「大嫌いって、何したんだよ」と陸が呆れて聞いて来る。


 確かにざまぁないなと、斗哉は笑みが溢れた。本当にざまぁない。


 気がつくと、斗哉の瞳から涙が溢れていた。その涙に、陸と将暉はギョッとした。


「……え? お前、何泣いてんだよ。……そんなに、マジだったん?」


 流石の将暉も、心配して聞いて来る。陸はもっと真剣だった。


「大嫌いって……何やったんだよ? そんな拒否られるって、よっぽどじゃん?」


 お前らがそれを言うのかと、斗哉は呆れて可笑しくなった。


「まさか、お前無理やり……とか?」

「そんなんじゃねーよ。でも、もっと酷いことしたと思う」


 項垂れる斗哉を見て、二人はからかう気分が、一気に削がれてしまった。


「謝ったりとか……そんなんじゃ、許されないこと?」


「許してはくれた。でも、もう……」


 そこまで言って、斗哉は再び感情が込み上げて来た。


「……会えない」


 その斗哉のただならぬ様子に、陸と将暉は、ただただ彼を見つめることしか出来なかった。


***


 重い空気を打ち消すが如く、将暉は口を開いた。


「……遠距離とか? まさか、相手人妻とかじゃねーよな?」


 斗哉はその将暉のぶっ飛んだ発想に、可笑しくて吹き出した。


「そんなんじゃ、ねーよ。……でも確かに、もの凄く遠い遠距離に近いかもしれない。会いたくても、もう会えないから」

 

 斗哉は言っていて、自分の言葉に虚しくなった。認めたくない。あの神主の「諦めなければ、いつかまた会える」という言葉を信じたい。

 でも、負けそう……挫けそう。信じたいのに……諦めたくないのに。


(会いたい……会いたいよ……)


 斗哉は、必死に心の中で呟いた。


 陸と将暉はそんな斗哉を、黙って心配そうに見つめていた。

 


つづく

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