前へ次へ
75/100

第75話「三周目〜残酷な世界〜」

 どのように帰ったか覚えていない――


 家に帰ると「黙って一泊するなんて、どこに行ってたの⁉︎」と母親が凄い剣幕でまくし立てて来た。

 晩酌しながら、居間のテレビで野球の中継を観ていた父親が「まあまあ母さん、男にはそう言う時があるんだよ」と(なだ)めに入った。


 その時、斗哉のズボンのポケットにしまっていたスマホから、着信音が鳴る。


『今度の土曜、三人で海行かね?』と言う、将暉からのグループメッセージだった。そのメッセージに陸が『OK』と返して来た。


 スマホから消えていた、二人のログが戻っている。後二人……誰が消えていたのか確認できなかったが、この調子なら、その二人の存在も元に戻ったのだろうと、斗哉は静かに思っていた。


***


 翌日斗哉は、記憶を辿り、如月家まで来ていた。正確には「如月家があった場所」だ。


 確かに如月家があったはずなのに、そこは空き地になっており、如月家があった形跡はなかったのだ。


 近所の人に尋ねたが、そこはだいぶ前から、空き地だったと言うことだ。


 もちろん、如月家の人がどうなったか分からない。心乃香はきっと「姉」は大丈夫と言っていたが、この分では、如月姉の存在も消えているだろう。


 心乃香が思っていた以上に、心乃香は姉のことを想っていて、またその姉も、心乃香のことを想っていたのではないだろうか?


 斗哉はふっと、可笑しさが込み上げていた。心乃香自身は認めないだろうが、彼女は自分と少しでも関わって来た人を、無意識下で大切に想っていた。

 陸や将暉に対してもそうだ。最後には結局、二人を許したのだ。


 間違いない。そうでなければ「悲しむみんなが痛々しくて、見ていられなかった」なんて言葉は出て来ない。


 人に傷つけられるのが、傷つけるのが怖くて、誰とも関わらない。だから、みんな本当の彼女を知らなかった。


 誰も知らなかった。誰も彼女を想わなかった――


 皮肉なことに、それが世界を平穏に戻した。如月家が消えて以降、斗哉の知る限り、誰も消えることはなかった。


『私が消えたって、別に世界は何も変わらないから』


 心乃香が言った通りに、世界は残酷なほど彼女を必要とすることなく、何も変わらず時は流れていった。

 


つづく

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」「今後どうなるの⁉︎」

と思ったら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで、もちろんかまいません。

ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。

何卒よろしくお願いいたします。

前へ次へ目次