第72話「三周目〜代償の肩代わり〜」
斗哉と黒猫は、始め心乃香が何を言っているのか、分からなかった。
だが黒猫の方は、次第に心乃香の言わんとしていることが、理解できてきた。
「心乃香がこの『代償』の肩代わりをするって言うの?」
心乃香は黙って頷いた。斗哉は二人が何を言っているのか分からず、二人を見つめた。
「『肩代わり』って、どう言うことだ?」
黒猫は、冷静に斗哉を見つめ返した。
「言葉通り、お前が今支払っている『代償』を、心乃香が代わって支払うってことだ」
(え? ……どう言うことだ、それは? 如月が代わりに支払うって……)
「言っておくけど、前のような代償だけでは済まないと思うよ。お前の存在自体消えるかもしれないし、斗哉のように、お前に縁のある人間が、ドンドン消えて行くかもしれない」
心乃香は黙って頷いた。
「……本当は、白の話を聞いてから、ずっと考えてた……」
斗哉は、二人が勝手に話を進めようとしているので、慌てて割って入った。
「ちょっと、待てよ! 如月がオレの代わりに代償を支払うって、どう言うことだって聞いてるんだ!」
「……既に心乃香はお前の代わりに、一度代償を支払ってるよ」
「⁉︎」
斗哉は、ますます訳が分からなくなった。
(既に一度? どう言うことだよ?)
「お前、初めて願い事をした時、車に轢かれて死んだんだ。『命』を代償に持って行かれちゃったから、時間自体戻せなくなった。……その『命』の代償の肩代わりをしたのが心乃香だよ」
斗哉は信じられないと、心乃香の方を見た。心乃香は俯いて、斗哉と目を合わせない。
(……うそ、だろ……そんな……)
「……如月、本当なのか?」
「……」
心乃香は何も答えない。黙って地面を見つめていた。そう言えばと、斗哉は思い出した。
七月十八日、心乃香が自分の家にやって来た時――
「……自分も時間を戻してもらったって、このことか?」
心乃香は何も答えなかったが、黒猫が代わりに「そうだよ」と答えた。
そう言えば、初めて時間が戻って目覚める前に『死んで逃げる気⁈ 卑怯者!』と自分に呼び掛ける声を聞いた。あれで目が覚めた。
(……どこかで、聞いた声だと思っていた。あの声の主は、もしかしたらと思ってたんだ!)
二回目に心乃香が消えていたのは、自分の大切なものが彼女で、自分から支払われた、代償なのではと思っていたが――
違う――彼女自身が支払った『代償』だったんだ。自分が「二回目」だと思っていた巻き戻しは、もう既に「三回目」だった。彼女が犠牲を払い、戻してくれたんだ。
そう頭によぎり、斗哉は頭がクラクラしてきた。
「……何で、そんなこと……オレの代わりに代償を支払うなんてこと、オレのこと、大嫌いなんだろ⁉︎ 何でそんなことしたんだよ!」
斗哉は感情がぐちゃぐちゃになり、吐き出さずにはいられなかった。
つづく
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